6話 星
流石は創造者の城とでも言うべきなのだろう。エンジェリア達は、手厚い歓迎を受けていた。だが、
「フュリーナ達には、酒を出してくれているのに、僕らはなしって酷くない?」
フュリーナ達、別室歓迎組は手厚い歓迎の上、宴のようになっているようだが、フォル達は、飲み物はジュースだけ。
エンジェリアは、大喜びだが、エンジェリアだけだ。
「ハッハッハー、楽しんどるかぁ?ガキども」
「あー、そういう事。君らにとって僕らは子供って事?転生後の年齢からしても、エレとゼロ以外は、五十年以上は余裕で生きてるのに」
厳つい男が、フォル達の部屋を訪れた。なんとなくだが、雰囲気がゼーシェリオンとゼムレーグに似ている。
「どぉしても会いたいつって、アイツに代わってもらったんだ。あのじょぉちゃん達は、楽しそうにしってっから安心しろ」
「……」
笑顔を見せる、厳つい男を、ゼーシェリオンとゼムレーグが、じっと見つめている。
「よぉ、久しぶりだなぁ。つっても、覚えてはないか。エレシェフィールじょぉちゃんも」
「覚えてないの。でも、なんとなく分かる気がする。でも、でも、不思議な事があるの」
「なんだぁ?」
「雰囲気はなんとなく似てる気がするのに、どうしたらこんなに可愛い双子が産まれるの?って感じなの」
「ハッハッハ!じょぉちゃんは変わんねぇなぁ。それはな、その双子の母親がとんでもない美女だったからだ。アイツの方もだ。あの双子、似てねぇだろぉ?」
エンジェリアが、こくこくと頷いている。
「……」
「……あの、名前、呼んで、ください」
「おぉ。ゼムレーグ、覚えてはないだろぉが、初めて魔法を教えたのは俺なんだ。初めて魔法が成功した時の喜んだ顔は今でも忘れらんねぇ」
そう言って、厳つい男が、ゼムレーグの頭を撫でた。頭を撫でてもらったゼムレーグが、泣いて、厳つい男に抱きついた。
「……フィル、双子とはいえ、兄である。他に身内なんて知らない。僕は、君に」
「一人で面倒を見るのは当たり前だった。気を張っていないといえば嘘だな」
「……」
「けど、おれが帰ってくると、無理してまでフォルは走っておれを出迎えにくる。高熱で、動けなかった時も、笑顔を見せてくれる。迷惑だと思った事なんてない。おれの弟でいてくれて良かった。今も、そう思ってる」
フィルがそう言って、フォルの頭を撫でた。
「……エレ、ぎゅぅ。エレは、家族いないから、俺が家族なんだ」
「ぎゅぅ」
エンジェリアとゼーシェリオンが抱き合っている。
――エレも、知るのが怖いだけで、ほんとは……
「フィル、明日、エレの両親の名前を聞こう。それで、少しでも、手がかりを探して、見つけてあげたい」
「そうだな」
「……アーティティアル。それが、アイツの妹……エレシェフィールじょぉちゃんの母親だ」
「……ぷみゅ?それって……聞いた事ある気がするの」
崩壊の書に書かれていた。愛姫と一緒にいた時があると。それなら、エクシェフィーを探らずとも、見つける事ができるかもしれない。
「ゼーシェリオン、こっちへ来い」
「……なでなで」
ゼーシェリオンが、厳つい男に頭を撫でてもらう。
「フォルも、創造者様とあまあまして良いの。エレの事気にしなくて良いの」
「僕は良いよ。君に甘えるのが一番好きだから。君を甘やかすのも好きだよ?両方好き」
「ぷみゅぅ。すきすき。らぶらぶ。なの」
フォルは、エンジェリアを抱きしめ、額に口付けをした。
エンジェリアは、頬をほんのり赤らめ、にっこりと笑って、フォルをじっと見つめている。
「そこはなでだろ」
「なでだな」
「……なで」
「なで」
「エレにする愛情表現は、なでよりこっちの方が上なんだ。空気読めなんてするわけないでしょ。空気よりもエレ優先」
「ぷみゅぅ」
エンジェリアが、フォルの胸に顔を擦り寄せる。エンジェリアにとっては、一番の愛情表現だ。
「……ゼロ、ゼム、ちょっとこっちきて」
フォルは、ゼーシェリオンとゼムレーグを呼び、小声で話す。
「父様、ここで一緒に話そ。って言って。できれば、飲み物を持ってきて、一晩話明かそう的な感じで」
「……ああ。そういう事か。けど、いけんのか?」
「知らないよ」
「一応、やってみようよ。ゼロ」
