12話:坂の終わり
「うわー、やべぇな。」
「どうするんスか?」
私が目を覚ましたら、真剣に話をしている司馬とアサミさんの姿があった。
「……どうかしました?」
「アサミさんがコンビニの防犯カメラに映ってたんだ。」
「……。」
司馬の言葉に私の思考回路は一瞬止まり、唸るような音をたてて動き始めた。
「それって、此処がバレるかもしれないってこと?」
「それだけじゃない、アサミさんが捕まる可能性だってある。」
「どうするんですか?」
カメラに映った当人を見れば、私や司馬よりも落ち着いているように見えた。
「しばらく一人で考えて良い?」
それがアサミさんなりの今の答え。断る理由もないので私と司馬はおとなしく了承した。
「悪ぃな。」
そう言い残してアサミさんはリビングから去っていった。
「どうなるのかな、私達。」
「さぁ……。」
ただ時間が過ぎていく。私達は同じような台詞ばかり繰り返していた。
「詩乃。」
「?」
「今でも死にたい?」
「……少し。」
私はこの短い期間の中で微妙に揺れていた。生か死か、時が流れるごとに悩むばかりとなっていた。
「良いわけ?そんな気持ちで死んでも。」
「……いずれ死ぬんだから、特に問題なし。」
「ふーん。」
嘘、ただの強がりだ。
「司馬は?殺人願望まだある?」
「……勿論。」
「決めた。」
その言葉と共に、アサミさんは現れた。
「……。」
「どうするんですか。」
「此処出る。長年住んでたから愛着あるんだけどな。」
感慨深そうにアサミさんは壁を掌で撫でた。
「喜べよ、お前ら。」
「?」
「何スか?」
「三日後、それぞれの望みを叶えてやる。」
それを聞いた瞬間、横で息を飲む音がした。勿論アサミさんではなく司馬だ。
「……本気ッスか?」
「俺がいつ冗談言ったよ?本気だ。」
三日後――私の命の終わりは決まった。
「詩乃。」
「……。」
「詩乃?」
「あ、すいませ……何ですか。」
それなりに動揺した私はアサミさんの声に反応するのが遅れてしまった。
「何がしたい?」
「え?」
「お前の終わりは三日後。それまで、どうしたい?」
「……。」
思考が上手く動いてくれない。
「自分の部屋に引き込もってもいいし、俺らの顔見たくないなら三日間外に出るけど。」
アサミさんが丁寧過ぎる説明をくれた。少し悩んだ結果――
「私は……いつも通り、過ごしたいです。」
最期までこのままでいたいと思った。
「了解。」
アサミさんは私の頭をポンと撫でてくれた。それだけで私の気持ちは穏やかになっていた。