1話 再会
探し人が映像に映った場所。エンジェリア達と別れた後、フォルは一人でそこへきていた。
「それにしても、あれはなんだったんだ?転移魔法でもないのに突然消えるなんてあり得るのか?」
「さぁな。だが、この目で見た事が事実。それ以外に考える必要などない」
見つからないように隠れて、神獣達の会話を聞いている
――ここにきて正解だったな。エレ達にバレる前に帰らないと
「みゅ」
背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「こっちくるの」
バレた以上は言い訳せず従うしかない。フォルは、エンジェリアについていった。
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神獣達から離れた場所でエンジェリアが立ち止まった。
怒っている様子はない。
「言い訳なら聞かないの」
「ごめん」
「エレはフォルが大事なの。大好きなの」
「うん。知ってるよ。だから、ちゃんと考えてる。初めから全部済めば君の元へ帰るつもりだった」
エンジェリアは、フォルがエンジェリアの元へ帰ってこないかもしれないと心配していたのだろう。それで、ここまできたのかもしれない。
フォルは、エンジェリアの頭を撫でて安心させた。
「帰ってくるとか分かんないの。エレ、いつも信じて待っているのに、フォルはなかなか帰ってこないの。毎回毎回。だから、エレも連れてくの!エレを連れてかないとしゃぁってするの!」
「……ほんと君らってお節介すぎ。心配しすぎ」
「ふぇ?」
「フィル、バレないとでも思ってんの?僕がここにきたのが君にバレてるのとおんなじ。君がどこにいるのかも分かるよ」
ここへ来ていたのはエンジェリアだけではない。ゼーシェリオンとフィル。それに、ゼムレーグまで来ている。
「ふぇ⁉︎」
――驚いてるエレも可愛い。そろそろくるはずなんだが……
突然、辺りが真っ暗くなる。暗闇大っ嫌いのエンジェリアが泣きそうな顔をしているのを気づき、安心させるように抱きしめた。
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植物が一面を照らしている。光りを放つ蝶が飛んでいる。
「フォルがすきそうな景色なの。エレもすき」
「……」
――やっぱ、この場所って……だとしたら、どうしてここにフュリーナ達が?
崩壊の書に記されている場所。その場所とここは、かなり似ている。
「フォル?ふにゅにゅなの?じゃなくて、またなんか考えてるの」
「なんでもない。とりあえず、ここがどこなのか調べないと」
「ふみゅ。ゼロとゼムに任せるの。エレは、勝手な行動するなって言ったのにしてるんだから、ちゃんと反省してもらうの」
フォルとフィルも同罪のはずだが、エンジェリアは、ゼーシェリオンとゼムレーグにだけ反省を促している。
エンジェリアは、フォルに抱きついてゼーシェリオンとゼムレーグを見ている。
「……なんで俺らだけ」
「ふみゅ?真っ黒なの。真っ黒さんくるの」
真っ黒い霧。フォル達は、その中に飲み込まれた。
**********
「……ん……エレ?……誰もいない」
気がつくと、エンジェリア達がいない。
「お気づきですか」
ずっと聞きたかった、懐かしい声。その声の方を見ると、空色髪の女性が、心配そうに見ている。
「フュリーナ?」
「はい。リーグ達も一緒です。今は、私がフォル様の様子を見ているように言われて別行動をとっておりますが」
「そう、なんだ」
「ゼロ様達は見つかっておりません。ですが、エレ様は、フォル様と一緒にいました。今は、リーグ達と行動しているので、しばらくすれば戻ってくると思います」
「うん」
いざ目の前に会いたかった相手がいるとなると、言いたい事が出てこない。
「フォルー、エレ寂しかったー」
「エレ姫、ずっと楽しく話していたのに寂しかったんですか?」
戻ってきたエンジェリアが、フォルに抱きついた。
「フォルはエレの恋人のフォルなの!それ以外ないの!難しい事なんて、我慢しないといけない事なんて、全部全部なければ良いの!エレ、ゼロ探し行くから。しばらく帰ってこないから。フォルが素直になるまで絶対帰らないから。そうしたら、エレ一人で迷子になってふきゅぅってなって、にゃんにゃん泣いているかもしれないから」
