婚約破棄されました。5
それから数日後。私の屋敷に手紙が届く……
まだ早朝は肌寒く窓には霜が付いている朝霧の中でドラゴンの鳴き声が響き、私はベッドから飛び起きて慌てて階段を駆け下りる。
「お嬢様。お嬢様宛にお手紙が届いております」
「セバスチャン。その手紙の差出人はどなたですの!? いや、いいですわ! 私が自分で確認します!」
手紙を裏返すとそれはアレクからだった。私は執事からその手紙を受け取ると、自室に戻って封を切って早速その内容を読む。
『
アリシア・グレイセス嬢。この度、我が正式にエリサンドル王国に書面をしたためた。16日にお前を迎えに行くと伝えてある。
エリサンドル王国と我がアポロノーゼス帝国は隣国で昔からの交流も盛んだ。王国と帝国の絆を一層深める為にもこの婚約はエリサンドル国王も喜んでおられる。
お前達の住む屋敷もすでに建設を始めている。できるまでは我が屋敷で一緒に一緒に暮らすことにはなるが絶対にお前に不自由はさせない。
屋敷が建設された後、グレイセス公爵と公爵夫人にも迎えの馬車を出す。大きな荷物などはその時に一緒に運んでくれ。
別れてまだ数日しか経っていないのにお前の事が頭から離れず、まるでこの手紙を書いている時間も永遠のように感じるほどだ。
16日が待ちきれない。先に遣いをそちらに送る……身支度を調えて待っていてほしい。
アレク・ノーゼス 』
手紙を読んだ私は飛び跳ねて喜びたい思いをぐっと抑えて、受け取った手紙を胸に押し当てる。
「アレクが明日、私を迎えに来る……もう、夢みたいですわ! 早く明日にならないかしら!」
「お嬢様。まるで昔のお嬢様に戻られたように最近は笑顔が増えましたね……このセバスチャンも自分の事のように嬉しく思います」
セバスチャンは瞳に涙を浮かべながら、そう言って涙を手で拭う。
* * *
その頃、王城の王子の部屋では怒号が響いていた。
「どういう事だこれは! 父上は何を考えている! 仮にも俺の元婚約者だぞ! それを隣国の冷徹な氷雪皇帝に売り渡す!? これでは俺があの悪名高いげせんで野蛮な竜を従える冷徹で残忍な氷雪皇帝よりも酷い奴のように世の中に思われてしまうではないか!!」
感情を露わにして机を叩くクリスに隣にいたエリネットが寄っていった。
「可哀想なクリス王子……これでも飲んで落ち着いて下さい」
エリネットはコップに入ったオレンジ色のジュースをクリスに渡すと、それを一気に飲み干したクリスの表情は急に穏やかになる。
「ああ、すまない。エリネット……優しいのはお前だけだ。ずっとお前は俺の側にいておくれ……」
「はい。クリス様……でも、アリシア様にも困ったものですね。わたくしへの侮辱した事だけでは飽き足らず、元婚約者のクリス様に恥をかかせるような事まで……いっそのこと、消してしまってはどうですか?」
「……消す? そうだな……アリシアが消えれば俺の面目は保たれる……それがいい! そうしよう!」
クリスはドアの側に立っている近衛兵を呼び付ける。
「はっ! お呼びでしょうか?」
「我が私兵を使い今すぐにグレイセス公爵の屋敷を襲撃しろ!」
「しかし! それでは私達が国王様に処罰されます!」
クリスはそう言った近衛兵に部屋の隅に積まれたオレンジ色のジュースの入った瓶を指差した。
「お前も美味しい思いをしてきたはずだ。後で盗賊の仕業でもなんでも言い訳などいくらでもでっち上げる事ができる……大丈夫だ。お前達には迷惑は掛けない」
「……はい。分かりました!」
そう言って近衛兵は足早に部屋を出て行った。
「アリシア・グレイセス……俺を裏切るなど絶対に許さないぞ……絶対にだ!!」
クリスは邪悪な笑みを浮かべならがエリネットがコップに注いだジュースを飲んだ。
* * *




