7話 試験の前座
次の試験は、見た感じでは本当に遊びにしか思えない。
ルールは簡単。ゴールへ辿り着くだけ。ただそれだけで何を見るのかと疑問になるほど、単純だ。
エンジェリアとゼーシェリオンのスタート地点は同じ。一緒に行っても良いとまで言われている。
「ふにゅ。迷路なの」
「うん。迷路と謎解きを混ぜてみたんだ」
「ミディ、仲良くして良いらしいから仲良くしようぜ」
「みゅ」
「ちなみに制限時間もないから、ゴールするまでずっと続ける」
ここまで楽な遊びだと、逆に何か裏があるのではと疑いたくなる。
だが、疑わなかった事に後で後悔した。
**********
スタートしてすぐ、ミディリシェルが取った紙に書かれていたのは
【ゼロって、大っきい方が好きらしいよ?エレは小さいからなんとも思わないとか言っていたんだ♡】
「……ゼロだいっきらい!」
エンジェリアは、怒りに任せ、創造魔法で創ったハンマーを振り回す。
ゼーシェリオンが、それを避けながら、エンジェリアを落ち着かせようとするが効果はない。
「エレ落ち着け。俺がそんな事言うわけねぇだろ」
「そんなの分かんないもん!言うかもしれないもん!ゼロの事なんて信じないもん!」
エンジェリアは聞き耳を持たない。ハンマーを振り回すのをやめない。
「なんかおかしいと思ったら、これが狙いだろ!」
「良く分かったね。この試験、仲間割れをさせるための試験だから」
「だから俺の方には、エレは男らしい人が好きで俺はそうは見えないからなんとも思ってないとか書いてあったんだな」
「うん。まだ一枚目だから、見え透いた嘘だけど、単純なエレには効果あったみたいだね」
フォルが楽しそうにしている。
エンジェリアは、話を何も聞いていない。紙に書かれた内容を全て信じている。
「エレ、話聞いただろ。全部嘘なんだ」
「知らないもん!そんな嘘信じないもん!」
エンジェリアは、ゼーシェリオンの話を全て嘘と信じている。
「今回の試験は絆。何かあった時、絶対に裏切らない。それが組織にとって一番大事な事だ」
「だったらこんな嘘書くなよ!」
「だからこそだよ。どんな事があろうと仲間を疑わない。仲間を信じる。それと、この子は僕の方を信じすぎてるのが原因だから、これは不合格にはならないから安心して」
「今はそれよりこれどうやって落ち着かせるかだろ!」
エンジェリアがハンマーを振り回すが、ゼーシェリオンが全て避けるのが余計に怒りを促進させた。
「避けるの禁止なのー!」
「避けるに決まってんだろ!つぅか、フォルだけじゃなくて俺の方も信じろよ!」
「ゼロはエレをしょくりょぉとしか思ってないからやなの!」
「そんな事思ってねぇよ!エレは俺の大事な妹だ!俺の、家族としか思ってねぇよ!」
「みゅ⁉︎」
エンジェリアのハンマーを振り回す手が止まった。
「……みゅぅ。家族なの」
「ああ。だから、ハンマー振り回すな。あと、俺はエレくらいの方が抱きついた時の密着量が多くて好き」
「……みゅ?ゼロの性癖暴露なの。ふにゅふにゅ。秘密知っちゃったの」
エンジェリアは、ハンマーを消し、フォルの方へ走った。
フォルに抱きつき、ゼーシェリオンの方をチラッと見てからフォルを見る。
「フォル、ゼロは小さい方が好きだって」
「うん。そうみたいだね」
「みゅ。次行くの……次どこだろ?」
「その紙に魔力を注いだら分かるよ」
エンジェリアは、持っていた紙に魔力を注ごうとしたが、持っていたはずの紙がない。先程のハンマー振り回しでどこかへ落としてしまったようだ。
「俺の方で見れば良いだろ」
「みゅ」
ゼーシェリオンが、紙に魔力を注いだ。すると、文字が浮かんでくる。
【秘密を暴露すれば道は開かれるだろうー♪】
「……なぁ、これのどこが謎解きなんだ?」
「やる前まではそうしようと思ってたんだけど、それだとつまんないから、謎解きと見せかけてにしようかなって」
「みゅ。秘密一なの。エレは、この前ゼロに黙って、お洋服くんくんしてたの」
秘密を暴露すると、紙に数字が浮かぶ。暴露した人数だけ浮かぶようだ。
「次はゼロなの」
「エレに黙って、エレの縫いぐるみ大量に作った」
「……しゃぁー!」
「最後はフィルだね」
「……フォルに黙って、修理頼まれた魔法具の性能を上げて、修理以外は何もしてないかのように返した」
