同盟
「とういうわけで、まずは作戦会議からはじめたいと思います」
二人きりの教室で俺と転校生は椅子に座りながら話しあう。
「まずは、お互いの自己紹介といきましょうか?」
「必要ある? それ」
いぶかしげな表情で顔をのぞいてくる転校生。
「いいでしょ別に。気分の問題さ」
強引に言葉をまとめ勝手に自己紹介を始める。
「神乃天下、神の住まう天上界の下にいる人間、つまりはただの人です。ちなみに序列は九百九十九位。底辺中の底辺。一ついい事を教えとくとこの学園だと俺ぐらい序列が低いとまったく相手にされないから便利だよ」
別にそんなこと聞いてないと言った表情、というよりジト目で転校生に見られた。
「ずいぶん卑屈に自分の名前をしゃべるのね」
「嫌いなんだ。名前も苗字もね」
「じゃあ何て呼べばいいかな?」
「お好きなように。アンタ、でも、オマエ、でも、別段苗字の神乃でも名前の天下でもクズでもウジムシでもサルでも馬鹿でも変態でもド低脳でも。ただし、天ちゃんと天くんとだけは呼ばないで。その呼び方は売り切れだ」
転校生は悩んだそぶりを一瞬だけ見せた。
「じゃあ、天下くんでよろしく」
「了解。じゃあ次はそちらの番ですよ」
俺が促すとやれやれといった風に頭を振りながらしゃべり始める。
「天上葵。わけあって、この中途半端な時期にこの学園に転校してきました。呼び方は名前で呼んで。私も苗字はあんまり好きじゃないから」
「うーん迷うな。呼び捨てにするのは嫌だし、さん付けも同い年って感じがしないしね。よし決めた。『葵ちゃん』で行こう!」
「ちゃん付けは無いでしょ!」
落ち着いていそうなキャラに似合わずあわてて反論してきた。
「いいじゃん。まだまだ少女で通るお年頃だろ。棺先生みたいな人にちゃん付けしてるわけでもないんだからさ」
別段それほど怒ることでもないと思う。葵ちゃんかわいいし、美人だし。
「気にしたら負けだよ。葵ちゃん」
「勝手に呼ぶな!」
ムキになって叫ぶが俺は気にせず呼びつづけることを決めた。
だって顔真っ赤にして叫ぶ姿が可愛いんだもん。やはり世の中可愛いは正義だな。
「まぁまぁ、気にせず行こうぜ。まだ本題にも入れてないしね」
そう言って、まだ納得してない葵ちゃんを無視して話を続行した。
「まずはルールについて詳しく知ろうか。俺まだルールについて詳しいこと知らないんだよね」
そういうと、葵ちゃんは黒板へ近づいて行きチョークを持ち、書道の先生並に美しい字でルールについて書き始めた。
その一 今回の生徒会長決定戦挙は、学校主催の正式な行事である。
その二 今回の行事では、生徒会長の決定と共に、序列の順位も変動する。
その三 今回の行事の優勝者は、強制的に序列一位とする。
その四 今回の会長戦はタッグ式生き残り形式とする。
その五 戦挙から前日までにエントリーすること。また、戦挙の一日前は戦闘を行わないこと。
その六 次に生徒会長決定戦挙の本番での細かいルールを記載する。
今回の会長戦では、失格となるのは、気絶者とルール違反者と負けを宣言した者とする。
今回の会長戦では学園での使用を認められている武器の使用を認める。また使用許可の出ていない武器を使用した場合失格とする。
タッグを組んだ片方が失格となった場合、もう片方の出場者も失格となる。
なお失格者を故意に攻撃した場合は攻撃した側が失格。失格者が失格を認めずに暴れた場合は会長戦終了後きついペナルティーを課す。
今回の会長戦では、首輪をしてもらい、その輪が警告音をだした場合、パートナーが失格したことを表す。その場合は速やかに撤退するように。また、参加者は首輪の中央が赤くなっているかどうかで、対戦相手が気絶しているかどうかを知ることができる。
けが人、失格者は戦挙管理委員会と救護班が、速やかに対処するので、生徒は気にしなくてもよろしい。
開始時刻は九時とし、それまでに首輪をしていない人間は失格とする。
