エピローグ 勝者
夜になり、エンジェリアは、ゼーシェリオンに魔力と血を与えた。
「これ、魔法石」
「ふみゅ。受け取ったの。捕虜もお家返してあげるの。でも、次はないの。次は容赦ないの」
「あの作戦はもう対策済みだから、次は通用しねぇぞ」
「そんなの分かってるの。敵同士なんだから優しさいらないの。フォル、帰る。帰っていっぱいなでなでしてもらうの……べぇー」
エンジェリアは、一緒に来ていたフォルに抱っこしてもらい、城に帰った。
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フォルと一緒に一晩過ごし、翌日、エンジェリアの次なる作戦決行。
「ふっふっふ。これはもう勝ち確と言って良いの。エレにこういう勝負挑んだ事後悔させてあげるの」
「うん。ゼロが自分から挑んでいるわけではないけどね」
「良いの。そんな事は良いの。でも、そんな事を言うフォルもらぶなの」
「エレ、今日は朝からずっとフォルに抱きつきっぱなしだね」
「いつもの事だろう」
エンジェリアは、朝からずっとフォルから離れようとしない。フォルも、エンジェリアを離そうとしない。
エンジェリアは、森の映像を見るが、ゼーシェリオン国民は来ていない。
「これも想定済みなの。ここへ来なかったからってふみゅみゅってなるわけじゃないの。来なくても、エレの天才的な発明はぴゅみゅなの」
「そろそろやる?」
「ふみゅ。ちゃんと作動するか確かめてある?」
「うん。当然」
「フォルらぶなの。らぶがいっぱいで、ぷみゅんってなるの」
エンジェリアは、防壁システムを作動させた。
防壁システムは、森の中を守る役割もしっかりと担ってくれる。これで、森の中だけは守られる。
「昨日言われた通り準備していたけど、これで何するの?」
「見てのお楽しみなの。ノーズとルーにぃは素材とか食材とか集めてきてくれる?これ見た後で。森の中だけは安全だから。誰も入ってこれないから」
「うん」
「了解だ」
エンジェリアは、防壁システムに新たに導入したボタンを押した。
それは、森の中に作動するものではなく、森の外全てに作動するもの。
「ふっふっふ」
「雨?」
「ふにゅ。べたぁ雨なの。これでべたぁってなれば良いの。中に避難しても、お家に使うような素材だったら溶かすように作っているから、むだなの」
人に害はないが、建物は溶かす。ゼーシェリオンがエンジェリアのように地下に王国を築いていれば、これは全て無駄になるが、そんな事はしていないだろう。
地上にある限りは、城を溶かして、ゼーシェリオン国に大打撃を与えられる。
「ふっふっふ」
「それってここもやばいんじゃ」
「大丈夫なの。防壁システムが守ってくれるから。それに、地下だから大丈夫なの」
「でも」
ノーズが心配そうにしている。恐らくフィルがいるからだろう。フィルなら、この防壁システムを乗っ取る事もできるかもしれないと思っているのだろう。
「大丈夫だよ。フィルはこの防壁システムを乗っ取るなんてできない」
「ふみゅ。昨日フォルと一緒にいっぱい対策しておいたの」
「うん。でも、残念だね。ゼロ国の慌てふためく姿を見れないのは」
「ふみゅふみゅ。それなの。森の中しか映像見れないから、ゼロの慌てふためく姿が見れないのは残念なの」
エンジェリアとフォルが、残念がっていると、ゼーシェリオンから通信が届いた。
「ふみゃ⁉︎噂をすればなの」
「繋げるよ」
『ずーるーだー!』
「ずるじゃないの。戦にずるも何もないの。ずる賢い人が勝つの。ってこれ昨日もやらなかった?」
『やった。昨日も今日もエレがずるするんだ!ずるエレなんだ!』
「ぷみゅ。それで用件なんなの?エレは忙しいの。フォルとらぶらぶしないといけないから。だから用件あるなら早く言って」
エンジェリアは、見せつけのようにフォルに抱っこしてもらう。
フォルの胸に顔を擦り寄せてから、ゼーシェリオンの方を見て鼻を鳴らす。
『……エレに渡したいものがあるから、これ止めてください。質の良い魔法石用意してあるので』
「どうします?フォル」
「うーん。魔法石はもう要らないんだよなぁ」
『ちっ……なら、魔法具に使う素材を』
