11話
「さて、ここからが大事」
蒼井さんの体を持ち、ゆっくり引き抜く。抜いていくと、血が手を伝って垂れてくる。それでも集中は切らない。体が鉄骨から抜ける。まだ血が結構垂れているが、急いで車に乗せて病院へ急ぐ。
「あと何分ですか!?」
「最短で約3分です!」
結構な速度で走っているが、それでも3分掛かると思っていなかった。
「確かここにパスルオキシメーターが」
こういう時や、低酸素の状況への対策のためにどの車両にもこれが1つ常備されている。
蒼井さんの指先に付けると同時にアラームが鳴る。
「流石に血圧低下するよな!」
アドレナリンは知識が無くて使えない。焼いて止血もリスクがある。
「抜くのが一番の間違いだったかもなこれ」
傷口を思いっきり圧迫する。スーツはもう機能停止させているので骨が折れる心配は恐らくない。血の流れが細くなる。
「頼む、持ちこたえてくれ!」
その時、車が救急車らしきものの前で止まった。
これに乗せ変えるのだと察したので、スーツを起動して蒼井さんを持ち上げ、救急車へと運ぶ。
「また凄い人運んできましたね」
「血圧低下してて、出血性ショック起きるかもしれないレベルです」
「状況ありがとう」
車のバックドアが閉まり、蒼井さんを乗せた車はどこかに消えていった。体感は長かったが、実際には3分程しか経っていない。無我夢中で圧迫止血に専念していたからだろうか。
「そういえばそのシートに付いた血はどうするんですか?」
「洗えば色は落ちるので」
まさかとは思うが今まで乗ってたシートも洗ったとか言うんじゃないだろうな?と考えつつそのまま車に乗って会社に帰った。
DMICや手袋には血が付いていて、次の仕事で使いたいとは微塵も思えなかった。
「血が付いた手袋ホントに洗いにくいんだよな」
職務質問に引っ掛かるとめんどくさいのと、後で使うために社員証を持ってからロビーに戻る。
「100万だけ貰っても良いですか?」
「いつも200万くらい持っていくのに珍しいね。前回の分が凄く残ってる感じ?」
「まぁそうですね。ちょっと急いでるので」
「あ、そう?じゃあまた明後日か明々後日かに会おう」
その足のまま自分は会社直属の病院へと向かった。この病院は一般人も普通に入院していたりするが、大抵は社員用に設備を揃えている。
「こんにちは。診察をご希望ですか?」
「面会です。5階より上の患者の」
「何か身分が証明できる物はありますか?」
そう言われて手に持っていた社員証を取り出して手渡す。受付の人はキーボードで社員証に書いてある識別コードを慣れた手つきで入力する。
「確認出来ました。こちらどうぞ」
カードを返される。
「どなたに面会するか名前を伺ってもよろしいですか?」
「蒼井圭助って人です」
名前を聞くと受付の人はまたパソコンを操作する。数秒程で見つかったのか、話し掛けてくる。
「今は602号室に居ますね。Bのエレベーターから上がってください」
「ありがとうございます」
病院内を歩き、Bエレベーターへと向かう。深夜なので人は一人も居ない。一応受付が居るのはこういう会社関係の人の対応と一般の急患対応という理由だ。
Bエレベーターの中には社員証等のカードをタッチする場所があり、そこにカード等を当てる事で5階以上へアクセスすることが出来る。Aエレベーターもタッチする場所は付いているが、タッチしても反応はしない。
『6階です』
機械音声が流れた後、エレベーターのドアが開く。何回も見たことのある光景とはいえ夜の病院は怖い。まだ慣れきっていないのもあるのだろう。
「えーと、602だったよな」
6階は個人部屋専用だ。重傷を負った時ここに来る。7階は軽傷の時に入る。
コンコンコン
小さくノックをしてスライドドアを開ける。既に酸素マスク諸々が付いているが、蒼井さんであることは間違いなかった。確か睡眠薬は10時間少し効果があった気がする。つまり朝には起きる。
「ひとまず無事で良かったー、、」
蒼井さんは加賀さんみたいに化け物のような索敵能力やスーツに耐えれる体は持っていないが、スナイパーだけ凄く上手い。一回見たことはあるが、あれを見た上でスナイパーをやってみようとはならない。練習風景も何回か見たが、200発以上は撃ってた。1発当たり150円くらい掛かるとしておよそ3万円、それをほぼ毎日やっていたのだ。仮に4年続けてたとしても最低約3500万円は掛かる。それなのに続ける理由をどこかで聞いた覚えがある。
山奥にある射撃場にて
「何発目ですかそれ」
「確か166発目」
山を使ってほぼ自然環境と同じ状況を作っているこの射撃場は、片方の山からもう片方の山にある的を狙うロングレンジが存在する。その距離1100m。日本ではあまりあり得ない距離だ。
「まだ続けてるってことは3バツ未満なんですよね」
「まぁね」
射撃ポジションから1100m先に直径1mの的がある。蒼井さんはその的の直径10センチ以内に当たらなかった時に1バツを加えて、合計バツ数が3を越えた時に練習を止める。しかし、もう的は10cmの線すら見えないほど白くなっていた。毎回練習前に的を新品へと変えているらしいが、一回の練習で数ヵ月持つ的を一枚消費するのははっきり言って狂気だ。
「というかサプレッサー付けて風読んでって、処理する情報量多すぎて疲れないんですか?」
「サプレッサーはもう慣れたね。風は雰囲気で読んでる」
そう話している内にまた的へ当てている。大体20秒に1発のペースだ。
射撃場
社内には射撃場が無い。が、街の中にある倉庫等で試し撃ちを出来るようになっている。射撃場には防音型と開放型があり、防音型はサプレッサーを付けなくてもほぼ音が漏れない。しかし、開放型はサプレッサー等を付けないと出禁になる。なので銃以外にもグレネードやスタングレネードを試したい時は防音型、射撃だけやりたいなら開放型が一番適しているとされる。