また、今回戦挙を速やかに行うため、ジョーカーという存在を投入する。このジョーカーは参加者を無差別に、特に一か所に留まりなかなか戦闘を行なわない者を攻撃していく。ジョーカーに対し攻撃することは許可するが、ジョーカーに失格はない。つまり、気絶しても、怪我をさせ戦闘不能にしても、すぐさま治療され続行が許可された場合、再び攻撃を開始するため、諸君には逃げることを勧める。なお、ジョーカーは参加者が十組、つまり二十名になったところで退場してもらう。
またジョーカの退場と共にタッグ制ではなく個人戦へと移行する。その瞬間からタッグのパートナーの失格による失格は無くなる。
最終的に生き残った者が生徒会長となり、序列一位になる。
長々と長文を流暢に書ききると葵ちゃんはくるりとこちらへと振り向いた。
「『以上がルールであり諸君らの健闘を祈る』ってところまでがきちんとしたルールかな」
全文に目を通しながら、ふむふむと頭を悩ませる。
「わりと細かいんだね。まあ今日中にしとくことは参加申請ぐらいかな」
「そうね」
「じゃあ、次に葵ちゃんが知りたいこと何かある?」
取り敢えず俺が一番知りたかったことは知れた。次は葵ちゃんのリクエストに答えるべきだと思って質問権を相手に渡す。
葵ちゃんは葵ちゃんと呼ばれることを露骨に嫌そうにしながら、少し考えて
「この学園の序列上位の人間の顔と能力とあと、この学園の案内をしてくれないかな」
「それは構わないけど、序列上位者に関しては明日でもいい? 明日になると簡単に説明できると思うから」
「うん、構わないよ」
「それじゃあ、戦挙の参加申請しにいくついでに学園案内するよ」
俺は椅子から立ち教室から出ていき、葵ちゃんがその後に続いた。
「まずは、俺たちのいる一般教室。六階建てで一つの階に六つの教室だね。ほんで持って一般教室の向かい側にあるのが特別教室。まあ、理科室やら職員室やら各種委員会室なんかがあるよ」
「戦挙は敷地内全部使うの?」
「基本的にはね。ただ治療棟は近づいただけでダメだったはずだよ」
「了解したわ」
参加登録は学園の下駄箱でやっている。そこへ向かって俺と葵ちゃんは歩きながら話を続ける。
校庭や学校の敷地内にある林までが戦場であること。窓ガラスなんかは気にせずぶっ壊しながら戦ってもいい事なんかをひと通り話す。
一段落すると丁度受付場所まで辿り着いた。
「スイマセン。二年十組の神乃天下と天上葵です。登録してくれませんか?」
受付には戦挙管理委員会の実行部員がいて、覇気の無い俺とやる気まんまんの葵ちゃんに訝しげな視線を投げながら、用紙をこちらへ渡してきた。
「ここに、名前と序列書いてください」
「了解っす。チョチョイのチョイっと!」
好きじゃない名前を蛇が這うような字で書き上げ、葵ちゃんに手渡す。
「字汚な!」
「うるさいな。ほっておいてよ!」
自分でわかってはいても、いざ指摘されると一言ぐらい言い返したくなる。
「ちなみに聞くの忘れてたけど、この学園の全校生徒何人なの?」
「葵ちゃん含めて丁度千人だよ。序列千位さん」
転校生は例外なく序列最下位からスタートである。ちなみに新入生は新入生歓迎会という派手なイベントで序列が決定する。
「うるさいわね。明後日には一位になってるわよ。序列九百九十九位さん」
端にいる人間からは「なんてレベルの低い言い争いをしているんだ」と思われながら無事に登録用紙を提出した。
さてさて、次は本格的に学園を案内しましょうか。
「取り敢えず、学園を回るけどいいかな?」
「この学園の案内ついでに『天帝』に会いたいんだけど」
一瞬で空気が変わるのを俺は感じた。
まるで有名都市の観光名所のようにさらりと葵ちゃんの口から発せられた言葉は、あたりの空気を一瞬で氷つかせる。あるものは、凍りついた表情で必死に作業に取り掛かり、あるものはその場から逃げ去るように玄関から帰っていった。
さすがに葵ちゃんも空気が変わったことに気付いたらしい。俺に向かって疑問を投げかける。
「どうしたの?」
「別に? ちょっとばかし皆さん、トラウマを思い出したんじゃない?」
俺自身は気にするつもりもなく、葵ちゃんの前を歩き始める。
『天帝』、この学園の序列一位であり、この学園の最高権力者でもある。入学した当初から圧倒的な実力でまたたく間にこの学園のトップに踊りでた。その実力は国にすら認められており、この学園の中で『天帝』は常に畏怖と敬意の対象だった。
