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あたしは扱いやすい人なんだ

 大学では自由だった。誰もあたしのことを知らず、誰も過去を持ち出さなかった。ゼミでグループワークをすると、自然と資料作成や纏め役を任された。

「あなた、こういうの得意でしょ?」

そう云われると、否定する理由がなかったし、実際、得意だった。

「ええ、ま、得意ってことはないけど、資料纏めるだけなんだったら…」

あたしは頷きながら微笑んだ。資料提出の締切は守られ、その内容も整っており申し分なかった。グループのメンバーから感謝された。

 その後の飲み会では、隣に座った人の話を聞いた。相槌を打ち、適切な質問も行った。グループリーダーがビールジョッキを持ったまま、あたしの横へやってきて笑いかけてきた。

「今日は助かったよ」

「ん?なに?どうしたの?」

あたしは振り返って首を傾げた。あたしには何を助けたのかよく分からなかった。

「提出した資料は完璧だったし、今日のこのコンパだって、うまく進めてくれているじゃないかあ」

「そう?だったらよかったじゃない」

「うんうん、そうなんだよね。あ、そうだ。今度また、みんなでディスカッションしろって教授から云われている原論講義があるだろ。あれってさあ…。俺、ちょっと時間がなくて…」

あたしは黙って聞いていたが、その口ぶりから資料を作ってほしいと云わんばかりだった。

「いいよ。やってほしいんでしょ?」

助かると云いながら、テーブルに額がが付くほど頭を下げたあと、両掌を顔の前で合わせて笑った。

日付。場所。出来事。ゼミ名。グループリーダー名

《役割を与えられ、拒否しなかったが、その評価は曖昧だった》

あたしは知らないうちに〈扱いやすい人〉になっていた。それは努力の結果でもあると同時に、選択の結果でもあった。



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