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作者:

 街は人で賑わい地下は淀む。だから下水は鱗を持つものには良い所、深いところにいる好物が食べられるから。

 木通は人の形をしながら、足に鱗を持っている。逆に木通の腕は木偶、動かせなければ感覚も無い二十センチ程のヒレが在るだけ。だから泳ぐ姿はさながら人魚、塵と糞の水に潜る。そして好物の蟲を口に加え陸に上がる。

 木通は満足げな表情をし、その口でムシャムシャと蟲を齧る。そして食べ終わった蟲の背骨を大切に家にしまう。背折れ魚も良く食べるが、木通はこの蟲の骨が好き。味はよくわからないが、白く綺麗で艶やかな、骨が木通は好き。

 この日も木通は蟲を捕りに潜ろうとしたが、なにやら御客賛が来た。御客賛は八つ足二手で胴長の、這って歩く蟲の人。

「ねェ、なん然てるの」

 とその蟲は云った。

「興味があるなら来てみる」

 と木通は尋ねたが蟲は苦虫を噛み潰した様な顔を然た。

「僕が入ったらおぼれちゃうよゥ」

 確かに水の中に居る蟲は皆泳げない、水中を這うだけ。だけど蟲たちは生きている、だからきっとこの蟲も大丈夫だろうと思い、なら連れて行ってあげようかと聞いたら、だけどどうやらこの蟲は、水の中では息が出来ないらしい。木通はそれが不思議。

 二人はお互いに興味があった。だから仲良くなるのも必然。蟲は屈曲と名乗った。屈曲はいつも糞を食っているらしい。糞は水に流れてくる。だから屈曲はどこから糞が流れてくるのかが不思議、でも今は木通の集めてる白い綺麗な棒の方が気になる。

「この棒は何」と屈曲は聞いた。それに対し木通は。

「綺麗だから集めてるんだ、ほら、口に咥えただけでも舌触りが気持ち好い」

と答えた、だから屈曲はそれも不思議、舌触りってなんだろう、不思議。試しに口に咥えてみたが、ただの棒、それを楽しそうに集める木通。

 後で聞いたら水の底にいる蟲の背骨らしい。木通がそんなに楽しそうに集めてる物が、自分にもあるのかどうか。

 仲の好い二人は一緒に暮らす。木通は水に潜り蟲や背折れ魚を食べて、屈曲はどこにでもある糞を食べて暮らす。

 木通は屈曲を食べようと思ったことは一度も無い。今となっては屈曲が居ないと木通は寂しい。屈曲も木通のそばを離れる気は無い、理由は木通と同じ。たまに木通が屈曲のために食べ物を持ってくる、だけど屈曲は食べない、食べても吐き出してしまう。柔らかい物ならと考え、水の底の糞を口に頬張り持ってきてあげると、屈曲、これは満足。屈曲も木通に何かしてあげたくなり、二手を利用し、ガラクタの流れ付く所で木通好みの光る鉄を持ってくる、これは木通も満足、ただ一寸重たくて顎が痛い。

 ある日屈曲に異変が起きた。皮膚が瘡蓋の様な硬い皮膚へと変わっていく、それに伴って、膿も大量に沸く。この時初めて木通は蟲が蟲を食べることを知った。次第に瘡蓋は体を埋め尽くし、屈曲はもう口がきけない。木通から糞を口移しで食べさせてもらう生活。屈曲は申し訳なかった。木通は、初めての友達の危機を前にして、出来ることと云えば、返事の無い屈曲に話しかけることと、糞を持ってくることだけだっだ。元々蟲は他の生き物に比べ短命で、食べられることが多い、それでも木通にとって、ただ一人の友人。諦めることは許されない。それから少し然て、屈曲は木通の前から姿を消した。もちろん木通は探す。慣れない陸を鱗の付いた足と木偶の腕で這うように歩く。それでも屈曲は見つからない。そして木通はガラクタ置き場によく屈曲が行っていた事を思い出した。

 すぐに向かうが屈曲は居ない。まさかと思い水に潜る。そしたら屈曲は底に居た。兎に角ず家に屈曲を連れて行く。その途中、水を吸って瘡蓋の剥がれた屈曲の皮膚を噛み千切ってしまうこと数回、途中糞を食わせようとして屈曲の体を汚すこと数回。家についても屈曲は目を覚まさない。それから数日、木通は屈曲を看病した。その結果、屈曲からは糞と腐敗臭が入り混じり、体は糞で汚れ、体は水に溶け、一回り小さくなったように感じる。そうしてようやく木通は気づいた、木通は友達を亡くした。

 木通は、今まで集めた骨を全部棄てた、そして屈曲を食べる、友達を食べる、という行為からくる嘔吐感を抑えながら、涙を流し、クチャクチャ食べる。噛み千切っているだけかも知れない、喉を通った気はしないが、木通は必死に屈曲を口の中に入れる。だけど屈曲の中に骨は無かった。

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