一つの終わり
前に投稿した奴を色々と変更しもう一度書いてみました。
「大丈夫、天ちゃん!」
幼馴染に声をかけられる。
辺りを見渡すと、どうやら道場の端で横になっているらしい。
「大丈夫か?」
幼馴染の声とは違う、しゃがれた声で話しかけられる。
視線を動かすと、めったに道場には近づかない俺の祖父がいた。
どうなってるんだ。
ていうか、何で俺は道場で横になってるんだ?
俺はいつも通り、稽古後に神楽と試合をしてただけなのに。
いつもは、神楽に勝って、楽しく姉ちゃんの作った飯を食ってるはずなのに。
どうして、俺は道場の脇で倒れてるんだ。
「どうなって」
ぼやけた頭で状況を理解しようとする。
……いや、違うな。この瞬間、俺はきっと理解しないようにしてたんだ。
だって、今ならすぐにわかる。
神楽と戦ってて、一瞬気を失っていた。
これが導く答えなんて、ただの一つだ。
「爺ちゃん?」
体を起こし、普段は部屋に篭っている祖父に状況を聞こうとする。
すると、祖父はわかりやすく、一言で俺に答えを教えてくれた。
「動くな天下。お前は負けたんだ」
◇◇◇
「やはり、天下には無天流を継がすわけにはいかん」
「おじいちゃん! 天下はまだ小さいんだよ。決め付けるのは早すぎるよ」
「光、もうよしなさい。お前があの子の時には、もう気の『放出』までできただろ。あの子には才能が無いんだ。今のうちにやめさせておく方があの子のためだよ」
「おじいちゃんは、天下のコト何も考えてないよ。あの子がどれだけ、一生懸命剣に打ち込んでるか知ってるでしょ。そんな姿を見てやめろなんて言えるワケ無いでしょ!」
その夜、俺の姉と祖父が喧嘩していた。幼い俺には二人が喧嘩していることが悲しくて、喧嘩の理由が俺であることが辛かった。
「引き返すとしたら、今しか無いんだ。今のうちに剣以外のコトに興味を持たなければ、あの子はいつか自分に失望して取り返しのつかない事になる」
「どうして天下のことを信じてあげられないのよ! 天下は、あの子は強い子だよ。もう少し、天下を信じてあげてよ」
姉の声が弱々しくなり始め、泣き声が混じり始めた。
もう俺はいても立ってもいられなくなり、祖父と姉がいる部屋へ飛び込んでいった。
「爺ちゃん、俺剣辞めるからもう姉ちゃんと喧嘩しないで。俺はもうイイから。大丈夫だから」
本当は辞めたくなんて無かった。剣を振るっていく内に強くなっていく実感を得るのは嬉しかったし、剣術を通じて友達だって出来た。
強くなればなるほど、お父さんにも姉ちゃんにも褒められた。それが何より嬉しかった。
けれども、俺の得た強さなんて何の価値も無かった。
努力はあっても、一番大切な才能が無かった。
この世は平等では無いこと、努力が必ずしも実るとは限らないことを俺は学んだ。
「そうか、天下、わかってくれるか」
あと、この時の祖父のうれしそうな笑顔を俺は生涯忘れられ無い気がした。
ちょこっと訂正