14話:裏切り
今日は私が命を終える日。
「ビビってねぇか?詩乃。」
「まさか。」
アサミさんから与えられた三日の猶予。私はずっと『生』について考えていた。
「司馬はどこにいるんですか?」
「色々と用意があんだよ。色々、な。」
「ふーん……。」
人はいずれ朽ち果てる。ただそれが早いか遅いかだけだ。
年老いてシワだらけで死にたくない。だから私は此処で死を受け入れることにした。最高の死に場所だと思えたから。
「このドアの向こうに、お前の望んだセカイがある。」
「……わかってます。」
私は唾を飲み込んだ。ドアにそっと手を触れる。
「良いな?」
「はい。」
ドアを開く。そこは相変わらず寒く、無数の腕が飾られていた。
違っていたのはただ一つ。
「司馬……?」
「……っ。」
震える手で拳銃を握る司馬がいたことだ。
「何……どうしたの?」
言葉の一つ一つに吐く息が白い。
「最後の仕上げだ。殺人犯としてのな。」
「……仕上げ?」
「アサミさん、やっぱ無理ッスよ……!!」
「これがお前の願いじゃなかったか?」
冷徹な声でアサミさんは司馬に言った。
「詩乃を殺すなんて出来ませんよ!!」
「……え?」
聞き間違いかと思った。否、聞き間違いであってほしかった。
「私を殺すのは、アサミさんじゃなかったんですか……?」
私の問いにアサミさんがせせら笑う。
「俺がいつお前を殺すって言った?誰も俺自身の手でお前を殺すなんて言ってないだろ?」
「……。」
確かにその通りだ。アサミさんは一度も私を殺すなんていってない。
でも私はどこかで信じていた。彼が私を殺すと。
「……っ。」
私は裏切られた。悔しさに顔が歪む。
「お前ら二人の希望を同時に叶えてやるんだ。悪い話じゃねぇだろ?」
「悪すぎッスよ……。」
司馬はうなだれている。私はアサミさんをじっと見つめていた。
「死にたい人間を殺すのは、趣味じゃないってやつですか?」
「いや?ただ単に思っただけだ。面白そうって。」
そうだ、この人はこういう人だ。自分の気持ちにけして逆らわない。
「司馬、今更何ビビってんだよ。」
ツカツカと足音をたて、アサミさんは苛立たしげに司馬に近付く。
「ちゃんと教えただろ?一瞬で死なせるには心臓のど真ん中に当てろって。」
司馬の腕を動かし、私の心臓付近に銃の照準を当てた。
「や、やっぱ俺には無理ッス!!」
司馬は拳銃を下ろそうとするが、アサミさんがそれを許さない。
「アサミさん……!!」
「早く殺れよ。」
射るような目付きで司馬に凄む。
「俺には出来な……」
「司馬。もういいよ。」
「詩乃……?」
私は薄く笑みを浮かべた。ただ唇の端は少しひきつっている。
「殺してよ。私を。」