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4 この先間違いなく損をする
中学生になって制服を着るようになった。
鏡の前でネクタイを結ぶのだが、きれいな形に上手に結べない。母に手伝ってもらった。
「真面目すぎるのよ、あなたは」
母は微笑んでくれた。褒めているのだと思った。少なくとも悪意はなかったはずだ。
クラスでは特に問題は起きなかった。目立たず、提出物も遅れずに出していた。だからこそ、先生から呼び出しがあったとき、その理由が分からなかった。三者面談だった。
「娘さんはほんといい子なんですよ」
「ありがとうございます」
母はちょっと照れたような顔つきで頭を下げた。あたしも少し微笑む。担任も笑顔を見せながら続ける。
「でも、ちょっとおとなしすぎるんですね。もっと自己主張しないとね、この先、間違いなく損しますよ」
母は何度も頷いていたが、あたしは机の木目をじっと見つめていた。学校からの帰り道、母はあたしに言い聞かせるように呟いた。
「先生の云う通りね。先生はあなたのためを思って云ってくれているのよ」
その日の夜、紺色のノートを開いた。日付。場所。出来事。中学1年の担任名。
《私に問題はないはずだ。でも何か足りないらしい。ちょっと傷ついた》
〈傷ついた〉と書くのは、大げさな気がして消しゴムで消した。この章は短く終わった。母が守ってくれている。その事実がその言葉を書くことを鈍らせた。




