3話 遠い過去の世界
「フォル、起きるの……起きないと、エレがちゅぅってしちゃうの。いっぱいいたずらしちゃうの」
エンジェリアの声が聞こえて目を開けると、今にも唇が重なりそうな距離でエンジェリアが起こしてくれていた。
「……起きたの」
「いたずらして良いよ?君なら、いくらでも」
「ぷみゃ⁉︎」
「ああ、仕返しなんて考えなくて良いよ。そんなの、僕の可愛いエレにするはずないから」
エンジェリアが顔を近づける。だが、唇が重なる直前で、ゼーシェリオンにエンジェリアを奪われた。
「エレ、お前はここがどこか調べろ。フォルを休ませてやれ」
「休ませてるの。ちょっといたずらしようとしてたら起きちゃっただけなの」
「その前まで散々匂い嗅いでただろ」
「ぷみゃ⁉︎バラすのだめなの!」
エンジェリアが、瞳に涙を溜めてフォルの方を見る。
「ぷみゅぅ。エレ全然分かんないの。いっぱい情報過多でもう頭ぐるぐるなの」
「エレ、こっちおいで。ゼロ、ここがどこか分かっても、このままだとエレが使い物にならなくなる。少し休ませてあげるさ」
「……むぅ……休ませる」
ゼーシェリオンが、嫌々エンジェリアをフォルに渡した。
エンジェリアが、フィルの元にこれて喜んでいる。
「エレ、今分かってる事だけ教えてくれる?」
「みゅ。あのね、エレ調査隊の調査だと、ここは、昔の世界に似てるの。でも、昔の世界よりも、もっと昔の世界の方がきっと似てると思うの。前の前のって考えてたらぐるぐるで、ぐるぐるになっちゃって、ぴゅぅってなっちゃったの」
エンジェリアが、そう言って、フォルに寄りかかった。
「エレ、君がそう感じたのはどうして?」
「ぷみゅぅ?どうしてなんだろう。エレ、良く分かんない。なんだか、そんな感じがしたの。ゼロはしないって言って、エレが調査ちゃんとしてないって言うんだけど」
「そっか」
エンジェリアが「ゼロひどい」と言って、ぷぅっと頬を膨らませている。フォルは、エンジェリアの頭を撫でてあげた。
――愛姫だから感じたのか?多分そうじゃない。エレが何かを見つけてそう感じたんだろう。だとしたら、何を見つけた?何を見つければ、前の世界の方が似てると言える?
「ぷみゅ。ふみゅぅ……えっと……なんだか、エレがそう感じたのは不思議な感じなの。懐かしい感じがするの。それに、それに、フォルやフィルって感じがする。この空間の主が、フォルやフィルに近しい人なのかな?」
「僕とフィルに……まさか」
「誰かいるの?心当たり」
長い事空間があれば、魔物が出てもおかしくはない。
この空間に取り込まれた事で、フュリーナ達は、結果的に神獣達の監視を逃がれている。
――都合が良すぎるんだ。こんなの、僕らを助けているとしか思えない。それに、エレの感じた、僕とフィルに似てる。それ以外、考えられない。
「……創造者」
「ふぇ⁉︎それって、あの、世界が崩壊したら創世させているって噂の、あの創造者様⁉︎」
「それ以外に創造者と呼ばれる人なんていないと思うけど?君は、僕とフィルに似てるって言っていたから、そうとしか考えられないんだ」
「ふぇ?どうして?」
「僕とフィルが、創造者の血縁だから。僕らにはそんな記憶ないんだけど、その事だけは昔から知ってるんだ。初めは信じらんなかったけど、こんな魔法なんて使えれば信じる他なかった。でも、これで分かったよ。ほんとなんだって」
エンジェリアが、驚いた表情で、フォルを見つめている。そんなエンジェリアが可愛く、微笑むと、エンジェリアが顔を真っ赤にして俯いた。
「どうしたの?」
「分かんないの。なんだか、記憶もないくらい昔から、ずっとすきだったみたいな……分かんないの。エレ、愛情なんて分かんないのに。どうして、愛情が分かるのか不思議で、それで、今のフォルを見てると、エレは、フォルを愛してたのかもって思えて……」
フォルは、耳まで赤くしているエンジェリアの額に口付けをした。エンジェリアが、瞳に涙を溜めて、抱きついた。
「フォル、少しだけ話良い?」
「うん。僕も話したかったとこだ」
「エレが話してたの、間違いないとしたら、呼んでるのは多分」
「僕らの事を呼んでるんだろうね。それに、エレ達も。ゼロとゼムは創造者の親友の子供だったらしいから」
行くのは良いのだが、どこにいるかが分からない。魔物がまた出てこないとは限らない状況で、迂闊に行動はできない。
