プロローグ
コンコンコン
鉄製の扉を叩く音が部屋の中に響く。
少しの沈黙の後に返事をする。
「は~い、今行きます~」
歩いて扉に向かう。そこまでの道程は長くはないが、やけに足が軽く感じる。いや、無いと言った方が近い。
扉の前に着き、そのままドアノブに手を掛ける。
そしてそれを動かした次の瞬間
乾いた音が扉の向こうから2つ鳴る。
鉄扉には2つの穴が開いて、体には何かの液体が流れる感覚を覚えた。
それを触ると少し生暖かく、赤色である事は容易に想像できた。そのまま力が抜けてその場に倒れ込む。
扉が開き、1つの影が入ってきて目の前でしゃがんでこちらを見る。顔は良く見えなかった。
頭に銃口を向けられ、音が鳴り視界が暗転する。
「、、あぁ、あんな感じね」
気がつくとベッドの上に居た。
先程とは違って仕事着ではなく、ちゃんと私服だ。心拍数は上がっているが冷静さを欠いてはいない。
ベッドから起き上がり、頭の中を整理する。
数分の後ベッドから足を出して立ち上がり、洗面台の方へ向かい顔を洗う。
勿論、その間もしっかりと見たことについて考えている。簡単に言うと風景や物の位置、起きたことを順番に整理していくような作業だ。
朝食を食べ、着替えをして家を出る。一人暮らしなので6時半に起きて8時くらいには全て終わる。
8時20分教室より、、
自分のロッカーに物を入れ、今日必要な物を持って席に着き、机の中に全て入れる。1冊のノートを除いては全て授業に必要な物だ。
授業が始まると、授業用のノートとは別にノートを出し、見たことを書く。別のノートとは勿論授業に必要ないノートの事だ。そのノートには色々描かれており、ある一室の絵や森の中、中には工場やビルの絵がある。しかし全てそれは1人称であり、そのどれもが現実と何ら変わりない程のクオリティーで描かれている。
もっとも、現実のように影などは描かれていないがとても高いクオリティーであることは変わりない。
1時間目に先程の景色を書き上げ、2時間目に少しずつ添削してリアルに近づけていく。
それを描きながら絵の下にその時に見た情報を言葉で表していく。
今回の物を例にあげると、銃にサプレッサーが付いていた事や、時間帯が昼くらいだったこと、そして応対してから5秒ほどでドアノブを触った事等だ。
思い出した事を書き上げ、全授業を終える。
家に帰るときは朝と逆の事をするだけなので省略する。
午後5時
帰宅と同時にカバンを下ろしつつ上着を脱ぐ。
玄関付近のラックに全て掛け、そのままベッドに入る。ここで必要なのは体力回復なので出来るだけ動かないように気をつけ、痛む身体を休ませながら目を閉じる。
午後12時
起床し制服を脱ぎ、軽装に着替える。
クローゼットの奥からカバンを取り出し、背負って家を出る。鍵を掛け、夜道を歩く。
明るくもなく、暗くもない見慣れた道。
人影は殆ど無い。
数分程歩くと、ビルが目の前に見えた。10階建てくらいだろうか。扉に手を掛けドアを開く。
「こんばんは~」
中は明るく広い。が、人が全くと言っていいほど居ない。居るとしたら受付に居る女性だけだろう。
「はいこんばんは。今日はどのような用件で?」
「これの用件で来ました。」
カバンの中から1枚のネームカードを取り出す。
それを渡すと、女性はよく店で見るようなクレジットカードを挿す場所にネームカードを入れ、キーボードを打つ。
5秒ほど待つとそれを抜き取り、返却してくれた。
「確認完了しました。3階へどうぞ。」
その後、職員用階段に続くドアの鍵にカードを当ててドアを開け、階段を使う。3階に着くと扉には
[メインロビー]
と書いてあった。その扉を開け、中に入る。
「こんばんは~」
中には数人ほど居て、二人組や三人組を作って別々で話をしていた。全員違う柄や色の服を着ているが、そのどれもが半袖半ズボンの軽装で、脚や手には黒いタイツのようなものが見える。
挨拶の後、更衣室に向かう。自分のロッカーの中には先程の黒いタイツや半袖半ズボン、それらに付けるバックル等がある。それらを全て身に付け、更衣室から出る。
ロビーの中央から奥は事務のスペースになっていて、10人ほどが作業しているのが分かる。
そこへ向かって歩いていき、忙しそうではない人に話しかける。
「仕事ありますか?」
「あるよ。ちょっと画面に出すから待って」
3秒ほどすると、モニターをこちらに回した。
「今のところ4件しか無いけど良い?」
「大丈夫です」
そう言って画面を見ると、3つは報酬金が20万から30万前後だったが1つは50万円と少し高額だった。
「じゃあこの50万のやつを50%でお願いします」
「分かった。報酬金は口座振り込みで大丈夫?」
「はい」
そう言うとモニターの方向を直し、10秒ほど操作してからこちらの方を向く。
