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星月の蝶  作者: 碧猫
5章 管理者見習い試験
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4話 本物に近い御巫


「ゼロ……らぶなの」


「エレ……らぶなの」


 エンジェリアとゼーシェリオンは、合流してから、抱きしめあった。


「らぶ。大好き。すきすき。一緒にがんばるの」


「一緒にがんばる」


「神殿、中入るの怖いから、一緒に行くの。なんだかあそこは不思議な場所で怖いのが出そうな気がするの」


 エンジェリアは、ゼーシェリオンの手を握ってそう言った。


「ああ。ずっとこうして一緒にいてやる」


「それだともし何かあった時どうすんの?」


「……ふ、ふみゅ⁉︎……ふぇ……ふぇぇん」


「エレ、僕が手を繋いでいるよ」


「ふにゅ。それなら良いの。エレは、フォルとおてて繋いでおくから、ゼロは、何かあった時エレを守るの」


 エンジェリアは、フォルと手を繋いだ。


「これで神殿入れるの」


 エンジェリアは、フォルと一緒に神殿へ入った。


      **********


 神殿の隠し扉。その扉を出すボタンを、エンジェリアは、記憶を頼りに探す。


「確かこの辺だったと思うの。エレの記憶はとっても素晴らしいからすぐに見つかる」


「記憶つぅか勘だろ」


「ぷぃ。フォル、暗いから、転ばないように気をつけてね……じゃなくて、転ばせないように気をつけてねなの」


 エンジェリアは、笑顔でそう言った。フォルが転ぶというのは考えられないが、エンジェリアは、暗いところだと、転ぶ率が格段と上がる。歩いている間に、三回以上は転ぶだろうと自分で予想している。


