婚約破棄されました。4
「もしかして……アレク?」
「…………ピクッ!」
私の足を固定していた彼の体が動いて、私の顔を彼の綺麗な顔がまじまじと見つめる。
「アリシア。迎えに来た……昔の事を覚えているか?」
「昔の……」
私は記憶を思い起こして昔この森の帰り道にしたアレクとの会話を思い出す。
幼少期、私は王子に森に置いていかれ、たまたま出会ったアレクに街まで送ってもらった。
「アリシア。どうしてこんな森に来たんだ? しかも一人で……」
「いえ、一人じゃないの。婚約者の王子様と来たんだけど、怪我しちゃったから置いて行かれちゃって」
私が俯きながら涙で瞳を潤ませながらそうアレクに言った。
「怪我をした君を一人で森に!? なんて酷い奴だ。そんな奴とは別れた方がいい!」
「ダメよ。生まれる前から決まっていた婚約者だから、そんな事をしたらお父様とお母様に迷惑を掛けてしまう……」
悲しそうな私を見てアレクは微笑みながらこう言葉を返した。
「分かった……なら、俺が大人になってその婚約者と君が別れるような事があれば迎えに来る。その時は……結婚しよう!」
「……うん。そんな時があれば……私もアレクと…………」
そんな事があった。最後の方は記憶が曖昧で覚えていない。
アレクは私の手を取ると、片膝を突いて私のその手にキスをした。
「……アリシア。結婚しよう! 俺がお前を幸せにしてやる……だから、俺のものになれ」
「……でも、私は性格が悪いって国でも評判ですのよ? アレクにふさわしくありませんわ……」
そう。私は変わったのだ。弱い自分を捨てて、今日まで強くなろうと振る舞ってきた。その結果、虚勢を張る性格になってしまった。そんな性格を揶揄された私は国の中で辛辣令嬢なんていうあだ名すら付けられている。
「……構いはしない。俺はお前の本当の姿を知っている……その涙の意味も……パーティー会場で全て見ていた。あんな男の為にアリシアが泣く必要などない……俺はお前のあの時の笑顔をずっと覚えている。お前は俺の横で笑ってくれてればいい……さあ、乗って。屋敷まで送ろう!」
「……はい」
竜の背に跨がったアレクはそう言って私の方に手を差し伸べる。
私も迷わず彼の手を取って竜の背中に乗った。
翼を動かして上空に舞い上がる竜の連れる背中からバランスを崩した私の腕をアレクの手が掴む。
「危ないからしっかりと俺の体を掴んでいろ……」
私は頷くとアレクの腰に手を回してぎゅっと体を寄せた。
屋敷に送ってもらうと、アレクは私の体を抱えて竜の背中から飛び降りる。メイドやお父様とお母様が心配そうに真っ白なドラゴンから降りてきた私を見つめている。
アレクは抱えていた私をゆっくりと地面に降ろして再び白い竜の背に飛び乗った。
「……次は正式な方法でお前を迎えに来る! アリシア。待っていてくれ!」
「はい。お気を付けて……」
私はアレクに手を振ると、彼も拳を上げてそれに応えた。