「ちょっと、それで『天帝』には会えるの?』
「さあ? あの人結構気まぐれだから、会えるときはあっさり会えるし、会えないときはずっと会えないからね」
俺は学園の最高権力者を妖精の様に言いながら、取り敢えず学園の外へ彼女を連れだした。
外は明るくサンサンとお日様が輝いていた。
「いい天気だね」
おそらく明後日までは天気も持ちそうである。
「取り敢えず、グラウンドでも行くのかしら?」
「まあね、まずは部活動でも見学しようか」
学生といえば、部活動に青春をささげるのがよくある光景。
それは普通とはとても言いがたいこの学園でも同じである。
耳を澄ませば、輝く汗を流す学生たちの活気に満ち溢れる声が、
「テメーらサッカー部が何様のつもりでグラウンドで練習してやがんだ? ああん?」
「ウッセーんだよ、テメーら野球部の方が場所取り過ぎなんだよ」
「やんのかよ!」
「やってやるよ!」
「「明後日までに首を洗って待っとけや」」
前言撤回、やっぱりこの学園は普通じゃない、殺気に満ち溢れる声が平然と飛び交ってた。
「あれ何?」
葵ちゃんが訝しげに見ている。
「毎年恒例のグラウンドの使用権を戦挙で決めるための儀式みたいなモンさ。勝ったほうがグラウンドを週四で使えるんだってさ。毎年ルールが違うから勝利条件を決めてたんでしょうよ」
この戦挙、実は個人戦のように見えてチーム戦であることが多い。年によってルールが異なるため確実に言い切れるわけでは無いけれど、多人数での協力が必要不可欠。つまり、部活のようなグループに所属することが生徒会長になるための必須条件のようなものだった。『天帝』が現れるまでは。
「葵ちゃん、よく見ておいたほうがいいよ。部活連中は団体行動に長けるからね。今回みたいなルールだとなおさら手強い敵になるよ」
「わかってるわ。数の力ってのもね」
そのまま、俺はグラウンドを遠目にみる。
話し合いと言うなのがんの飛ばし合いを終えた2つの部活の連中が、別れていった。
「俺も一応、仲間作りに動くかな」
この戦い本気で勝ちに行くつもりならば協力してもらえる人間がいるに越したことは無い。
ただ、問題もある。
「アテはあるの?」
葵ちゃんの冷たい一言が俺へと突き刺さる。
そうである。自分と組んでもらえる人すら見つからなかったのに、協力してくれる人が簡単に見つかるとは思えない。と考えるのが普通である。
「まあ一応はあるけれど。期待はできないかもね」
言葉を濁しながら、次はこの学園の代名詞である格闘技系の部活を見学しに行くべく武道館の密集地に歩いていった。
「いくつも武道館があるのね」
到着してまず初めに葵ちゃんが感想を述べる。まあそうである。グラウンドは大きいとはいえ一つだけしか無いのにもかかわらず、武道館は一つ一つが小さいとはいえ、各部活に一つ与えられるほど大量にある。
ちょっとは外の部活連中に分けてやってほしい。
「まあね、もともと武術を学ぶ連中が集まる学校だったしね」
武道館の中からも明後日に向けて最後の追い込みに励むべく、気合の入った掛け声が聞こえる。
熱気あふれる武道館をかき分けて、俺はある場所を目指し歩いて行く。
「ねえ、どこに向かってるの?」
「まあ友だちには挨拶しとかないとね」
ズンズンと進んでいく俺にやや不安気な表情で葵ちゃんがついてくる。
そしてすぐさま目的地に着く。
武道館自体はそこいらのものと変わらない。ただ、武道館の入り口に大きな看板が置いてある。そこには、剣道部と書かれていた。
「剣道部?」
少し戸惑った表情をこちらへ向けてくる。
「そうだよ。まあ、規模としてはそこそこ大きいし、優勝候補でもある」
武道館の中では血に飢えた獣すら逃げて行きそうな声が聞こえてくる。
「なんか一生懸命練習してるみたいで声かけづらいな」
面倒くさそうに俺が呟くと、背後から
「気にせず入ったら?」
いきなり声をかけられた。俺も葵ちゃんも全く気配を感じておらず、簡単に後ろを取られた。
武人が背後を取られるということは死に直結することに他ならない。俺はまだしも葵ちゃんは声をかけられた瞬間、腰に携えた刀に手をかけ振り向きざまに抜こうとする。
