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第18話 2月20日- 勉強会

「絵梨花、どうかしたの?」


放課後、友人の鞠が声をかけてきた。



「あ、ごめん。何か言った?」


「来週、期末テストだから、みんなで勉強会するって言ったじゃん!」


ーーあぁ、そうだった。

来週、期末という名の学年末テストがあるからって、希望者が集まって勉強会をするんだった。


猫又に真実を告げられてからというもの、ここ数日間、何をするにも集中できない。


頭の中に嫌な記憶がとめどなく流れるのだ。

そして、絵梨花と自分の死について、どうしたらいいのか迷っている。


本当は何も考えずに、ただぼーっとしていたい。

ーーでも、みんなの役に立ちたい気持ちもあるから。

ここは、気持ちを切り替えて頑張ろう。



「ごめん、図書館だったよね。行こうか」


鞠と図書館に行くと、クラスの垣根を超えた勉強会参加者が、たくさんいた。


紫苑もいる。

隣りには、莉々。

いつもの美少女スマイルで話しかけている。


絵梨花は、喜ぶだろうかーー

それとも、悲しむだろうか。

少しだけ、寂しい気持ちになるのは、絵梨花の体の影響だろうか。



「橘さん、ここ、教えてよ」


「これはね……」


数学教師なので、数学しか教えられないかと思われるかもしれないが、大学時代の家庭教師バイトのおかげで、全教科を教えることができる。



「絵梨花ちゃんって、実は頭良かったんだね」


ーーごめんなさい。中身、絵梨花じゃないんです。



「教え方、上手だね。先生みたい」


ーー現役教師ですので。



「いつの間に勉強してたの?」


ーー八年前には、すでに。


喜んでもらえるのは素直に嬉しいし、みんなのお役に立てるのであれば、絵梨花もきっと喜んでくれるはず。



「橘さん、ちょっといいかな?」


学年総合一位の藤川くんが、離れた所から手招きする。


「何ですか?」


藤川くんは、生徒会長でありバスケ部キャプテンという、文武両道系イケメンだ。

背が高くてガタイもいいから、近づくと少し圧を感じる。


「橘さんって、明るくなったよね」


「ははっ、みんなにそう言われます」


ーーだって、中身が違いますから。



「今頃、橘さんの可愛さに気付いたよ」


「……それは、どうも」


ーー絵梨花を褒めてくれたんなら、ありがとね。



「兄と区別するために、名前で呼んでもいい?」


ーーは?

どんだけ女にモテるのか知らないけど、馴れ馴れしいな。



「いやぁ〜、どうなんでしょ」


バッサリ斬り捨てると角が立ちそうなので、とりあえず苦笑いで返す。

察して下さい。



「絵梨花、俺と付き合わない? 俺、頭いい子が好きなんだよね」


ーーもう呼んでるし。

許可してないのに、呼んでるし。



「いやぁ、私に藤川くんは、もったいないですぅ」


ーーていうか、私、絵梨花じゃないし。

もうすぐ消えるし。

これだけ「YES」と言わないんだから、察して下さい!



「いいじゃん、付き合おうよ」


ーー近い!

いつの間にか、両手で壁ドン体勢になってる。

逃げ場がない。


「あの……困りまーー」



ーーその時。


「絵梨花」


声の先には、紫苑がいた。


「母さんが、今すぐ帰って来いって、さっき連絡きた」


「え、お母さんが?藤川くん、ごめんね。みんなにも言っといて。さよなら」


「ほら、行くぞ」


紫苑が私の手首を掴み、急いで店を後にする。



紫苑に手首を掴まれたまま、自宅への道を二人歩いていく。

紫苑は、何もしゃべらない。


「お母さん、何があったんだろうね?」


「……あれは、嘘」


「嘘?」


「だって、お前、困ってたよね?」


「あははっ、藤川くんがあんなこと言うなんて、どうしたもんかと思ったよ。本当の私のことなんて、何も知らないのにね?」


いつかの紫苑が言っていた言葉を、まさか自分が言うことになるなんて思ってもみなかった。



手を引いて前を歩いていた紫苑が、振り返る。


「……あと、何か隠してない?」



紫苑の心配そうな眼差しに、ドキリとした。


「……何もないけど?」


言えるわけないよーーこんなこと。



「俺にも、言えないこと……?」


掴んでいた手首を離し、紫苑が私を見つめている。


今後どうするか決めきれてないのに、無駄に心配をかけたくない。



「心配してくれて、ありがとう。夜中にゲームやりすぎて、ちょっと寝不足なだけだよ」


精一杯、笑ってみせた。



……………。


沈黙が流れる。



「それより! さっき、絵梨花って呼んだよね? お前じゃなくて、ついに絵梨花って呼んだよね?」


気まずい雰囲気を消したくて、わざとおどけて言ってみる。



「……だって、あれは、名前呼ぶしかなかっただろ! 区別として!」


赤面しながらムキになって弁明する紫苑。

私にだけ見せてくれる表情に、少しだけ嬉しくなる。


「……あと、みんなで勉強会もいいかもしれないけど、俺とゲームしたり勉強する時間が減るだろうが」


小声で言ってるけど、しっかり聞こえてるよ。

私は、紫苑にとって必要な人に、なれているのかな。


「もう、しょうがないなぁ。そんなに私と一緒にゲームと勉強がしたいのかぁ。紫苑くんがそう言うなら、これからは、今まで以上に入り浸らせていただきます!」


「……いつでもどうぞ」


紫苑と笑い合い、二人並んで家に帰る。

幸せって、こういうことを言うんだなーーそう思った。

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