4話 創造者
ゼムレーグ達と合流し、フォル達は、エンジェリアが示した創造者のいる城へ向かった。
エンジェリアは方向については何も言っていない。どの方角に創造者の城があるのか。それを聞いてない以上、方角を知らないまま歩かなければならない。
「フィル、できる?」
「簡単だ。血縁なら、これで居場所が分かるって事だろう?」
「うん。って事。それで、エレが分からなかった部分を補う事ができる」
探知の花。解呪の花同様、それには、一般的な魔法以上の効果がある。
フィルが、短剣で指に傷を作り、花に血を流す。
「フィル、癒し魔法使うよ」
「これだけで使う必要ない」
「……ゼロ、ぺろして良いって」
「ぺろ……フィルの血もすき」
ゼーシェリオンが、物欲しそうに、じっとフィルの指を見つめている。
「ゼロにぺろされるか、癒し魔法で治すか。どっちにする?」
「ぺーろ、ぺーろ」
「……ぺろ」
ゼーシェリオンが目を輝かしているので断りづらかったのだろう。
ゼーシェリオンが、喜んでフィルの指を舐めた。
「フォル様、少し気になる事が」
「分かってる。でも、今はエレにむりさせたくないんだ」
「きしゃぁー!エレとフォルからはもらわない」
「って感じで、僕まで拒絶されるんだ」
「……ゼロ様、不味いとは思いますが、ゼロ様のためです。私の血をあげます。もらってください」
フュリーナがそう言って、ゼーシェリオンを抱き寄せた。
「ゼロ様が、エレ様やフォル様達以外にこうして触れられるのは苦手というのも知っております。ですが」
「不味くなんてない。エレは特別だから、多少は味が落ちるけど、不味くない。ありがと、フュリねぇ。その気持ちだけで十分だ」
「ゼロ様」
ゼーシェリオンが、フュリーナから離れた。
――ゼロは貧血になるとどうなるか自分で理解してる。なら、貧血にならない方法があるとしか考えられない。
「エレ、起きて」
「ふぁぁぁ。みゅ?もう朝?」
ゼーシェリオンが、安い人工血液の入った缶をエンジェリアに渡した。
エンジェリアが、缶を受け取り、じっと見つめる。しばらく見つめると、何かを察したかのように、こくりと頷いた。
エンジェリアが、にっこり笑って、ゼーシェリオンに、無理やり人工血液を飲ませた。
「ふみゅぅ。一仕事終えたの」
「エレが起きてくれねぇから、飲めなくなるところだったんだぞ」
「むぅ。そんな事言うならもうしてあげないもん。自分でやれば良いの」
「……なんでもありません。ありがとうございます」
「ぷみゅ。それで良いの。みゅみゅ。ご褒美にエレの魔力をあげるの」
エンジェリアが、ゼーシェリオンに魔力を食べさせる。
「フォル、繋がった」
「やっとか。この特殊空間だと魔法が使いづらい」
「ふみゅ。必要以上に使わない方が良いと思うの。簡単な魔法でも魔力いっぱい使っちゃう」
フォルは何度かここで魔法を使っている。この空間では、魔法の効果が低く、魔力を必要以上に使わなければ思っている効果は出ない。
エンジェリアも、メロディーズワールドを使った際にそれを体感したのだろう。
「とりあえず、歩いて行くのはやだから、ねむねむしておくの」
「うん。君が眠ってる間に、城まで連れてくよ」
「みゅ。お願いなの」
エンジェリアが、そう言って眠った。
「良く寝るなぁ。そんなに、魔力を使っているのか」
「だろうね。デューゼ、僕が寝てる間、誰が僕ら全員守ってたと思う?ううん、今も」
ぐっすり眠っている。それが、エンジェリアが絶えず全員を守っている証拠だ。
「この子はずっと僕らを守ってくれてるんだ。眠っているのは、絶えず魔力を使い続けてる証拠。この使い方だと、身体にかかる負荷が大きすぎる。それを極限まで減らすために、僕の側で眠るんだ」
――ほんと、愛姫の力は底がないよ。僕らに与えてくれる深い深い力がなければ、僕らジェルドがここまで恐れられる事なんてなかっただろうね。
フォルの側で眠るのは、悪夢を見ないためだろう。エンジェリアは、未来視の影響で、悪夢を見る事が多々ある。ゼーシェリオンとフォルは、その悪夢をある程度は防ぐ事ができる。