エンジェリアが、そう言って、フォルから離れようとした。フォルは、エンジェリアを抱きしめて離さない。
「側、いて。君が僕に、この未来を与えてくれたんだ。だから、ずっと、側いてよ」
今まで、ギュゼルの統率として、絶対に弱さなんて見せられない。そんなふうにしてきていた。それが染み付いている。
いざ対面すると、それを崩す勇気などない。
震える手で、今にも泣きそうな表情でエンジェリアを抱きしめている。
「……ぎゅぅ」
「エレ」
「大丈夫だよ。フォルが知らない間にエレが散々教えてあげたから。フォルのかっこいいところも、可愛いところも。全部教えたの。そうしたら受け入れてくれたよ?だから、大丈夫」
エンジェリアは、フォルがこうなる事を見越していたのだろう。笑顔でそう言って、フォルの頭を撫でた。
「フォル様、申し訳ありません。こんなにも、長い間、不在になってしまって。仕事を任せてしまって」
「謝るのは僕の方だ。あの時、双子宮にいれば、僕が指揮官から外れて、戦地となっていた都へ行かなければ……双子宮なら大丈夫って、根拠のない理由で、僕は君らを見捨てたんだ」
瞳からぽたぽたと涙がこぼれ落ちる。
「……ぎゅぅ」
「え、エレ⁉︎」
「貧乳なのは我慢するの。これなら、誰にも見れないから」
エンジェリアの胸が、フォルの顔に当たる。
フォルが泣いている姿を、フュリーナ達に見せない配慮だろう。
「見捨てられたなんて誰も思っていませんわ。ずっと、ギュリエンを守るために戦ってくれていた事、知ってますので」
「エレ様がずっと、話してくれ、ました。フォル様が、した事も、全て。オレ達も、また、フォル様が、笑って欲しいです」
「リガーが、めっちゃ喋った。じゃなくて、オレ達、転生してから、何もなくなったギュリエンを見て、居場所がなくなったと思いました。ギュリエンがああなったのは、神獣達の話で知りました。神獣達から逃げていました。いつまでこうしていれば良いのか。長い時間の中、何度も挫けそうになりました」
「……」
「ですが、その度に、あの頃を思い出しました。本当に楽しそうに笑うフォル様の姿を何度も思い出しました。エレ姫が、何度も送ってくれたんです。フォル様の映像を。届いて、見れたのは少ないですが。そこには、あの笑顔はなかった。初めて送られたのは、ずっと泣いていた姿です。あれを見た日から、ずっと、どれだけ長い時間をかけても、必ず再会して、あの頃の笑顔を取り戻す。そのためだけに、神獣達から逃げる事を諦めなかったのです」
フォルが、フュリーナ達を見ると、瞳に涙を溜めて、今にも泣きそうな表情をしている。
「ねぇ、愛姫様。あの時、僕を止めてくれた時歌っていた歌、また聞かせてよ」
「みゅ?」
「聞きたいんだ」
「良いけど、お歌下手なエレ一人で歌いたくない。フォル一緒なら歌う。そうじゃなきゃや」
「えー、恥ずかしいんだけど。でも、それで歌ってくれるなら」
“消えない後悔。消せない過去。ずっとそれに囚われていた。
「迷って良いの」僕とおんなじ、世界に囚われた子。その言葉が、救いになった。
いつだって
許してなんて言わない。でも、会いたいんだ。だからずっと探し続けるよ。償い続けるよ。
ちゃんと思い出すよ。もう、忘れたいなんて思わない。僕は、自分の犯した罪と向き合って生きるから。
奪われた時間。消せない傷。ずっとそれで良いと思っていた。
「一緒に償う」聖なる星を守る、聖なる月の子。その言葉が、未来を見せた。
ありがと
許されなくて良いんだ。そう、思えるんだよ。だけど時々泣いても良い?弱くても良い?
ほんとは強くないんだ。でも、そうしないといけなかったから。僕は、誰にも弱さを見せてはいけないんだ。
枯れていく。世界が、何もかも。どうして僕は……
差し伸べられた、氷の華と純粋な音
僕の、愛おしい光の華音
やっと会えたね。ずっと、待っていたんだよ?
許してくれてありがと。また、一緒にいて?ずっと、ずっと、言いたかったんだ。ごめんって。
今度は間違えないよ。もう、後悔なんてしたくないから。僕は、自分の役割を受け入れて生きるから。”