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5 名前を憶えてくれない
高校では、誰もあたしを特別視しなかった。それは、ある種の救いだった。クラスは40人近くいて、入学当初、副担任の教師はあたしだけではなく、生徒の名前をよく間違えて生徒たちからも笑われていた。
「えっと…」
出席を取るとき、先生はあたしのところで一瞬止まり、次の子の名前を呼んだ。
「いますっ!」
あたしは手を挙げたが、先生は気づかなかった。このクラスになって2週間以上経っているのにまだ間違っている。しかしそれはもうあたしだけだ。それが1度ではなく、2度、3度になったとき、さすがにクラスメイトたちも小さく笑ったので、訂正しようかと思ったが、しかしそのまま看過してしまった。
「ま、いっか」
心の中でそう呟いていた。名前を正確に呼ばれなくても、成績には影響しなかったので、結局あたしのなかでは「ま、いっか」だった。
日付。場所。出来事。高校1年の副担任名。ノートにはこう書いた。
《今日も正確に呼ばれなかった。今日2回目。でも訂正しなかった》
その下に、1行だけ足した。
《別に困ってはいない。名前がなくても、あたしは存在しているんだから》




