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8 おとなしすぎるよ
翌年4月、あたしは社会人になった。スーツは動きにくく、歩くとパンプスが靴音を立てた。職場で最初に云われた。
「分からないことがあったら、何でも聞いて」
あたしは頷いた。ただ、どこまでが〈分からない〉ことに含まれるのかは、誰も教えてくれなかった。
最初の評価面談は3か月後だった。
「真面目だよね」
直属の上司は資料をめくった。
「仕事も丁寧。ただ、ちょっとおとなしすぎるかな」
その言葉はどこかで聞いたことがある。新しい言葉ではなかった。
「もっと前に出てくれてもいいと思うよ」
あたしは頷きながらメモを取った。内容よりも文字を書くという行為が必要だった。同期の中には、失敗しても目立つ人がいた。叱責されても、名前は覚えられていた。あたしは失敗しなかった。だから評価は悪くない。でも改善点はある。それはいつも同じだった。
〈おとなしすぎる〉
仕事に慣れてきた。新しい業務が増えても、混乱はしない。誰に何を聞けばいいか、分かっていた。会議では全体の流れも見えている。誰が発言し、誰が黙るか。どこで話題が逸れ、どこで収束するかなど…。あたしは発言しない。でも要点は整理してある。
「助かるよ」
そう云われることが増えてきた。評価は相変わらず安定している。




