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第30話 3月18日-23日 放課後デート

今日は、ハンモンの拡張版の発売日。

発売日が土曜だから、休みはゲーム三昧できるのだ。


「これ、どのくらいでクリアした?」


「高校生の頃は、親に隠れて一人でやってたからね。結構、時間かかったかなぁ……受験生だったしね」


「でも、大学から家を出たから、オンラインで友達ができてね……そういえば、2025年にオフ会するとか言ってたなぁ……戻れたら、会えるかなぁ」



「なにそいつ、男?」


やきもちを焼いてくれてるのかな。

なんだか嬉しい。



「女の子だよ。なんか、妙に気が合ってね。やってほしいことを何も言わないのにやってくれてるというか、動いてくれるっていうか。とにかく、すごく上手なんだよ。会う約束をしてたんだけどね……」



「それにしても、手が止まらないよねー」


「ねー」


しかし、いくら面白いからといっても、残りの一週間を、ゲーム「だけ」に溶かしても良いものか。



時間をあげるとは言ったけど、私のわがままも聞いて欲しい。


「よし! 放課後デートをしましょう!」


「……へ?」



学校から自宅へ帰るのとは逆向きの電車に乗って、海を見に行くことにした。


「私、勉強漬けだったから、制服でデートするの、憧れだったんだよね」


車窓から見える、いつもと全く違った景色に浮かれている。



「海はね、地元にもあるんだけど、普通の海水浴場だから、いまいちロマンチックさに欠けるというか。ほら、映画とかドラマとかに出るような海が見てみたくて」


「はいはい、仰せの通りに」


駅から降りて、海までの道すがら、その辺の店で買ったクレープを食べながら、足取り軽く歩く。



紫苑と一緒に出かけるのが嬉しくもあり、最後の遠出になってしまうのが切なくもあり。

無理に元気に振る舞うけれど、心の奥の寂しさが消えることはない。


到着した海は、確かに映画で見た海と同じだったけど、思ったよりロマンチックな風景ではなかった。

予想よりも波が荒かったからだろう。


「うーん、こんなもんかぁ。これなら地元の海とあまり変わらないな。時期が良くなかったかなぁ。夏にも、来たかったな……」


テトラポットのある防波堤に、二人で腰掛け、海を眺める。



「……まぁ、こんなところにまで、持って来ちゃうのが、我々なんですけれども」


カバンの中から、お互い、携帯ゲーム機を出す。



「なんか、結局、ゲームしちゃったね。ごめんね、こんな遠くまで付き合ってもらっちゃって」


時折、防波堤に打ち付ける、波の音がする。



「……いいえ。俺は、あなたといられれば、どこでもいいんで」


海を見つめる紫苑の瞳が、夕日に照らされて、とてもきれい。

彼といられるのも、あと数日。そう思うと、胸がキュッと締めつけられる。


「……紫苑、ごめんね。いろいろとお願いを聞いてもらって。絵梨花のためとは言ったけど、私の都合でもあるから……ごめんね」


「……いいよ」



防波堤の上を、二人で歩く。


「……俺は、あなたのころころ変わる表情とか、何かあった時に困ったように笑うのとか、考え事してる時に意識がどっか行くのとか、右に顔を傾けて教えるのとか、照れたら髪触るのとか、全部、かわいいと思ってます」


「……ありがとう」



「何か食ってる時も、かわいい。どんどん食べさせたくなる」


「……お手柔らかに」



「壁とか、関係なしに踏み込んでくるのとか」


「……兄と、仲良くなりたかったからね」



「ゲーム好きなところ。毎日、楽しかった」


「……私もだよ」



「あと、大人かと思えば、子どもっぽいところ。しっかりしてるようで、変なところで抜けているところとか」


「……あまり成長していないということだろうか(笑)」



「勉強、教えてくれて、ありがとう」


「……どういたしまして」



「俺は、これから、同じ大学に行って、同じ大学じゃなかったとしても一緒に住んで、あなたに近付く男を撃退して(笑)、ゆくゆくは父さんを説得して、認めてもらおうと思っていました。なのに、なんでいなくなるんだよ……」


「……ごめんね」


夕日が沈んでいく。

二人に残された時間が、静かに失われていく。



「紫苑、今までちゃんと言わなかったけど、私も紫苑のことが好きだよ。初めて会った時は無愛想だなと思ったけど、仲良くなったら普通に笑うし、思ったことが顔に出ちゃうところとか、実は優しいところとか、好きだなって思ったよ。面倒くさがりなのに、いつも私のわがままに付き合ってくれたよね。毎日一緒にいられて、本当に楽しかったよ。ありがとう」



帰りの電車の中。

隣りに座っているのに、お互いに触れることはせず、言葉も交わさないけれど、確かに、優しい時間が流れていた。


このまま、時間が止まってしまえばいいのにーーと思った。

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