2話:司馬
殺人に憧れを持つ少年の始まりです。ほんの少しですが読んでいて不快な部分があるかもしれません、ご了承ください。
この感情を、何と呼べば良いんだろう。
「だからこのχを…」
カリカリとペンの走る音と数学教師のデカイ声が響く。
俺、須賀司馬は黒板にびっしり埋まった数学の公式に飽きて、外を眺めていた。
「須賀!!」
「あ、はい。」
教室に目を戻せば、クラスメイトの視線と眉間にシワを寄せる教師の姿があった。
「ボーッとしてるとわからなくなるぞ。」
「…すんません。」
勉強なんか正直どうでもいいんだが。この学校はそれを許さない。
俺の通う木坂高校は進学校として県内でも有名だ。ど田舎であるにも関わらず、わざわざ県外から来る人間も多い。
「はあ……。」
そんなに勉強して何を得たいのか。
俺は顎に手を乗せ、眠る体制をとった。
逃げ惑う女。後ろを振り返るその顔は涙と汗でぐちゃぐちゃになっていた。
それを荒い息遣いで追い掛けるのは…俺だ。手にはサバイバルナイフを持ち、手ぶらの方は女に向かって伸ばされている。
「やめて…お願い助けて…!!」
泣き叫んでいる女に俺は笑顔でナイフを向けた。
「おい須賀!!」
「――っ!?」
思いきり肩をつかまれて目を覚ます。
そこにはクラスメイトの友人がいた。名前は覚えてない。最近知り合ったばかりだから。
「授業中寝るなんて余裕だなお前。」
苦笑いしつつそいつは言った。
彼は人懐っこくて、クラスで人気者だ。
その性格からか、比較的おとなしい部類の俺にもたまに話しかけてくる。
「今回の試験あきらめたわ。」
「嘘言え、前もそんなこと言って俺より成績良かったじゃねぇか。」
こういうところは意外と記憶力良いのに、勉強に使えないのがもったいないといつも思う。
「はあ…。」
クラスメイトが離れた後、俺は深くため息を吐いた。
もう少し寝てたら最期まで殺せたのに…。
こんな俺を誰かに話せば確実に引かれる。でも殺したい衝動を止める気が俺にはなくて、夢のことなのに興奮がなかなか止まらない。
再び眠る気にもなれず、仕方なく俺はくだらない勉学に励んだ。
「ふぁ…。」
大きな欠伸をしながら帰り道を歩く。
俺には小さいときから人を殺すことに憧れがあった。テレビドラマにそういうシーンがあると、瞬きもせず視線を集中させていたものだ。
両親はそんな俺の変化に気付くことはなく、今の俺の姿があるのはそのお陰だろう。仲の良い普通の息子として育てられたからだ。
「…夕飯…。」
今日は両親ともに不在で、夕飯がないことに気付いた俺は近くにあった馴染みのコンビニに入った。