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第15話 2月14日 Vのつく日

二月になり、保健室登校からクラス登校へ移行した。


実力テストの結果からか、勉強を教えてと声が掛かることが多くなった。

もちろん、休み時間に友達と話したり、お昼休みにはみんなでお弁当を食べたり、充実した毎日を過ごしている。


学校って、こんなに楽しかったんだな。

勉強に、恋に、部活に、みんなキラキラしていて、これが青春というものなのだろうか。


なんとなく他人事のようにも思えるが、私は学校という空間が、割と好きらしい。

むしろ、好きになったーーというべきか。



クラスの様子をぼんやり眺めていると、最近、仲良くなった小出(こで)(まり)が、話しかけて来た。


「絵梨花ちゃん、もうすぐバレンタインだね。今年はどうするつもりなの? 紫苑くんのチョコ」


唐突に言われたから、飲んでいたお茶を吹き出してしまった。


「は? 兄なんだから、チョコなんてあげないよ?」


鞠は、いたずらっぽく無邪気に笑う。


「あ、忘れてるんだったよね、ごめん。絵梨花ちゃん、昨年は紫苑くんへのチョコ配達人みたいになってたんだよ」


ーーあ、そういうことね。

うちのモテ兄貴に直接渡せないチョコが、私の方に集まってくるってわけね。

はい、理解しました。


「まったく、自分で渡せばいいのにねぇ……」



*****



そして、バレンタイン当日がやってきた。



朝っぱらから、帰る直前まで


「橘さん、お願い、紫苑くんに渡して」

「紫苑くんへ、お願い」

「私もお願い」

「私も」

「橘先輩に、お願いします」


ーーいや、想像以上に来るし。

違うクラスどころか、違う学年からも来るし。

どうなってるのよ、これは。


去年の絵梨花は、何を思いながら受け取っていたのだろう。



「ほら、すごいでしょう? 紫苑くんは。昨年も紙袋パンパンに持って帰ってたよ、絵梨花ちゃんが」


鞠が、ニヤニヤと得意気に笑っている。

面白がっているのか、わざわざ紙袋まで用意してくれていた。


今年は、二袋にもなった。

昨年よりも増えてるってことじゃん。

両手にかかる重量感がすごい。


「本当に、自分で渡せばいいのに!」



なんだよ。

女子と仲良くしようともしてないのに、基本塩対応なのに、なんでこんなにモテるんだよ。

ほとんど話したこともないでしょ、この子たち。


顔か? 顔だけか?

いや、顔以外にも良いところはあるけども!



靴箱まで行くと、紫苑が待っていた。

相変わらず涼しい顔しやがって。


「ちょっと、紫苑くん! 君へのチョコなんだから、持って!」


チョコでいっぱいになった二袋を、手渡す。


「……え〜……」



両手に紙袋を下げる紫苑の横で、足取り軽く歩く。


「今日は、あのクエストやって、あの素材集めて……って、手伝ってよね?」


「はいはい」


重量感たっぷりのチョコ袋を下げながら歩く紫苑は、ため息をつつも、少し楽しみにしてくれているような、そんな気がした。



「その後に、みっちり勉強を教えてあげるからね!」


「はいはい」



「喉が乾いたから、あそこのコンビニで飲み物買ってくる」


私は、コンビニに向かってダッシュする。

ちょっとだけ目眩がした気がしたけどーー調子に乗りすぎたかな。



「はい、飲み物」


紙袋を地面に置いた紫苑に、ペットボトルの水を手渡す。


「さんきゅ」


「あ、ついでに私からも義理チョコをあげよう。そして、また袋が少しだけ重くなりましたとさ」


ふふふと笑いながら、ついでに買った一口チョコを紙袋の中にコロンと入れた。



「それにしても、紫苑くん、モテモテだねぇ。この中から彼女を選んだりはしないの?」


ペットボトルに口をつけながら、聞いてみる。



「なんか……面倒くさいんだよね」


「面倒くさい……だと? 贅沢だな!」


「違う。今まで、告白されて何人かと付き合ってはみたけど、俺がゲームを優先すると、結局別れることになるんだよ。『私よりゲームの方が大事なの?』みたいな?」



確かに、自分の趣味を受け入れてもらえなかったら、関係もうまくいかなくなるよね。

わかるわかる。


「この中にゲームやりたいって子、いるかもよ?」


「表向きだけ理解するふりしても、本心から面白いと思ってやる奴じゃないと続かんでしょ。覚える気がないのに『教えて』とか、『見てるからやって』とか、面倒でしかない」


「……そういうものかね?」



「だいたい、俺がゲーム好きだと知ってたら、ゲームきっかけに仲良くなろうとするだろ、普通。そういうのないから、みんな、本当の俺のことなんて、何も知らんのよ」


紫苑が、複雑な表情で笑う。

選び放題なイケメンでも、いろいろと思うところはあるんだな。



ーーふと、莉々のことを思い出した。


「そうだ、ほら、雨宮莉々ちゃん、あの子とかどう?」


「顔は文句なしに可愛いよね……でも、すげー疲れそう。それに、別に俺のことが好きなわけじゃないよ、ああいうタイプは」



ーーうーん?

あれだけ露骨にアピールされているのに?

私に送られて来るLIMEでは、いつも君の話題なんですけど?

もしや、紫苑は恋愛に鈍感なのだろうか。


「誰とも付き合う気がないなら、チョコなんて受け取らなければいいのに」



紫苑は、呆れたようにため息を吐く。


「俺は受け取らないようにしたよ。お前が勝手にもらってきたんだろうが」


そういえば、靴箱での紫苑は、チョコなんて一個も持っていなかった。


ーー本人が受け取らないから、私の方に来るのか。



「ごめん! 紫苑くんに直接渡すことのできない恥ずかしがり屋さんの分が、こっちに来るんだと思ってた」


「……これ、片付けるの、手伝えよ?」



「みんな、ごめん……」


紫苑はちゃんと食べるからね。

ちゃんと見守りますからね。

その残りは、私めがいただきますことを、どうかお許しください。


今日からしばらくの間、チョコまみれの毎日になりそうだ。


それと、先日のバイト代の一部が、マシュマロかクッキーとして消えることになるのだろう。

紫苑くん、ごめんね!

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