13 信じたかった
ノートには書かれていない出来事がある。それはあたしがこれまでに経験したなかで、最も言葉を失った出来事だ。
大学4年の秋だった。第一志望の会社で最終面談を終えた帰り道、あたしは駅までの道を少し遠回りして歩いた。面談は悪くなかった。質問にはすべて応えたし、面接官は何度も頷いていたことも覚えている。最後には丁寧に頭を下げてお礼の言葉までいただいた。形式的な言葉だと分かっていても、あたしはそれをそのまま受け取った。
結果は1週間後に来るはずだった。しかし2週間経っても、連絡はなかった。3週間目になって、あたしはたまらずメールを送った。件名は簡潔に選考結果についてのご確認とした。翌日、現在確認中のため、今しばらくお待ちくださいとの返信があったが、それからさらに1週間後、正式な不採用通知として、定型文のお祈りメールが届いた。あたしの名前は正しく書かれていたが、名前以外にあたしを特定する情報は何もなかった。もちろん不採用理由も書かれていなかったし、問い合わせ先も記載されていなかった。あたしはそのメールを何度も読み返した。どこかに、あたしだけに向けられた文章が隠れていないか探した。しかし、それも空しく、”今後のご活躍をお祈り申し上げます” の文章で、きれいに閉じていた。
その夜、紺色のノートを開いた。日付を書こうとして、ペンが止まった。何を書けばいいのか、分からなかったのだ。日付、場所は分かる。出来事も説明できる。しかし、あたしに向けられた行動で何をされたのかが書けなかった。傷つけられたとは思えなかった。ただ選ばれなかっただけだ。世の中ではよくあることだった。あたしは何も書かずにノートを閉じた。
信じたかったのだと思う。悪意がなかったこと。あたしが排除されたのではなかったこと。だから書かなかった。