けれど、その手を俺が素早く掴まえる。
「簡単に抜かないでよ葵ちゃん。それと、挑発じみた真似はよしてくださいよ。九条九詩奈さん」
後ろを振り向くと。女性にしてはやや長身な人が胴着姿で立っている。
九条九詩奈と呼ばれた人物は笑いながらこちらを見て気さくに話しかけてくる。
「ごめんごめん、でもさすがに知らない人の前ではやらないようにしないとね。あやうく斬られちゃうとこだった」
よく言うよ。あんたなら簡単に対応できるだろう。
「誰?」
俺に右腕を抑えられたまま、けれど、刀の柄からは手を放さず、俺に向かって説明を求めてくる。
「ああ、紹介しておくよ。この剣道部の副主将で俺らと学年は一つ上で序列は九位、超強い人だよ」
紹介された九条さんは笑いながら、
「あんないい加減な序列なんて気にしちゃいけないよ」
「そうかな? これが本番だったら俺ら負けてるよ? あっさり背中取られたし」
「ひどいな。私が背中から攻撃するような人に見える?」
「目的のためなら案外あっさり取りそうだけどね」
お互い冷笑しなから言葉をかわしていく。お互い明るい口調ではあるが、近寄りがたい雰囲気がビキビキと出ていた。
「それで、目的はお友達に会いに来たの?」
「そうそう、ちょっとばかし明後日のことで相談が」
顔は笑いながら、訝しげにこちらをみてくる。
まあ当然といえば当然だ。学園の中でも最高レベルの実力を持つ神楽と一番仲いいのが俺のような屑である。可愛くてかっこいい神楽のファンにとって俺は目の敵である。
眼の前にいる剣道部の副部長も、剣道部最強の部員に張り付く害虫のことをよく思っていないのは明白だった。
「一つ釘を指しておくと、面倒な事にうちの部を巻き込まないでくれないかな。今年はうちの部をかなりいいとこまで行けそうなんだけど」
「まさか? 俺がアンタ達に不利益な情報を与えるわけないでしょ。神楽と俺は仲良しなんだぜ」
お互いの言葉に毒を含みつつ笑って話し合う。
「取り敢えず、神楽を呼んでくれないかな?」
「一つ言うと、今部活中なんだけど」
どうやら大分機嫌が悪い。
まあめんどくさいがしゃあないな。
「了解、じゃあ終わるまで待つから中に入って見学しても?」
「別段いいよ」
俺は未だに警戒を解かない葵ちゃんを引き連れて武道館の中へ入った。
すると俺の訪ね人はすぐそばにいた。
「ランニングお疲れ様です、副主将。すぐに主将が最後のミーティングをして今日は終わりです」
「わかった。すぐに行くよ。あと神楽くんのお友達だよ」
一瞬キョトンとした神楽も後ろにいた俺の姿を見つけると、満面の笑みでこちらに話しかけてくる。
「どうしたの天ちゃん! 武道館に来るなんて珍しい」
「色々と話したいことがあってね。取り敢えずお前は部活のミーティングに行ってこいよ。終わったあとゆっくり話そうぜ」
「うん、わかったよ。それじゃ副主将いきましょう」
二人はそのまま武道館の奥へと入っていく。
「ちなみに何を話すつもりなの?」
ずっと静かにしていた葵ちゃんが周囲を観察しながら話しかける。
「まあ、今回の戦挙はまじめに戦うってことを神楽に教えておくのと、ある時までお互いは戦わないって約束をしておこうと思ってね」
「何それ?」
綺麗な顔にシワを寄せこっちをみる。
「早い話、神楽が一番戦いたい相手が俺なんだよ。でも俺は最低でも個人戦になる残り二十名まで生き残らないといけない。神楽みたいな実力者に付きまとわれると非常にやりにくいから予め俺が予防線を張っとくんだよ」
「ふーん。そんなに強いの、彼?」
「頼むから昼見たいに誰かれ構わず喧嘩売らないでよ。決着を付けたいなら、本番の個人戦以降にどうぞ」
「随分消極的ね」
「慎重なんだよ。あいつ以外にも強い奴は一杯いるんだ。自分が生き残れる可能性を一%でも上げておくことが大事なんだよ」
今回のルールならば、圧倒的な実力があったとしても常に敗北の可能性がある。一番いいのは仲間をたくさん作ることがいいとは思うのだが、自分に味方してくれる友達を持つでなく、部活にも所属しているわけでない俺は幼馴染に最後の希望を持って不可侵条約を結ぼうというのである。
