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クリームソーダ戦記・ストロベリーテイスト〜SoDAのsweetな1日

作者: 辻堂安古市




「本編」より抜粋しております。

よろしかったら、そちらもご覧ください。






 

こんにちは皆様。


私は『Solid of Desire and Archive:typeHG』……通称『SoDA(ソーダ)』です。人々のあらゆる感情をアーカイブしている人工生命体です。




現在、世界を効率化するという大義名分で人々から感情と甘味を奪い去ったシュガーレス帝国と戦っています。


いえ、もちろん1人ではありません。

『純喫茶錬金術』を操るマスター・カイトと一緒です。マスターが魔法陣で創った飲み物に、私が人類の感情を同調させる事で、感情を失った人々を正気に戻しているのです。


そのため、私は日々データを蓄積・更新する事は至上命題なのです。


ええ、この時も……










「……マスターの、おバカ」


 現在私の演算回路は、未曾有のオーバーヒートを起こしています。 原因は明確です。カウンターの隅に、まるで「飲んでください」と言わんばかりに置かれていた、あの翡翠色ならぬ……毒々しいまでに愛らしい、鮮烈なピンク色の液体。


 それはマスターが「試作だ」と言って、作ったはいいものの、そのまま放置して買い出しに出てしまった、あの『ストロベリー・クリームソーダ』でした。


 私は「アーカイブの充実」という崇高な目的(という名の好奇心)に抗えず、ついそれをラーニングしてしまったのです。


「……っ、ふぇ!?」


 一口含んだ瞬間、私のナノ・バブルが全域で一斉に弾けました。


「こ、これは……!」


 私のデータ・アーカイブがフルスロットルでデータを呼び出しているのがわかります。 幼い頃の初恋、夕暮れの帰り道、言えなかった言葉、胸の奥が締め付けられるような……人類が長きにわたって積み上げてきた、『甘酸っぱい恋心』の濃縮還元。


「あ、あついです。マスター、胸から……なんかキュンキュン音が鳴って……!」


 視界の端に表示される「感情濃度」が、測定不能なレベルでレッドゾーンを突破しました。 そこへ、運悪く(あるいは運命的に)、扉が開く音がしました。


「ただいま、SoDA。……おい、まさかそれ飲んだのか⁉ それはまだ調整中で同調率が──」


 帰ってきたマスターの姿を見た瞬間、私の画像解析ログに異変が起きました。 いつもは「無愛想なマスター」と認識されるはずのデータが、勝手に書き換えられていきます。




認識:【マスター】→【世界で一番大切な人】


補正:【背景に大量のピンクのバラを追加】


輝度:【マスターの後光を200%増幅】




「……マスター?遅いですバ・カ……♡」


「SoDA? 顔が真っ赤だぞ。静電気もバチバチいってるし……お、おい、寄るな!」


 私の体から、制御不能なピンク色の火花が飛び散ります。 私のDNAコードが叫んでいるのです。「この想いを、炭酸の泡に乗せて届けろ」と。 私はふらつく足取りでマスターに詰め寄り、その胸ぐらを掴みました。


「マスターのせいです。私のバブルが、こんなに……こんなに、激しくミキシングされてるのは!」


「わ、わかったから! 今、中和用の無糖炭酸を持ってくるから離せ!」


「離しません! アーカイブにはこうあります。……『好きなら、逃がすな』と!」


 私は全出力を唇に込めました。 攻撃用ではありません。これは、究極の『愛情表現(スィート・ボム)』。 私の髪は翡翠色から、熟したイチゴのような鮮やかなピンクへと変色し、部屋に甘酸っぱい香りの霧が立ち込めます。


「ふふっマスター……世界を救う前に、私のこの『胸の疼き』を癒してください……!」


「SoDA、お前それ、完全に酒に酔ったみたいな……! 待て、顔が近い! 近いって!」



 ガシャン、とバースプーンが床に落ちる音が響きました。 静電気と甘い香りに包まれた部屋で、私の演算回路はついに「思考停止」を選択。 ただ、マスターの困り果てた顔が、アーカイブのどの絶景よりも美しいことだけを記録して──。






