拝啓 なぜかあなたの妻になってしまったエリーゼより 愛と憎しみを込めて
拝啓 顔しか知らない旦那様へ
あなたの妻になったと両親から聞きました、エリーゼと申します。
どうして私をお選びになったかはわかりませんが、正気でしょうか?
病弱のため幼少期より施設に隔離され、特定のお医者様と世話役しか入れないこの場所で、両親とすら面会できないというのにどうして私は結婚したのでしょうね。
いくら私が閉鎖的空間にいて、外の世界と馴染みがないからといって、あなた様の方がよっぽど非常識ではないでしょうか?
体が弱いからといって、心まで弱いと決めつけられるのは癪に触ります。
弱いから従うと思ったら大間違いです。
こんな屈辱、薬が合わずに連日吐き続けた時以来です。
絵姿だけ寄越されても困りますし、そもそも筆をとるのだって私からしたら一苦労なのです。
これ以上、迷惑かけないでいただきたいです。
顔がいいだけなんて、つまらなすぎです。
お飾りの妻が欲しいにしても、せめて隣に立っていられる方をお選びになることをお勧めします。
速やかに離縁ができることを望みます。
あなたの妻になぞなってしまい悍ましいエリーゼより
敬具
拝啓 顔しか知らない名前も呼びたくない旦那様へ
私の治療費を支払う代わりに、私との結婚をお望みになったとのことですが、気持ちが悪いですね。
人の弱みにつけこめば、なんでも手に入るとお思いなのでしょうか?
自由な人はいいですね、あ、これは嫌味ですよ。
たしかに両親には苦労をかけてきました。
私には伝えられたこともないですし、手紙にも書かれたことはございませんが、我が家はとても裕福というわけではございませんのでしょう。
私の治療費も、本当はもう支払えないのかもしれません。
だからといって、あなた様に払っていただく理由もございません。
もう支払えず、治療ができないというのなら、そこが私の運命なのです。
死を受け入れるのも、また人生であり、それらはすべて私のものであり、私に決定権がございます。
あなたに生かされながら延命していくなど、耐え難い怒りが湧いてきます。
どうか、私のことは放っておいてくださいませ。
一刻も早い離縁を望みます。
迷惑を一身に受けているあなたの妻エリーゼより
敬具
拝啓 気味の悪い旦那様へ
この隔離空間には植物などは入れられないと知っていて、わざわざ薔薇を送ってくるのは嫌がらせでしょうか?
世話役の方がわざわざ庭にまわって、窓越しに見せてくださいました。
他の方の手間や仕事が増えますので、金輪際やめていただきたいです。
私のみならず、私によくしてくださる施設の方にまで迷惑をかけるというのならば、いよいよ許せません。
これ以上の迷惑行為を受けた場合は、あなたの絵姿にナイフを突き立ててボロボロにして送り返して差し上げますね。
さぞ喜びに満ち溢れるでしょうね、私が。
どうせ性格の悪い娘を嫁にもらうのではなかったと思い始めているのでしょう?
閉鎖空間で思考まで歪んでしまった不細工だと。
病弱の娘なら、さぞ儚くて従順そうだとでも思ったのでしょう。
残念でしたわね、理想通りにいかなくて。
気弱でいたら、苦しい発作も、痛みの伴う治療も、こんなことして意味があるのかしらと思う絶望も、乗り越えられないのでございますよ。
生き延びるのに必死な人間は、心くらい強くないとやっていけないのです。
そうやって、私やここにいた友達は、生きてきたのです。
あなたにはきっとわからないことでしょう。
速やかな離縁成立を楽しみにしております。
あなたのことが嫌いな妻エリーゼより
敬具
拝啓 不可解な旦那様へ
私の友達が気になるとは、どういう了見でしょうか?
先日のお手紙で、たしかに『私と友達はそういう風に生きてきた』といった内容を書いたのかもしれませんが、それの何が気になるのでしょう?
