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幼馴染のことは僕が先に好きだったのに

作者: 乃亜素
掲載日:2026/09/16

NTRではないです。

ご安心ください。

 僕の十七歳の誕生日の夜。

 部屋でごろごろしていると、インターフォンが鳴った。

 もしかして、と思いながらインターフォンのカメラを確認する。


 そこに映っていたのは予想通り、同い年の幼馴染のユキだった。

 長めの髪、あまり日焼けしていない白い肌。

 カメラ越しでも見間違えることがない見慣れた顔だ。


「はーい、今開けるね」


 返事をしてから玄関に向かう。

 期待していた気持ちを悟られないよう、深呼吸をしてからドアを開けた。


「よぉ、ユキ」

「こんばんは」


 学校の制服姿とは違う、部屋着のユキ。

 ユキの家はマンションの隣の部屋。

 この姿で互いの家を行き来することもあるので、見るのは珍しくもない。


「アキラ、誕生日おめでとう」


 ユキは手に持っていた綺麗に包装された箱を手渡してくる。


「あ、ありがとう、ユキ」

「学校では恥ずかしくて渡せないから」


 同級生の前でプレゼントを貰うのは、確かに恥ずかしい。

 後で冷やかされてしまうだろう。


「開けてもいい?」

「もちろん」


 ラッピングされた包装紙を破かないように慎重に開ける。

 

