9話
数週間後、たまたま仕事に休みが入ったのでサバゲー場に行ってみた。もしかしたら加賀さんはもう引退してしまったのではないかと心配していたが、しっかり観戦エリアで試合を観ていた。傷は塞がっているがまだ動けないという状態なのだろう。何事も無かったかのように話し掛けに行く。
「こんにちはー」
「あっ!やっと来た!」
加賀さんは安心したように返答する。
「どうかしたんですか?」
「いや、あれは受け取れないよ流石に」
「何の事ですか?」
数秒間の沈黙の後、加賀さんは口を開いた。
「なるほどね。何でも無いから大丈夫」
実際には分かっている。あの200万の事だろう。しかし、その話を知っているのは自分と加賀さんのみ。そしてそれの入手経路は絶対に表に出してはいけないものだ。
「この後って暇?」
「まぁそうですね。予定は無いです」
「じゃあちょっと付き合ってよ。良い場所紹介するから」
午後9時過ぎ
マンションのエントランス付近で待っていると加賀さんが車で迎えに来た。
「とりあえず乗りなよ」
言われるがままに車へと乗り込み、待つこと20分。山の頂上へと着いた。そこから見えるのは様々な色で光る景色。ビルが乱立しているが、どこか整っているような。意外にもこうして街を観るのは初めてだった。
「で、あの時の続きをしよう。恐らくここなら人が来ることは無いはずだろ?」
「はぁー、分かりましたよ。もしかしたらこれが最後かもしれないですからね」
一拍置いて加賀さんが話し掛けてくる。
「まず、あの大金は何で送ってきたんだ?そもそも両者貰ってる金額は同じだろ?」
「何て言えば良いですかね。一つは情が移ったことと、もう一つは自分のミスの償いですね」
少し驚くような表情で返答する。
「お前がか?あの時ミスなんて無かったと思うけど、、何か失敗したのか?」
「それはもう。あの時非殺傷を使わずに実弾で制圧に入る選択をしていれば5秒くらい余裕がありました。そしてスタンを2つとも使うことも無かったです。無傷で帰る為にはスタン1つを廊下に、後一つをベランダに投げるのが最適でした。そうすれば3人を制圧した時にベランダ側のスタンが起爆され、スーツを使ってカバーを間に合わせる事に成功していたはずです」
加賀さんはそれを聞いて安心したような表情をする。
「なんだそんなことか。ミスして無いよ。君は」
「そうですか?」
「結果的にはこうなってしまったけど、その作戦を現場で咄嗟に思い付いて、確実性を持って行動に移すのは一瞬では絶対に出来ない。もしかしたら同じ行動をしても結果が変わることがある。今回はただ運が悪かったんじゃないのかな?」
「そういう風に考えてくれていたのなら嬉しいです」
少しの間沈黙が続く。それは両者の気持ちを読み合う時間でもあり、社員同士として話す最後の機会を噛み締める時間でもある。
それを止めたのは携帯の着信音だった。
「あ、すいませんこんな時に」
相手を見ると、また事務の人だ。いつもこの人から掛かってくる電話は緊急の事が多い。
「はい、もしもし」
「ちょっと今って時間ある?」
加賀さんの方を一瞬見てから返事をする。
「あります」
「ちょうど良かった~、実はちょっと前に廃校でUSBを取引した人と同じ人から今仕事の依頼があって、それを1億2000万で会社が引き受けたんだよね」
「てことは自分達の取り分は大体700万位ですよね?」
「よく分かったね。ピッタリ700万だ。あともう1人居るから、今から会社に来て出勤準備してね」
そこで電話が切れた。1500万で少し感覚が麻痺していたが、700万でも通常の仕事では考えられない額だ。
「加賀さん、今から会社まで送ってくれますか?」
「やっぱ仕事の電話だったか。良いよ、貸しもあるから」
そう会話をしながら車に乗り込み、会社まで乗らせて貰った。
「ありがとうございました」
「これぐらいは良いって。ただ2つ自分の口から言わせて欲しい」
こちらを向いて今までの軽い口調からしっかりとしたものに変わりながら言う
「ありがとう。絶対に死ぬなよ」
そう言って加賀さんは車を出した。10秒ほど車を目で追いかけていたが、我に返ってすぐ会社の建物の中に入った。
「あと6分で車来るから急いでね!」
ロビーのカウンターから声が飛んでくるのを横にして更衣室の中に入る。首裏にパッチを付け、DMICを着て手袋を着ける。最後にバックルを装着し、カウンターに急ぐ。
「あと何分ですか!?」
「3分ある!1分で説明するからよく聞いて」
そう言いつつ画面をこちら側に見せてくれる。
「場所は省略、内容としてはメダル状の容器に入ったSDカードを受け取ること、難易度はA049」
「難易度おかしくないですか?それだけならB上位の方がしっくり来ると思うんですけど」
「来ると思ってた。依頼者の注文が関係してるんだよね。なんでも銃火器禁止らしい」
「あぁ、、」
結構痛い。一応非殺傷も火薬を使っているので実質体術もしくはナイフ縛りということになる。DMICを使っていても正確な遠距離射撃が出来ないというハンデは凄く大きい。
「分かりました。行ってきます」
「気をつけて~」
非常階段を駆け降り、エントランス前に停めてあった社用車に乗る。
「A049ですよね?」
「はい。それでは出発します」
横を見ると1人。
「初めましてではないですよね?」
「あ、分かる?覚えてたらむっちゃ嬉しい」
「確か数年前C7の有名俳優護衛で2wayした人ですよね」
「無茶苦茶昔の話引っ張り出して来たね、、確かそれで合ってるはずだよ」
「当たってたのなら良かったです」
覚えている範囲で情報を列挙していこう。この人は蒼井圭助さん。自分の一つ上で会社に入ってきたほぼ同期だ。訓練も一緒にこなしていった仲で、技術よりもパワーで押すような人だ。ただ、スナイパーの腕だけは会社内でも3本の指に入るくらい上手い。例を挙げると、1000mくらいなら誤差を直径2cmに収める事が出来る。
「どうしてここに?」
「いやー、久しぶりに君と一緒の仕事したくなっちゃって」
「凄い軽いですね」
「まぁそれはさておき、作戦を考えよう」
強化率について
腕時計に書いてあるパーセンテージ、実は結構差が広いです。20%と50%で比較してみると、数値的にはそんなに差が開いていないように感じられます。しかし、これらを例えとして100m走で表すと、15秒台と11秒台くらいの差があります。そう考えると加賀さんって結構凄い強化してるんですよね。