それこそ、あなた様には関係ないことでございましょうに。
私にも、友達くらいいたのですよ。
彼がもう生きているのか死んでいるのかすら、私には知り得ないことですけどね。
この施設にいる若者たちに、未来への希望など大してないのです。
互いにもう死ぬのかもしれないと思いながら、この施設でそっと息づいているのです。
隔離された部屋のガラス越しにしか顔を合わせたことのない相手のことを、友達と呼ぶなんてと、きっと多くの人には言われるのかもしれませんね。
それでも、私たちは紛れもなく友達でした。
あの頃は、まだ私の症状も今ほどひどくなかったので、この施設内の子ども同士の交流に、それこそ手紙を通じて混ぜてもらっていました。
彼も、そのうちの一人だったというだけです。
そして、私が発作を起こして隔離されている間に、彼がこの施設からいなくなっていた。
それだけの話でございます。
誰も彼の話をしなくなったし、お医者様も世話役の方たちもその後のことをお話にならないのだから、私より先にいってしまったのかもしれない、ただのそれだけのことです。
この施設では、ごく当たり前のこと。
これ以上、余計な詮索をなさらないでください。
私は、きちんと明記いたしましたので。
もういい加減、離縁してくださいませ。
苛立ちで体調が悪くなったらあなたを呪おうと思っている妻エリーゼより
敬具
拝啓 一発ぶん殴らせてほしい旦那様へ
この施設に会いに来るとはどういうことですか?
私は面会謝絶の身です。
書類上は夫婦かもしれませんが、あなたがこちらに来るのは不可能です。
もう疲れたので、二度とふざけた内容の手紙を送ってこないでください。
私も、もう長くないと思いますので。
今すぐにあなたの書類上の関係もやめたい妻エリーゼより
敬具
拝啓 信じられない大馬鹿の旦那様へ
本当に、どういうことか一から説明してもらっていいですか?
あなたがあの時一緒に施設に入院していた文通相手だったなんて信じられないですし、驚きすぎて私がポックリ逝ってしまったら、間違いなくあなたのせいですからね。
その際は、せいぜい悔やんでくださいね。
大体ね、あなた生きていたのなら、そう言いなさいよ。
とっくにこの世から去ったものだと思っていたわ。
この施設に滞在できるくらいなのだから、どこかのお金持ちの子だとは思っていたけれど、私の両親より身分の高い相手だとは思わないじゃない。
だって、ここにいる子たちは、みんな秘匿された存在なのだし。
貴族にとって病気の子どもは隠したいものだと、私もここにいるみんなも、納得できないけれどわかっている。
だから、私たちはお互いを知っているようで、どこまでも遠い他人であり、唯一分かち合える心の奥が繋がってしまった相手。そうでしょう?
だからってね、勝手に結婚するのは、やっぱりどうかと思うわ。
あなた手術がうまくいって自由になったのなら、それこそ謳歌しなさいよ。
過去の友達になんて、縋ってくるんじゃないわよ。
ちょっと見損なったわ。
まあ、あなたが本当にあの時の男の子かなんて、証明できるようなものはないのでしょうけど。
本当に不愉快ね。
さっさと一緒に未来を生きてくれるお嫁さんを探しなさい。
もうあなたに振り回されるのは懲り懲りの妻、昔の友エリーゼより
敬具
拝啓 やっぱり一発ぶん殴らせてほしい旦那様へ
窓越しで結婚式をしようって、本気?
あなたって、知らぬ間に正真正銘のお馬鹿さんになってしまったのね。
なんだか、悲しいわ。
私はもうここ半年はベッドから降りられたことはないから、そもそもドレスを着るのだって難しいわよ。
疲れるし、辛いし、治療以外で苦しいのは嫌。
窓の向こうだって、ほぼ雑木林なのに。
私が昔言ったウェディングドレスを着てみたいって言ったことを、今更叶えようとしてくれなくていいのよ。
あなたにだって、あなたの人生があるんだから、もうやめてね。
あとね、これが証拠だって魔法写真まで使って、手術跡を送ってくるんじゃないわよ。
普通に引いたわ。
それでも仕方ないから、死ぬまであなたの妻でいるっていうのは妥協してあげるわ。
それでいいでしょう?昔の友達のお願いを聞いてあげるのだから、そっちも友達のお願い聞いてよね。
あなたがもし、あの時の友達なのだとしたら、生きててくれたことが嬉しいからね。
私なりの快気祝いってことにしとくわ。
では、また調子のいい日に筆をとります。
仕方なくあなたの妻になったエリーゼより
敬具
了
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