3話:アサミ
自分に正直な殺人犯の始まりです。
初めて人を殺したのはいつだっけかな……。
「おっ、今日乙女座一位じゃん。」
トーストとコーヒーで朝飯を簡単に済ます。
男の癖に乙女座ってあたりが気分的には嫌な俺、アサミ。
「なんか良いことあるかも。」
俺は立ち上がって透明なケースを見つめる。中にはいくつものナイフや拳銃が並んでいた。勿論モデルガンなんかじゃない。
「今日はどれ使うかな…。」
本物の武器なのだから、持ってるだけでも警察沙汰だろう。俺はまだ一度も警察の世話になったことはないが。
「やっぱこれか。」
取り上げたのは一番手に馴染んでいる小型の拳銃。名前は…忘れた。とりあえず人を殺せれば良かったから。
「今日は運勢も良いっぽいし…」
例の計画でもやってみるか。
俺は黒いコートを羽織り、愛用の煙草をくわえて外へ出た。
電車に揺られること約四時間。乗換えは三回。その暇な時間、俺はなんとなく昔を思い出していた。
子供の頃の記憶で一番鮮明に残っているのは目の前で殺人事件を見たことだ。
殺されたのは俺の姉で、殺したのは俺の父だった。何故姉は殺され、父は殺す必要があったのか――今でもよくわからない。
警察に連れて行かれる父の背中を見たそのときから、俺は頭のネジが緩んだらしい。人が傷つくことや死ぬことに対して悲しむ気持ちが薄れるようになっていた。
今では自分が父を追い越して殺人を犯している。
この前も一人殺した。あの悦びと興奮の瞬間を分かち合えるのは、俺と同じ快楽殺人者くらいだろう。そんなことを思っている間に目的地に着いた。
「…ど田舎。」
俺は水田や林ばかりの田舎町に降り立っていた。駅自体も廃れていて、人の出入りもまばらだ。
俺は車を借りてエンジンをかける。
「さて、始めますか。」
無名に等しい田舎が有名になる大事件を。
これから起こることを想像し、俺は一人笑みを浮かべた。