レッドダイアモンズ
由華は野球の練習のある日曜日は、練習場所の学校の校庭や河川敷のグランドにまったく行ってあげることが出来ない。 日曜日はパート勤務先のスーパーの書き入れ時でほとんど休むことが出来ないからだ。
由華のマンションの隣には同じ時期に入部した二年生の和田順平君という男の子がいて、その子の母親がある日廊下で出会った由華に忠告をしてくれた。
どうやら夏場の練習はお母さんが順番でジャグジーや氷水、タオルなどを準備して、総出で選手である子供たちの世話をしているらしい。日曜日にまったく子供たちの世話が出来ない由華に対して、母親たちの不満がつのっていて、陰口をたたかれているというより、もう堂々と『悪口』が出回っているらしい。
「今度の日曜日、江戸川第四グランドで、低学年の二部チームの初めての練習試合があるんだけど、これには行って応援したほうがいいわよ」
低学年の二部チームという意味すら由華にはわからない。
由華は、和田さんにいろいろとチームのことを教えてもらうことにして、彼女を近くのお茶を飲む店に誘った。
レッドダイアモンズには三つのチームがあって、一つは高学年チーム。これは六年生と五年生で編成されているチームだ。公式戦では高学年の部にエントリーする。監督は橋爪さん。
二つ目は低学年のレギュラーチーム、つまり一部チームで四年生と三年生の一部からなるチームだ。公式戦では低学年の部にエントリーする。監督はこのチーム選手の父親の堂村さん。
三つ目は一年生から三年生までのチームで、これが和田君や知春の二年生がいる二部チーム。三年生のうちちょっと実力の足らない子と二年生が中心だ。公式戦にはエントリーしないが、個人的には一部チームとの間で入れ替えが行われることがある。監督は一部チーム選手の父親の青山さん。ヘッドコーチは知春と同じクラスで体験入部の時知春の後に投げた、鎌谷裕也君のお父さんである。
そして全体の監督は由華のマンション階上の増島さんだ。増島さんは高校二年と三年の時、茨城県代表の高校で甲子園まで行って出場した人だという。
次の日曜日の練習試合では、三年生の二部の子とこの春に入部した二年生が全員加わって他のチームと対戦する、いわば新結成チームのデビュー試合だ。
一部チームに昇格したい三年生、三年生になったら一部チームに入りたい二年生の子供たち。
その子供たちもさることながら、親のほうがかなり真剣である。
「試合に自分の子供が出るとか出ないじゃあなくて、ともかく応援や手伝いに行くことは必要よ」
和田君のお母さんは厳しい顔でダメを押した。
由華は、次の日曜日は、夏風邪をひいたことにして仕事をズル休みして応援にいくことにした。