「そうだな」
ゼーシェリオンとゼムレーグが、厳つい男に近づくと、上目遣いで
「父様、おさ……一緒に、話いっぱいしたい。だから、この部屋で、一晩楽しく話したい。エレねか……エレとフォル達と一緒に」
「父様、見ていたかもしれないけど、いっぱい話がしたい。ゼロとの事とか、いっぱい。だから、ここで一緒に話そ?」
ゼーシェリオンが、若干不安要素であるが、ゼムレーグが、自然とやってくれている。
「フォル、俺を見て、この手が通じると考えたか?俺は、これまでアイツが騙されないよう睨みを効かせてきている。その意味が分からねぇ、ってこたぁねぇよな?」
「そっちこそ何か勘違いしてない?僕は、君らがさっきからずっと嘘ついているから、ほんとの事を話してもらいたい」
フォルの瞳の色が黄金に変わる。
「嘘?」
「そお思った、じゃねぇのか。気づいたわけぉ聞かせろ」
「……悪いんだけど、言えない。この子らに、聞かせるべきじゃない。その嘘は、優しさだから。ここで言えるのは、創造者のあなたも、名乗らないのは、その嘘が理由」
ゼーシェリオンとゼムレーグの反応を見て、エンジェリアの反応を見て、その嘘をここで言えなかった。期待を裏切る事になるからだ。
「フォル!酒を持ってくる。俺一人で多くは持てねぇ。手伝え。エレと一緒になぁ」
「エレは」
「……フォル、この人は、エレだけは知る必要があるから言ってるんだよ?でも、エレからも条件。フィルも連れてって。フィルなら大丈夫だと思うよ?」
「俺も、エレがなら俺も知りたい!」
「ゼーシェリオンとゼムレーグはだめだ。二人の生みの親からの命だ」
その発言から、フォルが感じた嘘というものが何か。一つは確実にこれだというものに気づいた。
「エレ、もしかして初めから」
「エレだけじゃないよ?フィルも気づいてたはずだよ。エレもフィルも、魔法具に注いできた情熱は、他の人よりもとっても多いの。それこそ、少し見ただけで、魔法具によるものと気づくくらい」
「動きが人と違う。僅かに、油のような匂いがする。その仕事なんだろうと思っていた。けど、エレがこっそり教えてくれた。創造者が動く時、僅かに人ではない音がしたって」
「は?それって……」
「ゼロ、ゼロは知らなくて良いの。この先は、本当はエレ以外は知っちゃだめ。エレシェフィール。そんな名前を創造者がつけたって事は、エレを、創造者の代わりにするため」
未来視を持っている。だから知っているというわけではないだろう。それが、愛姫の役割。エンジェリアが、その重みに耐えきれなかった、役割。
「……そういう事」
「やはり気づくか。愛姫は、その役割により、それに気づける。だが、気づけるのは愛姫だけ。昔からずっと、そうだった」
「今の愛姫は何代目?」
「丁度百。エレシェフィールが選ばれたの以外は、全て愛姫の子が選ばれただけ。エレシェフィールは、愛姫に子が生まれず、偶然出会った。それで選ばれた。俺はエレシェフィールと会ったのは一度。俺達は、エレシェフィールの代の王について何も知らない。言えるのは、異常というだけ」
「でも、ゼロとゼムの親代わりに、二人を育ててたって話はほんと。なんじゃない?って事は、誰一人として、僕ら全員の出自なんて知らない。それで良いかな?」
「おお。俺達、人形ではなく、本物がな。これ以上の話は二人が聞いていない場所にしよう。その方が良いだろぉ?」
エンジェリアが、こくりと頷いた。
「ゼロ、ゼム。これだけは聞いて?星は、小さな可能性から生まれた。いろんな場所から小さな可能性が集まって生まれた。星は、はじめに女神や神とか言われるような人を産んだ。いっぱい争いが起こった。星は、やがて人の姿を得た。星は、一人の少女に愛と役割を与えた。悠久の時、少女が選ぶ人達といる事。世界を見守り、必要によっては、滅ぼす事」
エンジェリアが、そう言って、ゼーシェリオンの頬に口付けをした。
「お話、聞きいってくる。だから、ゼロはゼムと一緒に、おとなしく待ってるの」
「……ああ」
「おにぃさん。一緒に行くの」
「酒取り行くだけだがなぁ。人形でも、飲めるんだ」
フォル達は、ゼーシェリオンとゼムレーグを残し、部屋を出た。