婚約破棄されました。3
そうこうしているうちに周囲をあっという間に白銀の毛並みに覆われた狼の群れに囲まれてしまった。
「……いやぁ……こんなところで死ぬの?」
周囲に集まってきたグレートウルフ達は低いうなり声を上げながらゆっくりと私を追い込むように迫ってくる。
私は足を引きずりながら迫ってくるグレートウルフの群れを涙で潤んだ碧眼の瞳で見つめていた。
「……伏せろ! アリシア!!」
上空から何者かの声が聞こえて私はその声の通りに頭を押えて地面に体を伏せた。
その直後、白い鞭のようなものが周りにいたグレートウルフを吹き飛ばす。
グギャアアアアアアアアアアッ!!
白い鱗に覆われた竜がグレートウルフを牽制するように大きく咆哮を上げた。
その背中から金の装飾をあしらわれた白い服に身を包んだ男性が飛び降りて私を守るように背中を向けると剣を抜いた。
彼は無言のままグレートウルフの群れに突っ込んで行くと、本の一瞬の間にグレートウルフを全て切り倒してしまった。
「アリシア、もう大丈夫だ……」
「……貴方は? どうして私の名前を……」
白く美しい白銀の髪に整った目鼻立ち、そして何よりも印象的なのはその透き通った水色の瞳だ。
とても冷たくだが、その瞳の奥には芯の強い熱いものも見えた。
「どこの誰か存じ上げませんが……と、とりあえず。礼は言っておいて差し上げますわ! 危ないところを助けて頂きありがとうございました! 私がお礼を言うなんて光栄な事ですのよ。感謝なさい!」
(危ないところを助けて頂き……本当にありがとうございました……)
ツンケンとした態度でそう言った私は立ち上がろうと足に力を込めると激痛が走りそのまま地面に崩れ落ちた。
「私はアリシア・グレイセス。公爵令嬢ですわ。後で私の屋敷にいらっしゃい! 謝礼をお支払いして差し上げますわ! それではご機嫌よう! くっ……うっ……」
(本当に惨めね……王子様から婚約破棄を言い渡され、森まで逃げてきて、見ず知らずの人に助けられるなんて……しかも、その場をかっこよく去ることもできない)
私は悔しさに地面に手を付いて瞳に涙で潤ませて唇を噛み締める。
「なんだ? 足を怪我したのか? どれ、見せてみろ……」
「ちょ、ちょっと! 淑女の足に触れるなんて無礼ですわ!」
(ちょっと……な、なに!?)
彼は私の壊れた靴を脱がせると腫れた足首に触れた。
「……んっ!」
「痛むのか? 腫れている……挫いたらしいな。まったく、昔からお転婆なようだなアリシアは……」
そう言って微かに笑うと彼は服を裂いて私の足を布で覆って固定する。
(この感じ……どこかで……)
私は昔、この森に置いて行かれた時の事を思い出した。




