3話 アポロノーゼス帝国。
日が差す窓の外から小鳥達のさえずる声が聞こえて眠っていた私が目を覚ますと、その視線の前には微笑んでいるアレクの姿があった。
美しい白銀の髪と吸い込まれそうな水色の瞳……そして白く美しい彼の顔に私が見蕩れていると彼の顔が徐々に近づいて来て頬に柔らかいものが当たる。
私はアレクの顔が離れたところで彼の唇に自分の唇を重ねた。それに驚いたアレクは目を丸く見開いて体を起こす。
「ちょ! お前、婚約前になにをするアリシア!」
「ふふっ、かわいい……これはお礼です。なんなら、キスの先もなさいます?」
「ば、ばか……男をあまりからかうな!」
真っ白く美しいアレクの頬が真っ赤に染まるのを見て私はくすっと笑う。
帝国の王子という立場なのに案外とうぶらしい。王子なら愛人やお手付きがいてもおかしくないと思うのに、アレクはどうやらそういう異性に対して節操のない殿方とは違うらしい。
「人をからかってないで目を覚ましたならお前も早く起きろ……今日は帝国の民に俺とお前の婚約の発表をするぞ!」
「ふふっ……は~い」
ベッドから起き上がるとカーテンを開けてベッドの上で指を顔の側で笑う私を置いて、頬を染めたアレクは薄着に上着を羽織って歩いて足早に部屋を出て行く。
私はまだアレクの温もりが残る布団を手で撫でながら光の降り注ぐ窓から外を見つめた。
再びベッドに倒れた私はふんわりとアレクの匂いが鼻腔をくすぐる。
「……アレクのにおいだぁ」
こうしてベッドに寝転がって彼の匂いと手の平で彼の熱を感じていても、まだ半分夢の中にいるような感覚だ……
私の中ではクリス王子のところで一生罵られながら籠の鳥になる人生なのだと思っていた。
幼い頃にたまたま出会った憧れの男の子が成長して、籠の鳥になるだけの私を救い出してくれた。
今の私は窓の外で自由に歌い飛び立つ小鳥だ……そう思うと、なんでもできそうな気がしてくるから不思議だ。
私はベッドから体を起こすと、着替えてドレッサーの前で鏡を見ながら身だしなみを整える。
部屋を出ると、どこからか声が聞こえてくる。
「アリシア様! お待ちしてました!」
私がその声の方を向くと、視線の下には猫耳をピンと立てているピンク色の長い髪に紫色の瞳のメイド服を着た女の子が立っていた。
「初めまして! アリシア様のお世話をさせていただきます! セリアです。一生懸命に働きます! よろしくお願いします!」
緊張しているのか猫耳と尻尾をピンと立てて深々と頭を下げるその小さな体がぷるぷると震えている。