「うん。おかしいとは思ったけど、やっぱそういう事だったか」
暴露の人数が規定値になった。紙が消え、矢印が現れる。
「ふにゅ。この通りに行けば良いの。簡単なの」
「そうだな。エレ、今度は騙されんなよ」
「エレは騙されてなんていないの」
エンジェリア達は、矢印の示す方向へ向かった。
**********
静かな森の中、二枚目の紙を見つけた。
エンジェリアとゼーシェリオンは、二枚目の紙を手に取った。
【ゼロが高級人工血液を隠している。エレからもらうのはそろそろ卒業かもしれないね】
「ふぇ⁉︎ふにゃ⁉︎ふぇぇぇん」
なんだかんだ言いつつ、エンジェリアは、ゼーシェリオンに血と魔力を与える事を好きでやっている。ゼーシェリオンが喜ぶ姿を間近で見れる事に喜びを抱いている。
だが、これが本当であれば、エンジェリアは、それを見れなくなる。
そう考えたエンジェリアは、突然泣き出した。
「そういう反応になるのか。ちなみに、この話は半分というかほとんどほんとらしいよ。君に負担かけたくないから持っているだけみたいだけど」
「そういえば、前にゼロがおれに人工血液の高いのを買いたいから、注文して欲しいって頼んできた」
二枚目だからだろう。嘘ではなくなっている。
「ふぇぇぇん」
「毎日だとエレに負担かけるからって買っただけだ。頻度は減るが、エレからもらうのはやめない。あれは俺の特権だ」
「みゅ?本当?」
「ああ。だから安心しろ?これ、飲まないから安心しろの方が普通じゃねぇか?エレが良いなら良いんだが」
「ふにゅぅ」
エンジェリアは、泣き止んでゼーシェリオンに抱きついた。
「ところでエレ、お前、水着の女の子の写真集とかなんで買ったんだ?」
「みゅ?水着のカタログだと思って買ったら違ったの。でも、可愛いのあったから、今度頼もうかなって思ってるの」
エンジェリアは、この話をゼーシェリオンにはしていない。この話の内容がゼーシェリオンの持っている紙に書かれていた内容だろう。
「水着なら俺が可愛いの選んで買ってやる」
「エレもたまには自分で選びたいの」
「……じゃあ、俺が選んだのも着て欲しい」
「それなら良いの」
エンジェリアは、そう言って、紙に魔力を注いだ。
「みゅ?三枚目は後ろって書いてある」
「うん。僕が三枚目を持ってるんだ」
エンジェリアとゼーシェリオンは、フォルから三枚目の紙を受け取った。
「これで紙は最後だよ」
「みゅ。これで今回の難関は乗り越えたの。最後は……絶対に裏切らないと言えるのか?どういう事なの?」
「こっちも同じ事書いてある」
「そのまんまの意味だよ。何があっても、絶対に裏切らないと言えるか」
「みゅ。言えるの。裏切らないの」
「俺も裏切らない」
なぜこんな内容なのか。それを理解してはいない。
理解してはいないが、何があっても、互いを裏切らない。そう言える。
「そうか。なら、試験の本番へ行こう。ちゃんと、その前に説明もしないとだね」
「本番?今回の試験はこれじゃないの?」
「これは管理者にしても大丈夫かの試験。ここでつまづくようなら、ほんとに管理者にさせていなかった。不合格だと言っていたよ。そして、今からするのは、君らがギュゼルに入りたいというから用意したものだ。でも、いくつか理解していて欲しい。まずは、これでどんな結果を出そうと、管理者の方は不合格とはしない。もし、乗り越えられたら、正式に管理者見習いとして受け入れよう」
「他の試験があるのに、これだけでそこまでするのか?」
「うん。当然だ。前に管理者の中で試したけど、ルノとレイのペア以外は全員最後まで行けなかった。達成した二人も、ぎりぎりって感じだったんだ。だから、これはそこまでしても良い試験なんだ。それと、これがどうなろうと、ギュゼルに入る事が決まるわけじゃない。もう少し理解していて欲しい事はあったけど、僕らが同行するからこれで最後、これに関しては、受けるかどうか選ばせてあげる」
エンジェリアとゼーシェリオンは、互いに顔を見合わせた。
「みゅ」
「当然だよな」
互いの意思確認を済ませ、フォルを見る。
「受けるの」
「受ける」
「分かった。なら、その場所へ向かおう。管理者の拠点としている場所に存在する、僕とフィルで作った試練場に」