7 ま、いっか
大学4年の春、就職活動が始まった。会社説明会に出て、エントリーシートを提出する。
「あなたらしさを教えてください」
その問いにあたしは困らなかった。もうすでに準備されている。
真面目。協調性がある。縁の下の力持ち。どれも嘘ではなかった。ただ、どれもあたしひとりのものではなかった。
面接ではよく頷いた。質問を最後まで聞き、言葉を選んで応えた。
「落ち着いていますね」
面接官は安心したように微笑む。あたしもにっこりと口角を上げた。
グループディスカッションではまとめ役になった。意見が対立すると、間を取り持ち、誰かが黙ると、次の話題へ話を振ったりした。終了後、学生同士で言葉を交わした。先頭に立って話していた男性が笑顔で話し掛けてきた。
「いやあ、うまく回してくれたねえ。助かったよ」
でも名前を呼ばれることはあまりなかった。
内定の連絡はメールで届いた。簡潔で丁寧な文章だった。採用理由は書かれていなかった。
「総合的に判断し、採用といたします」
第一志望の企業ではなかったけど、それで十分だった。
両親に内定をもらったことを告げると、母は安心した顔をして喜んでくれた。
「そう!よかった!よかったじゃないっ」
父も笑顔を向けた。
「よく頑張ったな」
その夜、ノートを開いた。大学の章以来、久しぶりだった。
日付。場所。出来事。企業名。
《採用された。でも第一志望ではない》
意味がないことに気が付き、定規を当てて、文章の上から二重線を引いた。
「ま、いっか」
来週、第一志望企業の面談があるが、もうこれでいいよ。ペンを置いてから、しばらく考えた。
社会に出るということは、選ばれ続けることなんだと、当時のあたしはそう考えていた。
ノートを閉じた。もう学生ではないんだから。




