16話:エピローグ
「詩乃、どこ行くの……?」
ガヤガヤと騒がしい学校の教室。立ち上がった私に友人が尋ねる。
「屋上。」
「あ、あたしも一緒に……!!」
「しないよ。飛び降りなんか。」
慌てぶりで意図がよく見える。私は冷たく言い放った。
「……。」
同情の視線を振り切り、私は屋上に向かった。
「あー、面倒くさい。」
この口癖も久々だ。思えば、アサミさんと会ってから一度も言ってない気がする。
いつものように合鍵で屋上に入る。
「……。」
アサミさんは私と司馬の前で死んだ。飾られていたたくさんの腕の上に倒れ込み、動くことはなかった。流れる血は止まることなく床を濡らし、鉄の臭いが部屋中に立ち込め、並ぶ腕達は全て折れ曲がっていた。
それから後は、あまり記憶がない。警察に介抱され、友人に泣かれても、私の心は上の空だった。
「はぁ……。」
息を一つ吐き出し、フェンスを乗り越え、建物ギリギリの場所に立つ。
司馬とは、一度も会っていない。会わない約束をした。会えば必ずあの人を思い出してしまうから。
警察の話では、アサミさんは精神的に病んでいたらしい。だからこんなことをしたのだと言う。……それがどうしたというのだ。
ほんの数週間過ごした間でも、私には彼がまともに見えた。彼を尊敬していたし、今も一番慕うのは彼だ。一緒に生活して、彼は確実に私や司馬の心をつかんだ。ただ、それを言っても誰も信じてくれなかった。
どうして人は、自分が正しいと思ってしまうのか。
これから私は、世間の人間に戦いを挑む。
「負ける気がしないよ、アサミさん。」
アサミさんの真実を広めるために、私はもう少し生きることにした。
死処は、まだ遠い――
いかがでしたか?暗い話でしたが何か心に残る作品だと思っていただけると嬉しいです。
長々と読んでくださり、本当にありがとうございました。