止めて欲しいと言いながらも、エンジェリアに何か要求があるか聞いてこない。ゼーシェリオン国で今用意できるものを言っているだけなのかもしれないが、何かが怪しいと思ってしまう。
その疑いは、魔法石を断った時のゼーシェリオンの反応で、より一層深まる。
だが、エンジェリアが怪しんでいるだけで実際は安全かもしれない。エンジェリアは、フォルに判断を委ねる事にした。
「フォル」
「……フィルに頼めば魔法具の素材や魔法石に細工をして、その魔法具の制御権を奪う事ができるはずだ」
『な、なら、食材。木の実とか野菜とか』
「自白剤とか睡眠薬とか、事件性のないものなら許可してある。それをこっそり入れてないとも限らない」
『それなら、その、あれ、氷の防具』
「敵国の王が作るものに信用できるとでも?」
――ふみゃぁぁ。フォルかっこいいのー。すきなの。らぶなの。
エンジェリアは、自分の代わりに対応してくれているフォルの頬に口付けをした。
「エレ、そういうのは寝室で」
「ふ、ふみゅぅ」
『……なら媚薬。エレ、フォルがエレにあんな事やこんな事するの見たいだろ。やって欲しいだろ。抜け駆けずるいけど、ずるいけど』
「そんなの自分で作れるの」
『ならフォル』
「僕も自分で作れる。それに、そんなものに頼らなくても、エレは今のまま、こうして好きでいてくれるだけで良いから」
「ふみゅぅ。すきすき」
『……負けを認めるので止めてください』
「ふみゅ。どうします?フォル」
「エレ、止めてあげな」
「ふみゅ」
エンジェリアは、ねば液体の雨を止めた。
『ありがとうございます。もう二度とエレとこんな勝負しない』
「ふっふっふ。エレは無敵なの。フォルと一緒だから無敵なの」
「エレ、がんばったご褒美くれるよね?王なんだから国民を労わないと」
「ふみゅ。みんなにご褒美あげるの。エレの特性栄養ドリンクあげるの」
「僕、そんなのよりデートが良い。二人っきりで。二人っきりで」
「ふみゅ。デート。フォルとデート。らぶいっぱい。一緒にデートするの」
これはフォルがご褒美をもらうというのもあるのだろうが、エンジェリアにとってもご褒美だ。
「エレ、このまま合流場所行って良い?」
「みゅ。良いの。今日はとってもあまあまなの。甘えフォルが可愛いの」
「……うん」
「……みゅ?またなんか悩んでる気がする」
「後で話すよ」
エンジェリアは、フォルに抱っこされたまま、国民争奪戦をやった場所まで向かった。
**********
「ふっふっふ、エレの勝ちなのー」
勝敗発表が済み、エンジェリア達はエクリシェへ戻った。
エンジェリアは、ゼーシェリオンに抱きつき、魔力を渡している。
その間、自分が勝ったと自慢していた。
「エレ、これ」
「ゼロも」
「みゅ?」
「これって、管理者が持つ身分証か?」
「うん。見習いだから本物じゃないよ。試験をやり始めてから、形だけでもって思って用意しておいたんだ」
管理者が持つ身分証。それは特殊な素材でできており、複製不可能な代物。形は、普通の身分証と同じく、カード型だ。
エンジェリアとゼーシェリオンは、フォルとフィルから、身分証の偽物を受け取った。
偽物だが、認められた証には変わりない。エンジェリアとゼーシェリオンは、身分証を見て喜んだ。
「試験をやり始めてからって、俺らが合格するの前提だったのか?」
「ううん。フィルと話し合って、初めから渡すつもりだった。試験は管理者見習いとして手伝ってもらう時のために、どこまでならできるか判断していただけ」
「エレ達、役に立てる?」
「うん。立てるよ。それと、エレ、後で僕の部屋に来てくれないかな?勝利祝い」
「ふみゅ。ゼロと少しお話ししたら行くの」
「うん。待ってる」
フォルがそう言って部屋から出た。
「……なんかいつもより元気なさそうだったな」
「……」
「フィル、何か知ってんのか?」
「知っている。本人が話さないなら話さない」
「ふみゅ。ゼロは気にせず負けた反省会でもしてれば良いの。でも、その前にお風呂だけ一緒に入ろ。慰めてあげるから」
「慰め必要ねぇよ」
エンジェリアは、ゼーシェリオンに勝った事で、かなり調子に乗っていた。