お別れの時
今日の試合は今までと違う意味合いを持っていた。秋季大会は六年生最後の公式戦である。しかも、今大会、レッドダイアモンズは四連勝してとうとう七年ぶりに決勝戦に臨むこととなったのである。
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由華と知春の暮らすマンションは生前に夫の真吾が購入したもので、毎月の住宅ローン返済額は月十一万円ほどである。 パート収入しかない母子家庭にとってこの額はとても払えるものではなかったが、夫が購入したということもあって、実家から月々四万円の援助があり、これによってぎりぎり返済が賄われていた。
ところが、先月実家では義父が亡くなり義父の厚生年金や企業年金が義母の遺族年金に取って代わられ、実家はとたんに生活に余裕がなくなった。こうなると、由華としてもこれ以上実家の援助に甘えるわけにはいかなくなった。かといって、今マンションを売却しても、住宅ローンの残金と売却額には大きな開きがあり、新たに資金を借り入れない限りこれも不可能なことだった。
由華が困り果てていたところ、知り合いの不動産屋経営者から返済額に相当する月十一万円なら賃貸で借り手が見つかりそうだ、との話があった。由華にとっては有り難い話であり、またそれ以外の選択肢も見つからなかったため、由華と知春はもう少し田舎で安い家賃の住居へ移ることになった。
知春にとって、小学校の転校はあまり寂しいと感じられなかったが、約三年半野球をしてきたレッドダイヤモンズとのお別れは少しつらいことだった。彼は、どんなに試合に出れなくとも、一緒に練習をしてきたチームメートと最後まで野球をしたいと言う気持ちで一杯だった。
由華が知春を伴って青山監督に退部の申し入れをした時、監督は知春の寂しそうな目を見て、何かの意志でもって胸が一杯になるのを感じた。