「破ってもいいのに」

「嫌だよ。せっかく綺麗に包まれているのにさ」

「アキラはこういう時はマメだよね」


 僕は繊細な作業は苦手。

 でも、せっかくユキからもらったプレゼントなので、包装紙も大事にしたい。

 少し悪戦苦闘したが、無事に破ることもなく包装紙を剥がすことに成功した。

 プレゼントはロボットアニメの主役ロボのフィギュアだった。

 僕が少し前に視てたものだ。


「うわ! かっこいい!」

「これにはまってたでしょ?」


 この作品はメインのメカアクションの素晴らしさはもちろん、キャラの恋愛模様の描写もしっかりしている。

 そのクオリティに男女関係無く話題になり、僕もドはまりして毎週リアタイで視聴していた。


「うん! すっごく嬉しい」

「喜んでくれて良かった」

「子供っぽい趣味でちょっと恥ずかしいんだけどね」

「好きなんだからそんなの気にしないでいいんだよ」


 ユキが優しく目を細めて笑った。

 僕はその表情を見た途端、心が『ドクン』と一拍強く鼓動した。

 うわ、顔が火照る感じがする。

 頼むから顔が真っ赤になっていませんように。


 ――僕は、この幼馴染のことがずっと昔から好きなんだ。



 ***



 僕の誕生日も過ぎ、特別でもなんでもない、いつもの朝。


「おはよう、アキラ」

「おはよう、ユキ」


 僕たちはだいたい一緒に通学している。

 夜更かしとかで朝に学校に登校するのは憂鬱になる人も多いと思うけど、僕はこの時間があるからいつも気分は明るい。

 それにいつもは自転車を使うが、本日は雨なので歩きだ。

 学校までは歩きだと三十分くらいかかる。


「雨だから面倒だね」


 僕はユキにそう言ったけど、内心では本当は嬉しい。

 自転車に乗りながらだと、危ないから会話はできない。

 歩きならばユキとゆっくり話をしながら登校できる。


「たまにはバスで行く?」


 ユキに提案された。

 僕たちの家から学校の近くまで行けるバスはある。

 バスに乗ると確かに楽だけど、せっかくのユキと一緒の時間が短くなってしまう。

 それに同じ高校の生徒も乗ってるし、会話も聞かれてしまうから、ちょっと避けたい。

 別に聞かれて困るような内容の話はしないけどさ、なんだか気恥ずかしいもんね。


「ユキはちょっと華奢だから、できるだけ身体を動かした方がいいよ」


 ユキの趣味は本を読んだり、映画を見たり、音楽を聴いたりするインドア系。

 だからなのか背は低くはないけど、身体は細身な方だ。


「むー、そうか……じゃあ歩くかな」


 ユキは少しだけ面倒臭そうな顔をしたが、すぐ諦めたようだ。

 身体を動かした方がいいという僕の指摘は、本音のカモフラージュではある。

 でも、それ自体も本当に思っていることなので、嘘ではない。

 ユキ自身も自覚はあるようで、納得したようだ。


「それに、あまり太りたくないしね」

「ユキが太るなんて想像できないなぁ。ずっと細いし」

「それがだねぇ。見えない所とかちょっとお肉がね……」


 全然、付いているようには思えないけど。

 でも本人が『見えない所』って言ってるので、服を脱ぐとそれがわかるのだろうか。

 想像してしまう。

 ユキの裸を……。


「アキラ? 顔赤いよ。熱でもある?」

「な、なんでもない。それより僕からしたらユキが羨ましいよ」

「何が?」


 慌てて逸らした話題に疑う事なく乗ってくれた。

 セーフ。


「ユキはユキなりに気にしているかもしれないけどさ、それでも細いからさ。僕ならすぐに太っちゃうな」

「アキラだって太ってないでしょ」

「僕のは陸上部で走り込んでいるから、これを維持できているんだよ。部活をやってなかったらどうなるか……」

「大丈夫だと思うけどなぁ」

「気休めありがと」


 雨で路面に水たまりがあちこちに有った。

 まるで小さな池のようになってる所もあったが、アスファルトのでこぼこで島のように水没していない部分が残っている。

 そこを足場にしてユキはリズムよく、水たまりを踏まずに先に進んで行った。

 僕はなんでもないその姿を見て、焦燥感を覚える。


 ユキは何でもそつなくこなす。

 成績だって僕よりずっといい。

 本当ならもっと上の学校に行けたはずなのに、『近いから』という理由で同じ高校を選んだ。

 大学までそうはいかないだろう。

 唯一体力こそ僕の方が上だけど、ユキは運動神経まで悪いわけではないので、真面目に打ち込まれたらすぐに追い付かれると思う。

 あいつはその気になればいつでも先に行ける。

 僕を置いて。


「アキラ、どうしたの? 水たまりが越えられない?」


 大きな水たまりの先で、ユキが振り向いていた。

 こっちの心情も知らないで、からかっているような表情。


「バ、バカにすんなっ! こんなの簡単だよ」


 僕は先で待つユキの所に追いつくべく、急いで水たまりを越えて行った。

 いつか置いて行かれてしまうかもしれないけど、せめて高校の時はこんな風にずっと一緒にいられたらいいな。

 ユキが楽しそうに笑う顔を見ながら、そんな事を願った。


 ――そして、そんなささやかな僕の願いは、後日打ち砕かれることとなる。



 ***



「……ユキ?」


 放課後の陸上部での練習中、校舎裏に消えて行くユキの姿を見つけた。

 距離はあるけど、僕が見慣れたユキの姿を見間違えるはずもない。

 一人でいるユキの姿を見かけたことなら気にしもしなかった。

 ただ、今はその後ろを歩く人がいる。

 制服を着ているので先生ではない。生徒だ。


 放課後に高校生の男女が校舎裏に歩いていく。

 楽しそうに横並びで歩いているわけではなく、片方が先に進んで、もう片方がその後をついていく。

 その雰囲気から連想するものとしたら、僕はひとつしか思いつかなかった。


「アキラ先輩、どこ行くんですか?」


 反射的に走り出してしまった。

 後輩に適当な嘘をつく。


「ちょっとトイレ!」


 小走りでいったん校舎に入った。

 真っ直ぐに校舎裏に向かってしまったら、もしその姿を他の部員に見られていたら不思議に思われるからだ。

 校舎の中を通って反対側に出て、ユキ達がいるであろう場所に反対側から向かう。

 たぶん、あそこの校舎の角を曲がったらいる。


「…………」


 息を潜めながら角に背中を付けて耳を澄ませる。

 ぼそぼそとして話し声が聞こえる。

 内容まではわからないけれど、片方は間違いなくユキの声だ。

 離れた場所から聞こえてくる吹奏楽部の演奏がうるさい。

 普段は上手だなと思っているが、今は本当に申し訳ないんだけど静かにして欲しい。

 僕の願いが天に届いたのか、演奏が止まる。


「ほ、本題なんだけど――」


 ユキではない。

 相手の声。

 緊張しているのがこちらにも伝わる上擦った声。


「好きです。付き合ってください」


 思わず顔だけで伺ってしまった。

 目に入ったのは数メートル先にいた相手の後ろ姿。

 あまり話したことはないけど知ってる。

 男女関係無く人気がある人だ。

 そして、背中越しに見えた赤らんだユキの顔。

 その視線がこっちを向き――


「……っ!」


 ユキと目が合ってしまった。

 その顔はびっくりしている。

 ああ、本当に心の底から驚いた時の表情だ。

 その場から全速力で逃げ出しながら、そんなことを思った。


 その後はあまり覚えていない。

 気付いたら自分のベッドに突っ伏していた。


 ユキに恋人が出来てしまう。

 ユキの隣にいることが出来なくなってしまう。

 ユキのことは――僕が先に好きだったのに!


