第29話 3月17日 甘々と、真夜中モノローグ
私に残った時間は、あと一週間。
残った時間を全て、紫苑にあげると約束したから、学校以外はずっと一緒にいる。
本当は学校も休みたい。けれど、絵梨花として生きるなら、休むことはできない気がする。
両親に心配をかけたくないし、友達になった子たちにも、仲良くしてくれたお礼をしたいから。
「今日も一日、疲れたねぇ」
いつものように、紫苑の部屋でゴロゴロしている。
「……本当は大人なんだよね? いつも、そんなにゴロゴロしてるの?」
「社会に出るとね、いろいろあるんだよ? 学生時代にはありえなかった、この世の理不尽との闘いが。外でしっかりやるから、家でくらい、ゴロゴロしたいものなのよ」
というより、それを許してくれる人の前では、素の自分でいたいんです。
「……紫苑の前だけだから、いいでしょ」
「なんだもう、本当にかわいいな!」
「そんなことより、またゲームしよ」
「はいはい」
紫苑と二人、笑い合う。
私たちは、絶対に破ってはならない約束をした。
ーー今後、お互いの体には、触れないこと。
絵梨花の体である以上、本人の了承を得ずに、触れさせるわけにはいかないと思うから。
絵梨花は、紫苑に触れて欲しかったかもしれない。
でも、自分ではない女を好きな紫苑に触れてほしいとは思わないだろう。
これが、私の、絵梨花に対するけじめである。
絵梨花、ごめんね。
あなたの願いは、全部叶えてあげたかったけど。
紫苑の心だけは、私にちょうだい。
好きだと分かった途端に、触れられなくなった。
これが、あなたへの償いになるのかもしれない。
夜は、絵梨花の部屋に戻ろうとしたけれど、紫苑が「いてほしい」と言うので、従うことにしている。
紫苑が、ベッドは私に譲り自分は床で寝ると言うので、とても申し訳なく思う。
一切触れないとの約束で、同じベッドで寝てみることにした。
「さすがに、狭いね……」
隣に並ぶと、どこかが触れてしまいそうになる。
向かい合わせになると、吐息がかかって恥ずかしくなる。
近すぎて、緊張で眠れる気がしない。
「……これは、俺の方が無理……」
珍しく、紫苑が照れている。
「……触れたくなるので……」
いつもは平然としているけれど、普通に男の子なんだと思うと、私の方が恥ずかしくなった。
「……やっぱり、部屋に戻ろうか?」
「ダメ。それなら、俺が床で寝る」
紫苑は、床にクッションを置き、毛布にくるまって、ふて寝を始めた。
「……ねぇ、触れられないのに、なんで夜もずっと一緒にいようとするの?」
背中を向けて、ふて寝をしている紫苑に問う。
「あなたと同じ空間にいたいからですよ。あと、あなたのことを忘れたくないから。八年後の世界に戻ったら、見た目が違うんだよね? 話し方とか、笑い方とか、仕草とか、たくさん覚えていないと、俺が見つけられないでしょ……」
彼は、そう言って、眠りに落ちた。
ーー真夜中に目が覚めた。
眠るあなたの顔を見て、悲しくなっているの、知らないでしょう。
一緒にいれば、嬉しいし、楽しい。
でも、一緒にいればいるほどに、その先にある別れが悲しくて仕方がない。
どうして、こんなに好きになってしまったのだろうね。
あなたは、私のことを好きだって言う。
あなたは知らないだろうけど、きっと、私の方がずっと好きだよ。
そんなことを考えながら、もう触れることもできないあなたを、ただ見つめています。




