白井君のこと
低学年の二部チームにいる白井君の父親は個人で宝石商を営んでいるらしい。
先の試合では白井君はサードを守っていた。
最終回にエラーが続いてノーアウト満塁となった時、監督は最悪一点か二点は仕方がないと考え、本塁フォースアウトではなく、ともかく近いところで確実にアウトを一つずつ取るように指示を出した。
そのあと、白井君の守る三塁後ろに小フライが上がり、皆まずはほっとしたのもつかの間、白井君はこのボールをおでこにぶつけてエラーしてしまった。おまけに拾ったボールを一番近いところと言われていたので、こともあろうに自分が抜けて誰もいない三塁に送球してしまい、走者一掃の大量点を取られてしまったのだ。
先輩白井君の訳のわからない守備にマウンド上で呆然とし、ボールを拾いに行くことさえも忘れる知春。味方のエラーが続いてもぐっと堪えていた知春の緊張の糸は、ここで一気に切れたといってもいい。
ところがそのあと二本続けてヒットを打たれた知春に対し、
「トモー! バックを信じてしっかり投げろー!」と的外れの応援をしたのは、白井君の母親であった。
その場にいて応援していた白井君の父親は、これはさすがにまずいと思ったのか、由華の立っている隣へ謝りにきた。
由華には意味がさっぱりわからなかったので、はいはいと応対するしかなかったが、白井君の父親は丁寧に謝ったあと、お詫びにアクセサリーを譲ってあげますと言ってきた。
「酒井さんにお似合いのブローチがあるんですよ。おもちゃみたいなものですが……」
そう言って白井君の父親は本当におもちゃのようなブローチ三つを由華の手を取り無理矢理渡してきた。
一つ目は磯浜の岩の陰にいる蟹を形取ったもの。趣味はお世辞にも良いとは言えない。
もう一つは目の大きいイカ。これは全くいただけない。どこかのスルメの乾き物の袋に書いてあるような幼稚なデザインだ。
三つ目に至ってはタコがハチマキをしている。これを見てさすがに由華は思った。
――これ、いったいどんなところに行く時に付けていけというの?
由華は掌を白井君の父親へ向けて言った。
「いえいえ、そんな。やめて下さい。私は何もしていませんから」
「要りませんか。そうですか……。やっぱり、安物ですものね」
「あっ、いえ、決してそんなつもりでは」
「じゃあ、貰っていただけますね?」
「はっ、はい。ありがとうございます」