 翌日以降、ユキと一緒に学校に行くことはなくなってしまった。

 学校でも話さなくなってしまった。

 廊下ですれ違っても目も合わせられない。

 ユキと距離が出来てしまった。



 ***



「ねぇ、アキラとケンカでもした?」


 家の前でアキラのお母さんと会った。

 夕飯の買い物にスーパーに行く所らしい。

 こんなことを聞いてくるということは、アキラは家の中でも普段通りではないんだろう。


「ケンカ……はしてないです」

「アキラ、最近全然元気が無くてね。家に帰ってきたらすぐ部屋に籠っちゃうの」

「あー、そうなんですか……」


 理由はわかっている。

 自分に非があるわけではないが、原因なのは間違いない。


「元気なあの子が塞ぎ込んでるとねぇ、調子狂っちゃうのよね」


 おばさんは溜息をつく。

 気持ちはわかる。

 自分もアキラと話していないここ数日で、それは十分に痛感した。


「アキラと話してみます」

「ほんと? 元通りになってくれるんなら助かるわ」

「今も部屋にいますか?」

「いるわよ。今日も暗い顔で帰ってきて、すぐに部屋に引っ込んでたわ」

「ちょっとお邪魔しますね」

「アキラのこと、よ(・)ろ(・)し(・)く(・)ね」


 なんか『よろしく』に違う意味も込められているような気がする。

 買い物に行くおばさんを見送り、アキラの家のインターフォンを押した。

 しばらく間があった後、応答があった。


『はい……』


 アキラの暗い声だ。

 昔からずっと聞いてるアキラの声だが、ここまで暗いのはあまり聞いた覚えがない。


「アキラ、少し話がしたいんだけど」

『……っ!』


 インターフォンのスピーカーからアキラの息を飲んだような声が聞こえてきた。

 それ以上の言葉は流れてこない。

 自分も続けて話すことはせずに、静かに待った。

 実際の時間は1~2分程度だと思うけれど、体感的には果てなく長い時間に感じる。

 今日はダメかな、と諦めようとした時にドアが開いた。


「何の用?」


 普段のアキラの太陽みたいに明るい顔が、今はどんよりと曇った雨模様の空のようだ。

 目は合わせてくれない。


「誤解、していると思って」

「……誤解?」


 怪訝な顔をされるが、対話を拒否まではされていない。

 これは自分の話の運び次第で、リカバリーできるかもしれない。

 覚悟を決めよう。


「ここでは何だから、部屋に入れてくれるか?」

「……入りなよ」

「お邪魔します」

「あ、お母さんはいないよ」

「知ってる。さっき会った」

「そう」


 アキラの部屋に入る。

 棚に有るのはマンガにゲームソフトにフィギュアなど。


「……あ」


 棚に自分がこの前のアキラの誕生日に渡したロボのフィギュアを発見した。

 埃が付かないように綺麗なケースの中に入れられていた。


「プレゼント、ちゃんと飾ってくれてたんだ」

「そりゃ……ユキに貰ったものだし」


 自分があげた物を大事にしてくれている。

 それだけで少なくとも嫌われてはいないということの証明になる。

 少し安堵する。


「それで何の用だよ」

「『告白』のことなんだけど」


 アキラがぴくんと身体を震わせ、続けて顔を伏せる。


「……ちゃんと今のことは伝えているの?」

「なんのこと?」

「付き合って間もない恋人が、幼馴染とはいえ異性の部屋に入るのは嫌だと思うよ」


 予想通り、アキラは勘違いしていた。

 自分がこの前された告白で、返事をOKしたと思い込んでいたようだ。


「ちょっと待って。付き合っていない」

「……え?」


 アキラは伏せていた顔を上げてこちらを真っ直ぐに見つめてくる。

 久々に目があった。


「付き合っていないんだ」


 大きめの目が驚きでいっぱいに開かれ、更に大きくなる。


「ちゃんと断ってるよ」

「えっ、えっ……な、なんで?」

「他に好きな人がいるから」

「好きな人?」

「うん」

「それって誰……?」


 当然この流れになるのは予想していた。

 覚悟はもうさっき決めておいた。


「この状況なら何となくわかると思うけど――俺の好きな女の子はお前だよ、アキラ!!」



 ***



 ユキが顔を赤くしながら発した言葉の意味が理解できなかった。

 言葉自体はちゃんと聞き取れている。

 でも、その意味が理解できない。


『俺の好きな女の子はお前だよ、アキラ!!』


 これだとユキの好きな子って僕ってことになってしまう。

 英語のテストの文章訳で、答えに自信がない時みたいだ。

 それとも僕は夢を見ているのかな?


 部屋の中を見回す。

 見慣れた風景。

 マンガの本棚、ゲーム機、フィギュア。

 壁に掛かってる制服とスカート。

 うん、紛れもなく僕の部屋だ。

 じゃあ、目の前に立ってるユキは幻覚?


「アキラ」

「うわ、喋った」

「そりゃ喋るよ……で、返事は?」

「へ、返事……」


 頭の中がぐるぐるして、考えがまとまらない。


「あ、あの……びっくりしてその……」


 ユキは口を挟まずに黙って待ってくれてる。


「……う、嬉しいです。よろしくお願いします……」


 何とか素直な気持ちだけは絞り出すことができた。


「……はぁーーーーよかった」


 ユキがほっとしたように息を長く吐いた。

 そしてペタンと床に座り込む。

 何でも器用なユキだって、気を張る事があるんだ。

 そう思うと、自然と口元が緩んだ。


「ふふ……」

「何笑っているんだよ」

「あのね……ユキのことを僕が先に好きだったのに……先に告白されちゃったなぁと思って」

「先に好きだったって、いつからだよ?」


 いつからと言われたら難しい。

 自然と好きになっていた。

 でも、この気持ちを自覚したのは――


「小学生の頃にはもう……」

「ふっ」

「なんで笑うんだよ」

「俺が……アキラのことを好きになったのは幼稚園の時からだ」

「そ、そんなに早くから?」

「俺の方が先だったな!」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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