「……僕らだけだったら良かったけど」
「……じぃー。フォルの匂いを思う存分嗅いでも良いんなら、エレがちょっとがんばっちゃうの」
エンジェリアなら、場所を知る事は可能だろう。
エンジェリアが、目を輝かしてフォルをじっと見つめている。
「……お好きにどうぞ」
「ぷんみゅぅー」
エンジェリアが、大喜びでフォルの匂いを嗅ぐ。
――これ、この子は恥ずかしくないんだか。
フュリーナ達も見ているが、エンジェリアは、気にしていない。心ゆくまで匂いを堪能している。
「ぷみゅぅ。この匂いのためだけにエレは頑張るの。この匂いはそれだけのものなの。エレの一番だいすきな匂い」
――そういえば、いつエレを好きになったんだっけ?気にした事なかったけど、エレにあんな事言われたら、いつだか気になる。
エンジェリアを始めて好きになった時が思い出せない。エンジェリアが、ここまでフォルを好きというようになったのか。そうなった時の事を思い出そうとしても思い出せない。
「……エレ、君はどうして僕がすきなの?愛が分からなくても、すきは分かるんでしょ?」
「なんでそんな事聞くの?」
「なんとなく。自分でも性格悪いって自覚あるから」
「ふみゅ。ちょっといじわるなの。でも、そんないじわるな笑顔も、真っ黒い笑顔も全部すき。フォルは、エレを救ってくれたから。エレを生かしてくれてるから」
――僕が今持っている記憶とエレが好きな理由は、ある。エレが、世界が変わる度に僕を好きになってるから?偶然?
「ぴゅぅ。エレの発作ずっとゼロとフォルが抑えてくれてたから、エレはこうして一緒にいれるの。だからすき。ゼロもすき。ゼロは家族としてすき」
エンジェリアが、そう言って、顔を擦り寄せる。
「フォル色々考えるのやなの。エレ見てくれないから。エレいないところでもやなの」
「……ほんと、僕らにはわがまま。でも、そうだね。今考えても仕方のない事だ。エレ、場所教えてくれる?」
「みゃみゃー」
占い術の応用で探すのだろう。
「みゅぅぅ……ぷみゅ……真っ暗の場所から、景色が変わる場所。おっきぃお城の中……すゃぁ」
「……エレ、起きて」
エンジェリアが、場所を教えた途端眠った。
「フィル、行ってみよう」
「エレは」
「僕が連れてくよ。この様子だと起きそうにない」
フォルは、エンジェリアを見て呆れた表情でそう言った。
エンジェリアを抱っこして、ゼーシェリオン達の方へ向かう。
「フォルが起きる前、エレはゼロに気づかれないように一人で休憩なしに調査してた。だから、疲れてたんだと思う」
「……お疲れ様。僕のお姫様」
フォルは、エンジェリアの額に口付けをした。
「フォル、ゼロとゼムになんて言う?エレは愛姫としてゼロ達よりも色々と知っている。それでも、受け入れきれていない。ゼロとゼムにそのまま説明したら、どんな反応するか」
「言ってみないと分からないよ。案外簡単に受け入れてくれるかも。エレは受け入れられてないと言うより、自分の記憶のなく、知らないはずの事を知っているから混乱しているだけだろうね」
「知識がある分、という事か」
「それに関しては僕らも変わらないけど、持ってる知識の量と、あの子のように少し色々考えただけでこうはならないから」
「エレ、起きろー」
ゼーシェリオンが、寝ているエンジェリアに気づいて駆け寄ってくる。
「起きないなら、エレ引き渡せー」
「……ゼロ、ずっと気になってたんだけど。君もしかして、エレが側にいてくれなくて拗ねてる?」
「……きしゃぁー!」
フォルが起きた時、エンジェリアを引き離したのは、調査関係なく、エンジェリアと一緒にいたかったからだろう。
エンジェリアが、ゼーシェリオンに黙って行動していた。その前も、一人だった。
――それでエレを働かせようと……自分が休ませれば良いのに、真面目だから。でも……
「この子僕のだから」
「……なら、これごともらう」
ゼーシェリオンが、そう言ってフォルに抱きついた。
「それなら良いよ。それより、ゼムを呼んでくれる?君なら、そこにいても呼べるでしょ?」
「呼んである。ゼムは少し離れてるから遅い。だから、それまでは、これ堪能する」
ゼーシェリオンが、そう言って、エンジェリアの頭を撫でた。
「話も聞いてた。フォルとフィルらぶは変わんない。エレもらぶ。どんな理由があっても、すきはすきだから」
「……うん。そうだね」