第28話 3月16日 親孝行のススメ
今日は父が出張から帰ってくるので、母に頼んで、私と紫苑で【父を労う会】を開催することにした。
「お前、フライパン焦がすなよ」
「ごめん〜」
目玉焼き一つ、まともに焼けないとは。
ハンバーグにのせたかっただけなのに。
「……お前、本当に、あの絵梨花じゃないんだな……」
「そうだって言ってるじゃん」
こんなことで、いとも簡単に他人説を証明できてしまうとは。
「ていうか、あの絵梨花が勉強できてる時点で、おかしいと思うべきだったのかもな。こんなこと、思い付くわけがないけど」
「信じていただけたようで、良かったです」
それにしても、火加減とか味付けとか、調理センスが絶望的にないんだよね。
物心ついたときには、食べ物は学校や塾の合間に買うものだと思って育ったからなのかーー
また嫌なことを思い出してしまった。
「こっちはもういいから、あっち片付けて」
ということで、私が片付け担当で、料理担当は紫苑になった。
父が帰宅し、母とも一緒にテーブルを囲む。
「二人で作ってくれたの? 美味しそうね」
母はそう言いますが。
すみませんーー作ったのは紫苑一人です。
「お父さん、お疲れ様です」
「ありがとう」
父がキッチンの皿に乗っている焦げた目玉焼きを見つける。
「あれは……」
「バカ、なんでお前、片付けてないんだよ!」
「だって、食べ物を捨てるなんて、できないし!」
小声で話していると、父が焦げた目玉焼きの皿の方へ歩いていく。
「……これ、絵梨花が……?」
「はい、ごめんなさい! 焦がしました、ごめんなさい!」
「……懐かしいなぁ、僕が男手一人で絵梨花を育てようとしていた時に作ってたのも、こんなだった。僕は、目玉焼きなら、たまに成功していたから。そんなの、再現しなくて良かったのに」
目を潤ませながら、思い出にふける父。
ーーへ?
そういえば、絵梨花のブログに書いてあったな、そんなこと。
「お父さん、絵梨花はお父さんの焦げた目玉焼きが、大好きでした。お母さん、いつもありがとうございます。父にはお母さんが必要です。これからも父を支えてあげて下さい」
思いがけず、絵梨花のセリフを伝えることができてしまった。
これも神のお導きか、はたまた、ただの偶然なのか。
父母の後ろで、紫苑が今にも吹き出しそうになって笑いをこらえているけど、まあいいだろう。
父と母への感謝の気持ちを、直接伝えることができた。
ーー本当は、これからもずっと、あなたたちの娘でいたかったです。
さてと。
あとは、計画の最終確認だ。
「紫苑くんに、お願いがあります」
「はい、なんでしょう」
「計画を遂行するに当たり、また、未来を改変させないために、三つの約束をしていただきます」
<その1>
絵梨花のPCには非公開ブログがあったけど、誰にも見せたくはなかったと思うので、削除しました。
PCごと初期化しようかとも思いましたが、他に必要なものがあったらいけないので、とりあえずブログだけ削除しました。
他に何かが見つかって、私の行動と辻褄が合わないことがあったら、なんとか調整してください。
<その2>
絵梨花の体はだいぶ限界が来ています。
魂が抜ける時が来たら、急に死ぬと思います。
道で死んだら警察沙汰になるので、3月24日の午後になったら病院に行きます。
そのまま入院して死ぬと思うので、絵梨花が死んだ後、みんなへのフォローをお願いします。
<その3>
私(中身)のことを、詮索しないでください。
もし、2025年までの間に出会うと、未来が変わってしまいます。
詮索しても会えないかもしれないし、未来で死んでいるかもしれません。
積極的な改変は避けたいので、探さないでください。
「以上、わかりましたか?」
「1と2については、大丈夫だと思う。3については……どうかなぁ? だって今、この世界のどこかにあなたの本体がいるんでしょ?」
「だめだよ! 会ってしまうと私がここに来れなくなる。それに、あの頃の私は、勉強ばっかりでつまんない子だったから、好きにはならないと思うよ。ゲームはやってたけど、それ以外はずっと勉強みたいな。つまらない高校生活だったなぁ……大学生になってからは、今みたいな性格になったんだけどね」
「……わかった。でも、名前くらいは教えてくれてもいいんじゃない? 中身は絵梨花じゃないのに、絵梨花って言うのもさ」
「名前もダメ。それに、絵梨花に絵梨花じゃない名前で呼びかけるのは、側から見ると変でしょ?」
「わかった。でも、俺のことは紫苑って呼び捨てにして」
くったくなく笑う紫苑の笑顔に、胸をギュッと掴まれる。
人の気持ちも知らないでーー
どこまで好きにさせるのか。
「わかった……紫苑」