「そういえば、あの二組どうなったの?そろそろくっついた?」
「いやぁ、あいっかわらず、何も進展がない。あの二人も、あいも変わらず、両片思い中」
「へぇ、いまだにか」
フュリーナとリーグリードは、両片思い中。ギュリエンにいた頃から、ずっと。
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会話しながら歩いていると、城が見えてきた。
「お待ちしておりました。生命と氷の双子王様。その寝てる人と来てください。お連れ様は、彼女が案内します」
創造者の城の使用人だろう。エンジェリアも、呼ばれているが、人を見る目で見ていない。
「フィル、帰ろう」
「お待ちください!創造者様がお呼びなのですよ!」
「そう。僕らは創造者に呼ばれた客人だ。客人なら、それ相応に扱うべきじゃないのか?」
「王様方には、客人として扱っていると思われますが?それは客人ではございません。我々のような、高貴な身分でないどころか、奴隷です。中に入れるだけでも感謝して欲しいくらいです」
フォルにはそんな記憶がない。彼女の言葉を否定できない。だが
「それでも、創造者から呼ばれてるという事実は変わらない。それに、昔がどうであろうと、彼女は、創造者に並ぶ身分を与えられている。他でもない、創造者に。それに、彼女は僕の婚約者だ。それがどういう意味か理解してないのか?」
「……っ⁉︎で、ですが、それは人の姿をしているだけで、人ですらないんですよ!人ならざる化け物に身分など関係ありません!」
「話してるだけ時間の無駄だ。フィル」
「フォル、転移魔法使えないから、歩いて出口探さないと」
「面倒だけど、やるしかないでしょ。エレをこんな場所にいさせたくない」
エンジェリアが起きていない事に安堵している。エンジェリアがもし起きていれば、この言葉を聞いていれば、その場ではなにもないが、隠れて泣いているだろう。
「お待ちください!」
フォルが帰るのを止めようとする使用人を無視して、出口を探そうとする。
「待て」
短い一言。だが、止めようとする使用人とは比べ物にならないほど、その言葉に重圧がある。
「この子が起きていたら、そこの使用人の言葉でどれだけ傷ついてたと思ってんの?いくら創造者だからって、なにもなしに、使用人のした事だからで済ませてやるほど、僕らのエレへの愛情は軽くない」
「使用人は解雇。エレシェフィールに対する言動の数々は、私が変わって謝罪しよう」
一つ一つの言葉が重い。嘘などはない。これが、フォルとフィルの記憶のない血縁者。創造者という人物なのだろう。
「フュリーナ達は僕の大事な仲間だ。僕がいないからと、冷遇するようなら即帰らせてもらう。エレに関してもだ。まぁ、それは心配ないんだろうけど。エレを愛姫と選んだ相手なら」
「そちらのお嬢さん達は、私の最も信頼する相手に任せると約束する。エレシェフィール、起きているなら、そなたの声を聞きたい。それで了承していただけるか聞きたい」
フォルですら気づいていなかった。エンジェリアが起きていた事に。
「……匂いが足りません、エレにお話して欲しいなら、おにぃさんの匂いをくれないとなの」
「君ってほんとにどこ行っても変わんないね」
「ふっふっふ。それがエレなのです。エレは、どこへ行ってもエレなのです」
創造者が、エンジェリアの方に腕を伸ばす。
エンジェリアが、くんくんと匂いを嗅いだ。
「ふにゅ。匂い検査合格なの。お話を聞くの」
「……エレがそう言うなら、僕らは、エレには逆らえないから。でも、エレにあんな事聞かせたんだから、ふわふわのソファと美味しいジュースでも用意してくれないと」
フォルは、エンジェリアを見て「ねー」と言い合う。
「ここにある一番高価な甘味飲料と酒を用意する。それ以外にも、色々と用意する」
「エレ、行こっか」
「みゅ。エレ、自分で歩くの」
フォルは、エンジェリアを降ろし、手を繋いだ。
「一緒なの」
「うん。一緒」
フォルは、エンジェリアと一緒に、城の中へ入った。