「スマホに今回の地図、仕事内容、移動方法を送ったので確認しといてね。」
腰のバックルからスマホを取り出し、情報が送られていることを確認する。
「確認出来ました。」
今回は車で片道30分の場所にある廃工場が目的地らしい。なんでもそこで麻薬の取引があるらしく、それを制圧することが仕事の内容だ。
流石に自分で運転すると帰りが大変になるので運転手が付いている。車のドアを開き、腕時計を着けてからドアを閉める。腕時計は針の物ではなく、スマートウォッチのようなスクリーン式だ。
専用のアプリを開いた状態にし、時間を確認する。
「突入予定時刻が0102だから、あと3分か」
準備運動をし、腕時計のタッチパネルを中指と薬指で同時に2回触る。
ジャンプをすると、脚に少しの痛みが走った。
しかし、高さにして1m程飛んでいる事が容易に分かるほど高く飛ぶ。
「とりあえず動作確認はok」
時計を見ると、予定時刻まで残り30秒。
廃倉庫の入口まで40mといった所だろう。
周りを確認してからもう1度時計を見る。時刻まで残り6秒、、3秒、
入口に身体を向ける。2秒、姿勢を低くする。
1秒、息を大きく吸い込む。
0秒、地面を蹴って前に進む。前から来る風が凄まじい。スタートから4秒とちょっとで倉庫の入口に着き、そこから中に入る。
中に居た人数は4人。バレないように小規模にしていたのだろう。
右大腿にあるケースから拳銃を取り出し、4人全員に撃ち込む。1人はそのまま地面に倒れたが、他はよろけるだけだった。非殺傷弾なのであまり威力が出ないのが理由として適切だろう。
地面を蹴り、スピードを出しながら3人の内の1人に近づき、失速するために肩辺りにぶつかる。
瞬時に時計を中指と薬指で3回タップし、ぶつかった相手に銃を向け、腹に2発入れる。
残り二人はその隙に拳銃を取り出していたが、あまり問題ではない。
腕時計には[50%]と書かれている。
残った二人から少し目線を外し、遮蔽が無いか辺りを見る。無かったので小さく2歩、7mくらい近づき、上に跳ぶ。まさか上に跳ぶと思っていなかったのか、二人は少し驚いた表情を取る。一瞬置くと、、その表情は更に驚いたものに変わっていた。人間では跳べない高さ、3m程を跳ばれたら誰でも流石に驚くだろう。後は冷静に2発ずつ二人に撃ち込み、受け身を取りつつ着地する。
しっかり4人とも気絶していることを確認して、それぞれを結束バンドで縛ってから車に帰る。
「とりあえず全員処理したので帰って大丈夫ですよ。」
その言葉を聞いた運転手は頷き、エンジンを掛ける。車に乗り込むと、10秒ほどで発車した。
全身の力が抜ける。この緊張は何回経験しても慣れないものがある。
気が付くと家の前に着いていた。どうやら寝ていたようだが、あまり実感がない。
現在深夜2時
晩御飯?を食べる。
食べた後すぐに皿を洗う。その流れのまま、洗濯機を回す。風呂に入り、着ていた服をほぼ洗濯かごに入れる。タイツの用な物は洗わない。戦闘用のスーツは精密機器が入っているので洗ったら壊れるのだ。
戦闘用スーツの名前はDMIC。直接筋肉増加衣服と、凄く安直な名前だが効果は名前の通りだ。専用の機器を使うことで限界を超えた運動能力を引き出すことが出来る。
仕組みは一回聞いただけなのでうろ覚えだが、電気の力で筋肉を強制的に動かしているらしい。それだけだと無茶苦茶危ない代物だが、不思議と今まで肉離れを起こしたことはない。しかも、ちゃんと運動能力が上がっているのが怖い。
今まで立ち幅跳びで2m半ほどしか跳べていなかったのに、スーツを30%で使うと5m程跳べるのは本当に人間の作ったものか疑わしくなるレベルだ。
後は寝るだけなので、ベッドに転がりスマホを見る。
「残 89700000円」
数字を確認した後、スマホを横の机に置き、目を閉じる。
何も変わらない日常の1コマから伸びる物語はどのようなものがあるのか。
DMIC
2023年に秘密裏で作られたもの。
意外にも充電式で、1回フル充電すると30%運用で16時間ほど使える。
あまり無いが、200%の限界運用をすると40分程度で切れる。
また、体を冷やしたり暖めたり出来るがそれにも電力を使うため長期の仕事では使うことを推奨されていない。
これを使う人はうなじの部分に特殊なパッチを貼って、脳からの電気信号にスーツの強化を合わせる形になっている。限界を超えたときにスーツが起動し、その限界分を補う。スーツで補う事が出来る限界値がパーセンテージだ。
また、30%の時に筋力が1.3倍という訳ではなく、人によって効力が変わるため20%だったり40%が通常運用の人も居る。
これを作るために数十人の筋肉が犠牲になったとかなっていないとか、、