2話 グレイセス屋敷を襲撃
その日の夜。アリシアは明日、迎えに来るアレクと一緒に行くために当面の生活に必要な物を大きな皮のバッグに詰めていた。
「明日はアレクが迎えに来る……屋敷は今、造っているってことなので、当面はアレクの屋敷で一緒に生活することになる……でしたわね」
そう呟いたアリシアはレースの付いた赤い下着を手に持って固まる。
だが、すぐにそれをタンスに戻して顔を真っ赤に耳まで染めた。
「私ったら何を考えていますの!? は、破廉恥ですわ!!」
私は下着の詰まっているタンスの奥に追いやると、肩を揺らすほど大きく深呼吸をした。
しかし、少し冷静になって再び下着の詰まっているタンスに手を突っ込む。
「……でも、もしもということも……ありますわよね………………もしもに備えるのも淑女の嗜みですわ! 赤と黒と……あっ、でも、かわいい系の下着の方がアレクが好みの場合も……ピンクと白なども入れておきましょう!」
私は下着を何枚か大きな皮のバッグに詰めていると、何やら鳥が窓の外で騒いでいる。
昔から私は周囲の変化や未来を察するような不思議な感覚があった。
窓から外を覗くと、月明かりに照らされて輝く銀色の甲冑に身を包んだ武装した兵士達が屋敷の植木や物陰に隠れて集まってきていた。
「これは大変! 早くセバスチャンや使用人達にしらせませんと!」
私は大急ぎで一階にいるセバスチャン達の元へと走った。
一階にいたセバスチャンを捕まえて、耳元でささやく。
「……セバスチャン。落ち着いて聞いてください。今、屋敷を武装した兵士達に囲まれています」
「何ですって! お嬢様は二階に隠れていて下さい。旦那様と奥様には私がお伝えします!」
「いえ、きっと私を狙ってきた刺客です。私がこの屋敷を離れて敵の気を引きますから、その間に逃げて下さい」
私がそうセバスチャンに言うとは今までにないような怒りの表情で私を見た。
「お嬢様。もう二度とそんな話はしないで下さい……次にそのような話をされますと、私はお嬢様を許せなくなります。そんな事より早く行動を起こさなければ!」
「ええ、ごめんなさいセバスチャン……ありがとう」
私が申し訳なさそうにセバスチャンに言うと、セバスチャンは普段通りの優しい表情で微笑んだ。
(ありがとうセバスチャン。私が間違えてました……私だけが犠牲になればと思っていたけど、もしもセバスチャンが同じ事をしたらきっと私も怒ると思う……)
そんな事を思いながらセバスチャンの存在の大きさを再確認していた。
私は屋敷中の人間に声を掛けて皆が武器になりそうな物を持って最上階の部屋に集まると兵士達を待ち構える。
ちなみに私はゴルフクラブを選んだ……
二階の寝室のドアにバリケード代わりに椅子やタンスにベッドなどありとあらゆる物で扉を塞いだ。




