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死処  作者: 詩音
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4話:事件



「いらっしゃいませー。」


 疲れたなぁ……。

 レジに立って三十分。客はたまに来るが忙しくもなく、結構暇な状態。私は棒読みでレジ用語を言いながら外をボーッと眺めていた。


「詩乃ちゃん、商品並べてくれる?此処やっとくから。」

「はーい……。」

 店長の指示におとなしく従う。所詮バイトだし。

 彼はかなりの女好きで、今までバイトは若い女の子しか雇ったことがないらしい。趣味は競馬。今は金欠に悩んでいるという最悪に素晴らしい人間だ。


「はあ……。」

 店内にはガラの悪い男が三人と暇そうなサラリーマンが一人。

 むさっくるしいこの状況に自然とため息が出る。私はお弁当を並べるのに集中することにした。




「あ、いらっしゃいませー。」

 店長の声に顔を上げる。そこには木坂高校――県でも有名な進学校の制服を着た男の子がいた。

「……。」

 愛想笑いの店長を一度も見ることなく、男の子はこちらのお弁当の棚にやってきた。


「いらっしゃいませ。」

 一応言ってみた。彼はそれなりの頻度でよく来る常連さんだからだ。

「……。」

 勿論返答はない。真面目な顔付きで棚に並んでいるお弁当を選ぶその姿はなかなか面白い。

 それにしても……今日は客が多い。私は気分が下り坂になるのを感じた。




「いらっしゃいま……」

 店長はそう言いかけて止まった。

 私が入り口を見ると、真っ黒なコートと金髪が印象的な長身の男がいた。


「……コンニチハ。」

 ニッと笑った男は素早く黒い鉄の塊――拳銃を取り出した。




ドンッ……!!




 耳をつんざくような銃声。

「うわぁぁっ!!」

「ひぃっ!?」

 舞い上がる灰色の煙。客は驚きと恐怖の入り混じった叫び声を上げた。

「……。」

「……。」

 私とお弁当の男の子は状況についていけず、ポカンとしていた。

「何ビビってんの。まだ誰も撃ってねぇけど?」

 発砲した当人は平然と言った。天井を指差しながら。

 その場所をよく見れば小さな穴が開いている。さっきの発砲は脅しみたいなものだったようだ。


「も、目的は……?」

「決まってんじゃん、金。」

 銃口を店長に向ける男。前髪が少し長いせいで顔がよく見えないが、笑っているように感じた。

「あるだけ全部欲しいんだけど。」

「い、今すぐ……!!」

 慌ててレジの操作をする店長。そのとき―――



「あぁぁっ!!」



 不良三人のうちの一人が叫びながら金髪男に飛びかかろうとした。

「うっせぇな。」

 そう言った瞬間、金髪男の目が変わった。




ドンッ!!




「うぐ……っ!!」

 真っ直ぐ心臓部分を撃ち抜かれ、膝から崩れ落ちる不良。

 勢いよく血が吹き出して、コンビニの床を濡らす。金髪男の顔にも返り血がついた。それが彼の肌の白さを際立たせていた。

「深山!!」

「しっかりしろ……!!」

 仲間が駆け寄って声をかけるが本人である深山はピクリとも動かない。



「あーあ、死んじゃったね。あっけない。」

 つまらなさそうに金髪男は言った。

「……んだと?」

 不良二人のこめかみがピクッと動いた。怒りを露にしている証だ。そんなことを考えてる私は死んだ男をじっと見つめていた。

 心臓がどんどん高鳴っていく。恐怖ではない。私も殺されたいという、羨望の気持ちだ。

 レジの方を見れば、店長が腰を抜かしている。サラリーマンも見つからないように隅に隠れて震えていた。

 使えない奴ばっかりだ。横にいる男の子を見れば、じっと金髪男に視線を向けている。



「おい、人をそんな目で見んなよ。……殺したくなる。」

 笑みを浮かべた金髪男に震えたのは私だけだろうか。




ドン!!ドンッ!!




「がは……っ!!」

「……ッ。」

 不良二人も撃たれた。迷わず心臓のど真ん中に。

「ひぃぃぃっ!!!」

「……うぅっ。」

 目を背ける店長とサラリーマン。そんな中でも私と男の子は達観に近い状態でそれを見つめていた。


「あとは……」

 キョロキョロと顔を動かして金髪男はサラリーマンのいる隅に移動した。

 元いた場所は血の海になっており、金髪男の足跡を紅くしていた。

「や、やめてくれ……金なら払うから……!!」

 サラリーマンは汗だくで震えながらも鞄から財布を出す。

「くれんの?ありがとう。」

 それをおとなしく受け取る金髪男。

「じゃ……ばいばい。」

「え……」




ドン…ッ!!




「何、で……。」

 それがサラリーマンの最期の言葉だった。

 目の前でこれだけの人が死ねば、流石の私も吐気がする。

「……。」

 しゃがみこんで気分を落ち着かせる。それでも死にたい気持ちは消えなかった。

「く、来るな……近付くな!!」

 店長の叫びに顔を上げる。ハサミを振り回して威嚇している。

 冷や汗がダラダラ流れ、顔はぐちゃぐちゃだ。

「近付くなって……じゃあこれなら良い?」

 金髪男はレジとは反対側の方に歩き出した。距離は二十メートル以上。

 呆然とする店長に対して金髪男は銃を構えた。

「待っ……」




ドンッ!!




「っ!!」

 店長は背中を壁につけてずるずると崩れていった。

「……。」

「……。」


 数秒の静寂。



「お前ら、俺と一緒に来る?」

 銃をコートにしまい、金髪男は言った。

「え……。」

「……。」

 私の人生の、何かが変わろうとしていた。








 久々の更新です。

 なかなか書く暇がなくて進みは遅いですが完結を目指して頑張ります!!


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