4話
家に帰ると、スマホに不在着信が入っていることに気がついた。しかも会社からだ。もしかすると臨時出勤なのではないかと考え、いつもの装備が入ったバックルを持ってから通話を掛ける。
意外と早く、1コールで繋がった。
「もしもし?」
「やっと連絡来た!笹生今どこ居る!?」
この声は多分受付でいつも話す人だろうか。慌てている様子が電話越しにでも伝わってくる。
「家です。もしかして臨時出勤ですか?」
「そこから一刻も早く離れろ!玄関は絶対に使うな!」
何を言っているのか分からなかった。社宅なので家がマンションの4階ってことを知らないはずはない。
そう考えている時だった。玄関の方からカチャカチャと小さい音を聞く。ピッキングをされているような音だ。
電話を切り、バックルを着けてからベランダの柵を持って降り始める。
[カチャ]
玄関の鍵が開いた。やっぱりピッキングだったが、もう大丈夫だと思う。その時には既に3階に足を掛けていため、勢いを殺しつつ3階の柵を掴む。流れに乗せて2階、1階と降り、下で待機していた車に乗り込む。発車は出来たがまだ終わっていない気がする。
ふと後ろを見ると車が一台。
直感で分かる。絶対にヤバイ。
「ヤッバイこれは不味い!」
そう言いつつ身を席に隠す。次の瞬間後ろ側のガラスが砕け散る。席の中には防弾ベストの中身が入っているので弾は貫通しないはず。しかし仕事でもないのに実弾が飛んでくるのは普通に恐怖だ。
「もう賭けだなこれは」
座席の下から銃を取り出す。今回は拳銃ではなく、スコープとサプレッサーの付いたアサルトライフルだ。物としてはM4A1、しっかり手入れをすれば化ける銃である。
「とりあえずまずは警告も兼ねて撃っとくか」
道路が直線に入ったところで先程の車がすぐ後ろに居ることを確認して、等倍サイトで5発ほど撃ってから座席に隠れる。
しかし、銃声は止まなかった。むしろ撃ってくる量が増えたほどだ。
「やっぱり被害無しは無理か、ごめん民間の人たち!」
最終手段として破片の飛び出ないグレネードを取り出す。それをサイドスローで後ろに投げる。それはしっかりとした軌道で飛んでいき、相手の車の中に入った。天井に付いているミラーでそれを確認したら、座席から頭と銃だけを出し、スコープを覗く。
「とりあえず邪魔だから消えといてね」
相手の車の中を見ると、運転手含め全員慌てていた。爆発と同時に3発ほど撃ち、助手席に居た男の肩に穴を開ける。ハンドルが狂ったのか、後ろの車は道路脇の植え込みに突撃し、煙を出しながら停車した。
なんとか車を撒くことは出来た。しかし今回に関しては被害が大きすぎた。こういう時に役立つのが会社への電話だ。
「あ、繋がった。もしもし?」
「あ!もしもし!?大丈夫だった!?ホントごめん事前に守ることが出来てなくて!」
凄く電話口の向こうでは驚いているようだった。
「大丈夫ですよ。それより、、ちょっと被害が」
「あーそれね!全然出来るよ!とりあえず会社に来てね!」
「お、来た。とりあえず処理は終わらせたから、多分大丈夫だと思う。あと今日から2日間はDMIC着ておいてね!もしもがあったらマズイから!」
自分は更衣室で部屋着の下にいつものやつを着てから受付で話していた。こういう状況が起きた時は、数日間ずっとスーツを貸し出してくれるのだ。結構ありがたい。しかし、今日から2日くらいは家が電波暗室になるため家の中でスマホを使うことが出来なくなる。もし会社からの連絡があるときは、固定電話に掛かってくる。
「あぁー、疲れたー」
今日1日凄く濃かった気がする。しかし明日も学校がある。そのため、もう寝ることにした。
「おい、大丈夫か?」
「ん?あぁ、大丈夫」
廃ショッピングモールに居た。周囲の状況を確認しながら歩く。足音は無く、体は軽い。
相手の顔は誰か分からないが、来ている服から仲間であることは確実だ。
「とりあえず目的地に着いたけどどうしようか?」
相手が話し掛けてくる。考えていないのに口が動く。
「早めに物を回収して逃げよう。なんかちょっと怖い」
「それもそうですね」
目の前の会計カウンターの上に置いてあるコインを取ろうとした時、建物が大きく揺れる。
足元が崩落した。そう言うしかないほど一瞬の出来事に放心する。2階から落ちた衝撃は大丈夫だったが、足の位置に鉄筋が刺さっていて動けない。その状況で上から大きめの瓦礫が加速しながら頭に向かって降ってくる。
それが当たった瞬間、意識が途絶えた。
「今回はちょっと難しいな」
気が付くともう朝の4時だった。
家に帰ってきたのが午後6時前くらいだから、、10時間は寝ていたことになる。
家事をしながら先程の夢について考える。今までと違う点としては、他人が居たことだ。
今までは自分しか夢に居なかったため、考える難易度が跳ね上がっている。こうして考えている間に家事は全て終わり、時刻は午前7時。登校するために制服に着替える。しかし、DMICと腕時計型端末は外しちゃいけない。学校でももしかしたらがあり得るからだ。
いつも通りの通学路。だが、周囲の人が全員怪しく見えてしまう。昨日は顔を見られていない、、はずだ。
校門前まで来た。一歩敷地内に踏み入った時、肩に手を置かれる。
「よっ、おはよう」
いつもの有野修平だ。しかし今回は見て分かるほどウキウキしていた。
「そろそろこの街でサミットが開かれるんだってさ!無茶苦茶楽しみじゃない?」
「ん?まぁそうだけど、、一般人が入れるわけないからあんまり興味無いんだよね」
たまに会場護衛とかの仕事が入ってくるので無関係という訳には行かないが、なんか騙しているような気がして少し申し訳ない。
それはそれとして、授業中にまた絵を書いていく。今回のようなデカさの廃ショッピングモールはこの街付近で見たことがない。もしかしたら山の奥側にあるのかもしれない。
1限2限と時間が過ぎて行く。昼休憩になり、スマホで周辺に廃業したショッピングモールが無いかと探してみたが、やっぱり見つからない。
「ねぇ今度の休日さ、ここのショッピングモール行ってみない?あの有名店むっちゃあるとこ!」
少し遠くから女子の声が聞こえる。
一縷の望みを持ってここ付近で有名店が一番集まっているモールを探す。
すると出てきたのは、ここから直線距離で30km程離れた場所にある物だった。そこのホームページに入り、創設年を調べる。
「あった、ここのモールか」
社用車
会社で3台ほど使っている車。中には迎撃用の装備やミッション遂行の為の道具が置いてある。
例えで言えば、非殺傷弾や銃のマガジン。
そしてフロントガラスは防弾だが、リアガラスは防弾ではないというのも特徴の1つだ。
ちなみに、この車と同じ物を用意しようと思ったら一台3000万円ほど掛かる。