それに何より神楽と戦って無事に済むわけもない。
隣にいる葵ちゃんがどれほど強かろうと俺がやられたらゲームオーバだ。
そうやって本番が始まる前から色々とネガティブなことを考えていると、武道館で最後のミーティングが終わったのか部員たちの雑談が聞こえ始める。
「天ちゃん、終わったよ。話って何?」
神楽が武道館の入り口に立っている俺達に向かって可愛らしく顔をだす。
「まあ、そんなに大層な話でもないさ。すぐに済む話だからちょっと外まで付き合えよ」
「うちのエースを勝手に拉致るなよ。見、学、者?」
二人の会話を断ち切るように一人の男が、ひょっこり現れる。そこそこ長身だが武道を修めている奴にしてはやけに細かった。
何より目についたのは酔っ払っているのか常に体が左右に揺れていた。
「失礼しました。剣道部主将さん」
俺はすぐさま現れた男に挨拶する。彼は神楽の所属する剣道部の主将である。実力こそ神楽の方が上だと言われているが部員の誰よりも真面目であり、神楽自身尊敬していた。
「話があるならこの場でしていけよ。別段俺たちに聞かれて困る会話をするわけじゃないだろ」
中々痛いところをついてこられた。はっきり言えば神楽自身と不可侵条約を結ぶのが一番の目的。部員たちに俺のする話をノーと言われるとかなりつらい。
だが、
「分かりました。それじゃあ単刀直入に言うと、神楽!」
「何? 天ちゃん」
「明後日の戦挙、俺真面目にやるからさ最低でも個人戦へと移行する二十人になるまで俺をターゲットにしないでくれない?」
俺の言葉に神楽と端で見ていた主将さんは言葉を失っていた。
「だめ……かな」
「ちょっと待て待て、なんでお前が俺の部のエースに向かってそんな事頼む? というより、お前はたしか序列最下位の人間だろ。それが何を思って戦挙で勝ち残れると思ってるんだ」
いやいや、至極全う。正論過ぎる。
この場で俺が真面目に戦うということの本当の意味を理解しているのは神楽だけだろうしね。
で、当の本人である神楽は顔を俯けながらプルプルと体を震わしている。
「……とう?」
「えっ?」
「本当に本気でやってくれるの天ちゃん!?」
突然顔を上げ、瞳に期待を満ち溢れさせこちらを見る神楽。
「ああ、多少は頑張るから約束してくれないか?」
「……、こっちも一つだけ条件がある。ボクと戦うまで絶対に負けないで。それが約束できるならいいよ」
「……期待せずに待っとけよ神楽」
神楽の目を真っ直ぐ見つめ、いつものおちゃらけた表情ではなく、真面目な表情で返答する。
「おいおい、弐宮何勝手に決めてるんだよ! 第一こんな奴と不可侵条約結ぶことに何のメリットがあるんだよ」
「そちら側にメリットは無いに等しいけど、デメリットも無いですよ」
主将さんは慌ててまとまりかけた話を止める。
「例えばの話ですよ? あなた達が本気で戦挙で勝ち抜くつもりなら、味方はできるだけ多いほうがいいに決まってる。極端な話全校生徒を味方に引きこんで円満に話し合いができたならばそれであなたの勝利だからだ。別段あなた達の邪魔する気もないし、取るに足らない約定が一つできたくらい、敵が一組減ったくらいの気持ちで受け流せばいいじゃないですか」
「お前らを受け入れたことを知った奴が続々ときたらどうする? 何らかの理由が無ければ受け入れることは不可能だ」
どうやら主将さんは堅物らしい。
「ならどうすればいいですか? それとも話はなかったことにしますか?」
「それはダメです!」
俺の言葉に神楽がすぐに反応した。あいつもあいつでこのことが原因でヤル気をなくすのを恐れているのだろうか?
「まあ落ち着けよ、弐宮。俺も頭ごなしに断るつもりはないさ。ただ、こいつらが俺たちの強さに寄生するだけのクズかどうかを確かめさせて欲しいのさ」
「というと?」
「簡単さ。うで試しといこうぜ!」
やれやれ、めんどくさくなりそうだな。
面倒な事が一つ片付いた。
これから牛歩の歩みでがんばろう
感想いただけるとありがたいです。
基本的にルールも名前も上下逆天っていう作品に準拠してます。