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悲劇の直前
遊牧民の子供、フィーロとユージンはいつものように草原を追いかけっこしていた。
息が切れると草っぱに転がり倒れ、体力が戻るとまた走り出す。
遊ぶモノの少ない二人には、これが数少ない娯楽だった。
「うん?」
ふと、フィーロは足を止めた。
先を走っていた金髪碧眼のユージンが振り返り、駆け寄ってくる。
「どうしたの、フィーロ?」
「何か、とんでくる」
フィーロは、青空の彼方を指差した。
赤い何かが空に浮いている。その後ろにもいくつかの点。
それが、段々と近付いてきている。
「……鳥?」
「ちがう。何だか、もっといやな感じがする」
短い黒髪が、ざわりと逆立った。
直感のままに、フィーロは住処であるテントに向かって駆け出した。
「あ、ちょっとフィーロ!?」
「ユージン、はやく。テントが、あぶない。とーさんかーさんに伝えないと」
「あぶないって――」
赤い点は塊に。
鳥なんかじゃない。
それは、禍々しく赤いドラゴンだった。
その口から、炎の球が吐き出された。
数瞬後、緑の大地が真っ赤に染まり、爆風で二人は吹き飛ばされた。