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死処  作者: 詩音
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6話:共同生活



「……あ。」

 アサミさんの共同生活開始宣言の後。

「ねぇ、司馬。」

「何。」

 私と司馬はリビングにいる。

 絨毯の上に座る私。司馬は灰色の二人分座れるソファを占領して横になっていた。顔の上には推理物の文庫本が乗っている。


「ほら、コンビニがテレビに映ってる。」

 リモコンでテレビを指差す。

 画面には真面目な顔付きで局のリポーターがしゃべっている。テレビカメラなは他のリポーターも映っており、他局もニュースにしていることが伺えた。

「……まぁ、あれだけやればこれくらい騒がれて当然じゃない?」

「確かにね。」

 似たもの同士だと知り、初めて話してから数時間で私と司馬の親睦はそれなりに深まっていた。



「詩乃は何で死にたいの?」

 唐突な司馬の言葉。

「……なんとなく。司馬は?何で誰かを殺したいの?」

「俺もなんとなく、かな。子供のときから結構憧れてたし。」

「ふーん……。」

 私は立ち上がった。

「何、どうかした?」

「あの部屋行ってくる。」

 あの部屋とはアサミさんの趣味の部屋。

 また見たいという欲望が出てきたのだ。

「これ。」

「何?」

 毛布を投げられた。意図がわからずに司馬を見つめる。

「あの部屋寒いだろ。」

「……ありがと。」

 リビングを出て部屋までゆっくり歩く。

 おかしな話だが、こんなに同じ人と過ごすのは久しぶりだった。

 ちょっとした優しさがくすぐったい。







「はぁーっ……」

 アサミさんの趣味の部屋に入った。吐く息が真っ白だ。毛布にくるまって足を進める。

 彫刻のような腕達は何度見ても新鮮な気持ちにさせられた。




「また来たの?」

「――っ!!」

 いきなり話しかけられて、私は心臓が止まるくらい驚いた。

「アサミさん……」

「何だよ、幽霊見たような顔して。」

 アサミさんは鼻を少し赤くして笑った。

「このクソ寒い中よく来るな。」

 ハマったの?とアサミさんが聞いてくる。

「……いつからいたんですか?」

 彼の顔は真っ白だった。周りに並んでいる腕と同じくらい。

「五分くらい前。」

「その格好で?」

 毛布にくるまる私とは違い、アサミさんは白い長袖のシャツという薄着姿。

「うん。」

「風邪ひきますよ?」

 私は毛布を渡そうとしたが断られた。

「慣れてるから平気だよ。」

 何処が平気なんだろう。アサミさんが凍死しそうなくらい儚げに見える。私の目は末期症状なのだろうか。

「……そろそろ出ませんか?」

 このまま放っておいたら確実に彼は死ぬ。

「俺はまだいい。」

「じゃあ毛布くらい被ってください。」

 無理矢理毛布を頭に乗せて部屋から出た。






「……変な人。」

 コンビニでのあの狂気じみた目はもう見れないかもしれない。

 他人の殺生を気にしないアサミさんは自分の生死も気にすることは無いようだった。殺す以外は無関心、といったところか。


「もう帰ってきたの?」

 意外そうな顔の司馬に出迎えられた。

「うん、まぁ……」

 返答に困って言葉を濁す。

「司馬。」

「ん?」

「私は此処で死ねるかな。」

 これからに不安を覚えてしまった。

「……さぁ。」

 司馬はそれしか言わなかった。




「ただいま。」

「おかえり。」

「…おかえりなさい。」

 アサミさんは毛布をかぶって登場した。心なしか顔が青白い。


「司馬、ちょっと来て。」

「何スか?」

「良いとこ連れてってやるよ。」

 ニッと笑みを見せるアサミさん。司馬は眉間にシワを寄せつつ、アサミさんについていった。

「……。」

 残された私は、しばらくテレビを見つめていたが睡魔に負けて眠ってしまった。






「おい、詩乃。起きろって。」

 頬に指が当たる感触がした。プニプニ押されて目を覚まさない人間は少ないと思う。

「んー、何……?」

 眠い目を開かせぼんやり見える人影に尋ねる。

「大分寝惚けてんなぁ。低血圧?」

 アサミさんが笑っている。睡眠の邪魔をする犯人はこの人だった。

「あのさー、今からちょっと騒がしくなるけど気にすんな?」

「うん……。」

 眠気は消えず、アサミさんの言葉は半分しか聞いてなかった。




ドンッ!!




「!!?」

 一瞬で目が覚めて、音の方に走る。それは腕の部屋とは真逆の方向だった。

「何事ですか!?」

「あれ……詩乃?」

 そこにいたのは人型の的と、拳銃を構える司馬とアサミさんだった。

「……え?」

 状況の把握がまったく出来ない。

「気にするなって言ったのになぁ。」

「あー……」

 そういえばそんなこと言ってた気がする……私は両手で頭を抱えた。


「詩乃?大丈夫か?」

「……二人で何してたんですか?」

「司馬の願いを叶えてるとこ。殺したいなら方法を身に付けなきゃいけねぇだろ?」

「……成程。」

 だから私は呼ばれなかったわけか。



「アサミさん。これちゃんと的に当たらないんスけど。」

 銃の調子が悪いッス、と眉間にシワを寄せて司馬が呟く。

「馬ー鹿、お前にセンスがねぇだけだよ。」

 交互に的へ撃っている司馬とアサミさんの背中を私は座って見ていた。

 やっぱりアサミさんは撃ち慣れている。当てるのは必ず心臓付近だ。一発で殺すことにプライドがあるのだろうか。

 それにしても……

「……腹減った。夕飯にしねぇ?」

 この人なら何処までもマイペースを貫けると私は思った。







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