15話:ゲームオーバー
「何……言ってんだよ詩乃。」
「いい、殺って。」
「詩乃!!」
司馬の声が頭にガンガン響く。私は投げやりになっていた。
「ほら、撃てよ。」
アサミさんは精神的に司馬をどんどん追い詰める。
「うぅ……あぁぁっ!!」
司馬は叫び声をあげて銃弾を放つ。それは私の左肩をかすった。
「……っ。」
痛みより鋭い熱さのような感覚が私を襲う。膝から崩れ落ちた姿を見た司馬は拳銃を落とした。
「詩乃っ!!」
司馬が駆け寄ってくるが傷に触れることはない。
「痛い……。」
目頭が熱くなる。痛みもあるし、生きていて良かったと思ったのだ。
銃声がした瞬間、死ぬと感じた私はどうしようもなく震えていた。
死にたいと願ったはずなのに……どうしてこんなに震えるんだろうか。
「生きたいんだろ?」
「……アサミ、さん?」
私の気持ちを知ってか知らずか、彼は唐突に切り出した。
「存在否定されて死ぬことなんてねぇよ。むしろ笑い飛ばすくらいになれ。」
「……。」
「生きたいだろ?」
だらだら流れる血液を気にすることなく私は頷く。
「なら生きりゃいい。」
当たり前のようにアサミさんは言った。
「お前は此処で一回死んだ。それでいいだろ?」
いつものアサミさんに戻った。裏切られたときの憤りはもうない。
「司馬ぁ。」
「はいっ!?」
「人殺しは嫌だろ?」
辛さを堪えて司馬は頷いた。
「お前にゃ向いてねぇから、他の職探せ。」
「……はい。」
私同様、司馬もアサミさんに対する気持ちが元に戻ったらしい。
それはその瞬間だった。
「日向浅海!!」
黒っぽいスーツの二人組と警察官らしき人々がドアをぶち破って入ってきた。
「……コンニチハ。」
薄く笑うアサミさん。その表情は初めて会ったときと同じだった。
「何がこんにちはだ……。」
「ようやく見つけたぞ殺人鬼!!」
スーツの男達が口々に言う。おそらく刑事か何かなのだろう。
「殺人鬼なんて言わないで!!」
私の口は勝手にそう告げていた。それを聞いて此方に目を向ける警察。
「あれは……?」
「多分事件で誘拐された高校生ですよ。可哀想に……」
可哀想なんかじゃない。アサミさんは私と司馬に居場所をくれた。そう言いたかったのに、肩の痛みで叫ぶことが出来ない。
「じっとしてろよ……」
不安げな司馬の声が耳に入る。
「じっとしてなんかられないわよ……っ。」
悪態をついても体に力が入らない。目が霞みそうで、必死に頭を振る。
「高校生の一人は肩に怪我をしています!!」
「何!?」
「奴は拳銃を持ってる、きっと浅海が撃ったんだ。」
「違う!!あれは俺が……」
警察の言葉を訂正しようと司馬が口を開く。
「司馬ぁ!!」
しかしアサミさんがそれを大声で止めた。突然の声に驚いた司馬は言葉をつぐむ。
「アサミさ……何で……。」
「罪を、かぶろうとしてるの……?」
私のか細い声はアサミさんに届いたらしい。こちらに目を向けた。
「残念……ゲームオーバーだ。」
泣くような笑みを見せ、銃口をアサミさんのこめかみに当てる。
「アサミさ……!!」
私や司馬の制止より先に、一発の銃声が轟いた。