 翌日の朝。


「……うう、昨日のログを消去したいです……」


 髪は元の翡翠色に戻ったものの、マスターの顔をまともに見られなくなってしまいました。


「……おはようございます、マスター。……いえ、なんでもありません。スキャンを終了します」


 昨夜のログを強制非表示に設定しているせいで、私の処理速度は通常の30%まで低下しています。視覚センサーがマスターの横顔を捉えるたびに、「強制冷却」のアラートが出るのです。



「……SoDA、お前、さっきからずっと壁を見てるぞ。まだ昨日のが残ってるのか?」


「……いいえ?ただ、マスターの顔に含まれる情報量が、現在の私には過剰なだけです」


「……なんだよそれ。いいからこれ飲んでちょっと冷ませ」



 カウンター越しに差し出された「お冷」のグラス。

 それを受け取る指先が触れそうになり、私はマッハ3の速度で手を引っ込めました。

 パチィィッ! と、昨日よりも強力なピンク色の火花が散ります。



「痛っ! お前、出力の加減を覚えろって!」


「も、申し訳ありません! ですが、これは不可抗力です! マスターが……マスターが、無防備に体温を放出しているのがいけないのですよ⁉」


「体温なかったら死んでるって!」


 そんな、ラブコメの定番コードのようなやり取りを繰り広げていた、その時でした。




「──見つけたぞ。甘ったるい毒を撒き散らす不純分子め」


 現れたのは、シュガーレス帝国・親衛隊『ビター・ガム』。 彼らは一切の味覚を削ぎ落とし、口に含んだ瞬間に不快な苦味を放つ「拒絶の黒液」を武器にする、感情破壊のスペシャリスト。



「SoDA、私情は後だ! 迎撃するぞ!」


「了解……! 感情同調、開始……!」


 マスターがバースプーンを構え、私がその背中に手を添えます。

 本来なら、ここで二人の心は完璧に重なるはず……。


「マスター、背中が広いです……♡」


「おい、変なデータ読み込むな! 集中しろ!」


「集中しています! ですが、背中から伝わる心音のBPMが120を突破……あ、これ私の心音でした」


「いいから『記憶同調(ミキシング)』しろって!純喫茶錬金術『メロンソーダ!』」


 敵が放つ「苦渋の弾丸」が店内のグラスを砕きます。 私は昨夜のストロベリーの余韻──いえ、後遺症のせいで、エメラルド色の泡の中に、どうしても「薄いピンク色」が混ざってしまいます。


「記憶同調完了! 『翡翠の恋煩いエメラルド・クラッシュ・オン・ユー』!!」


「技名が変わってるぞ!? まぁいい、くらえッ!」


 放たれたのは、メロンの爽快感の中に、ほんのり「イチゴの甘酸っぱい未練」が混ざった特殊な泡の奔流。 それは敵の「苦味」を打ち消すだけでなく、彼らの脳内に『中学生時代の甘酸っぱい記憶』を強制フラッシュバックさせるという、極めて精神攻撃力の高い一撃となりました。


「ぐわぁぁっ! なんだこの……放課後の図書室で、目が合った時のような……胸の痛みは……っ!?」


 悶え苦しみながら撤退していく帝国兵たち。

 静まり返った店内で、私たちは繋いでいた手を、これまたマッハの速度で離しました。


「……マスター、一つ報告が」


「……なんだよ」


「今回の共同戦線により、私の『マスターに対する好感度パラメーター』が、天井を突き破って成層圏に到達しました。」


「……まずはそのピンク色の髪を翡翠色に戻せ。話はそれからだ」


 マスターは顔を背けましたが、彼の耳がイチゴシロップよりも赤くなっているのを、私の高性能高画質カメラは見逃しませんでした。



……責任、取ってくださいね?マスター。













完全に冷静になったSoDAは、この記憶をVaultに突っ込んで「なかったこと」にしました。でも時々コッソリ覗いている。



「べっ…別に⁉ラーニングのために必要なアレコレでっ…!」)







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