「お前が気をつけろよ」


「ゼロうるさい」


 エンジェリア達は、隠し扉の先へ向かった。


      **********


 転びそうになる事十回。隠し扉の先には、ライオンのような動物と炎の紋章が描かれている。


「これは……ラグラブ?」


「ああ。冥獣ラグラブ。面倒な事にならなけええば良いけど」


「冥獣ラグラブ?なにそれ?」


「野蛮な種。話し合いなんて通じないだろうね」


「みゅ?分かったの。警戒しつつ開けるの」


 エンジェリアは、そう言って、フォルから貰った証を出そうとしたが、その前にフォルが扉を開けた。


「僕らの魔力に反応して簡単に開くんだ」


「そんな便利なものがあったなんて。エレは初耳なの」


 扉の奥は、巨大な魔法陣が描かれた床が見える。


「これ、まだ機能してるの。エレ達、この中入ったら」


「……この禁呪は、構造が複雑だ。でも、複雑な分、少しだけでも、解除できれば、全て壊す事ができるだろうね」


「みゅ⁉︎ゼロ、共有で一緒に解除するの」


「ああ」


「二人だけで大丈夫?」


「大丈夫だよ。見ておきな。あの二人は、毎度想像もつかないような事をやらかしてくれるから。さっきの橋みたいにね」


 エンジェリアとゼーシェリオンは、フォルの期待に気付き、気合いを増した。


 気合い十分で、エンジェリアとゼーシェリオンは、魔法の解析をする。


「……ふにゅ。綻び発見。これをちょっとだけ改竄すれば全部壊れてくれるかもしれないの」


「処理能力は任せろ」


「ふにゅ。任せるの」


 エンジェリアは、魔法の改竄が得意だが、処理能力が低い。


 魔法の多すぎる情報が処理しきれず、魔法の改竄どころではなくなる。


 その欠点を、ゼーシェリオンが補ってくれる。


 エンジェリアは、共有でゼーシェリオンの処理能力を借り、魔法の解析をした。その結果、見つけた欠点を改竄し、魔法陣を破壊した。


「ふにゅ。完璧な魔法なんて中々作れるものじゃないの。ついでに、やられた分はやり返せとか教えてもらったから、使用者にうさ耳つけてやったの」


「可愛い仕返しだな」


 魔法陣が消え、魔法陣の中にいたノーズとヴィジェが見えるようになった。


「ぷにゅ。これであとはお調べだけなの」


「うん。リミェラ、二人と話してくるさ。僕らは、その間に調べていくから」


「ありがとう。エレ、ゼロ」


 リミェラが、走ってノーズとヴィジェの方へ駆け寄った。


「ノーズ、ヴィジェ、会いたかった」


「リミェラ」


「ごめん。今までずっと一人にして。ごめん」


 リミェラ達が抱きしめあって、再会を喜んでいる。


「良かったの」


「ああ」


「神獣さんがいないのも良かったの。出会ったら危険っぽい感じで言っていたから」


「そうだね。ここはもう放棄したんだろう。罠とかもなさそうだ。という事で、これが最後だ。ここで結果を出せば、即試験準備してあげるよ」


 神獣達の悪事の証拠集め。一見何もなさそうに見えるが、細かいところを見て、集めなければならない。


 フォルの事だ。結果というのは、エンジェリア達が、一つでも証拠を見つけ出すではなく、決定的な証拠でも見つけなければ、結果を出したとは言わないのだろう。


 即試験まで言うという事はなおさら、その可能性が高い。


「みゅ、まずは魔法具を取り出すの。それで、エレはゼロと一緒にいっぱい探すの……この入り口から」


「ああ」


 エンジェリアとゼーシェリオンは、入り口に何かないか、魔法具を使いながら確認する。


「ないの」


 ここには魔法具の反応はない。


「次はどこを見ようかな?ちなみにフォルは怪しいところとか見つけたの?」


「何ヶ所か気になるとこがあるかな。言わないけど」


「ふにゅ。言わなくて良いの。自分で探して、即試験の権利をもらうんだから」


「エレ、あそこの棚とか見てみようぜ」


 エンジェリア達は、棚を見つけて、そこを調べる。


 棚の中には、書類が置いてある。


「……読めないの」


「暗号みたいだな。フォルなら読めるかもしれない」


「ふにゅ。魔法具も反応しているの。これはきっと高得点な気がする」


 魔法具が反応するという事は、何かしらの情報があるという事。エンジェリアは、書類を魔法具で撮った。


「それ、証拠としては薄いよ」


「ふぇ⁉︎も、もっといっぱい探すの。最悪、薄くても大量に集まっていれば、いける気がするの」


「そうだな。いっぱい証拠になりそうなのを探すか」


「ふにゅ。探すの」


 エンジェリアとゼーシェリオンは、質より数に変え、証拠になりそうなものを、できるだけ多く探す事にした。


「ふにゅ。あやしみ発見」


「発見」


 エンジェリアとゼーシェリオンは、怪しげな魔法具を発見した。


「みゅ?これは……良く分かんないの。分解しても良い?」


「だめだろ。分解せず調べろ」


「みゅ……フォル」


「分解はしないで。分からないなら調べなくて良いから」


「ふにゅ」


 エンジェリアは、分解はせず、手持ちの魔法具で写真を撮るだけにした。


「なんだか、調べていないとむにゅぅって感じだけど、分解だめだから我慢するの」


「そうして」


 エンジェリアは、少し不満ではあったが、魔法具を元の場所へ戻した。


「お次は何があるでしょう」


「なんであの二人全然気づかないんだろう」


「みゅ?なにが?」


「自分で考えて」


 何か分かりやすい証拠となりそうなものでもあるのだろうか。エンジェリアは、そう思って、周囲をきょろきょろと見回すが、それらしきものは見当たらない。


「……むにゅぅ。分かんないの」


「エレ、魔法陣あった場所も調べてみないか?もしかしたら何かあるかもしれない。質より量だが、質があるに越した事ねぇからな」


「みゅ。そうなの。というか、エレ達の大事な即試験が関わってきているんだから、証拠は向こうからこいなのー!」


「何言ってんだ?」


「知らないの。早く探すの」


 エンジェリアは、魔法陣の方へ向かい、何かないか探した。


「これと言って何かあるというわけではないと思うの……ふにゅぅ。これだと、即試験が」


「エレ、ゼロ、そろそろ終わりにしたいんだけど」


「ふぇ⁉︎そ、即試験」


「うん。現状ではないだろうね。でも、試験の話は考えてあげるから」


 フォルがそう言うと、エンジェリアとゼーシェリオンは、瞳に涙を溜めて俯いた。


「……はぁ、今回だけは特別だよ。気づいてはいなかったけど、君は僕が欲しかったものを手に入れてくれたから」


「みゅ?そんなの知らないの」


「君が見つけた欠点だよ。あれがあれば十分だから探す必要すらなかったんだけど、気づいてないようだったから」


 エンジェリアは、理解できず、きょとんと首を傾げた。


 完璧な魔法など存在しない。粗探しをすれば、必ずどこかに欠点がある。


 その欠点こそが、必要な情報など、想像もしていなかった。


「まぁ、君は視えてなかっただろうけど」


「ふぇ?視えなかった?」


「僕も少ししか視ていないけどね。またエレに心配されたくないから」


「……むにゅ?……ぷにゃぁ!……しゃぁー!」


 エンジェリアは、情報についての話は理解できていないが、何をしたのかは理解できた。それを理解して、威嚇する。


「大丈夫だよ。視るだけだったらなんともないから。それに、少しだけだからね」


「……しゃぁ」


「……即試験あげるから」


「……みゅぅ……にゃぅ……エレは何も聞いてないの。聞いてないの。だから、続き話す。詳しく教えて」


「うん。あの魔法が使われた時の記憶が視えたんだ。詳しい事までは分からないけど、目的は分かった」


「なんだったの?」


「ノーズとヴィジェが現状、一番本物に近いと言われていたのは知っている?向こうからすれば、その噂は邪魔だったみたいだ。本物にしなければならなくなりそうな事態が起きると、こういう事を良くやっているみたい」


 神獣側としては、エクシェフィーの御巫夫婦以外に御巫を作りたくはないのだろう。だが、世間の噂が出てきてしまえば、何もせずにいるという事はできなくなるはずだ。


 神獣は、全ての種の頂点に立とうとしている。頂点に立つためにも、人々からの支持が欲しいのだろう。


 少しの疑いで、支持が無くならないようにと、御巫にしないのではなく、御巫候補が突然失踪して本物にする事ができなかった。


 そうしておきたいのだろう。


「だからって、こんな事をするなんて」


「なら、世界が言っていたとかっていうあれは」


「世界は神獣側だ。君らの排除のためもあるだろうけど、失踪原因を君らにするための事なんだろう。君らが失踪前に言い争っていた。その後の映像はない。言い争いの中で、君らは、あの二人が失踪するような言葉を言っていた。その事実が欲しくてやったんだろうね」


 そうすれば、御巫候補を手にかけた疑いという事で、表立って、エンジェリアを処分できる。それも、目的の一つなのだろう。


「でも、どうしてそうなっていないの?あれを撮っていたなら、なっていて良いと思うけど」


「そうなっていないんじゃない。君らが今まで築いてきたものが、そうなる事から守ったんだ。流石に向こうも、聖獣に愛されている姫に対して、そんな事できない。聖獣の正体に関して知っているんだから」


 聖獣は、元英雄達。なんらかの功績を上げ、人々から、尊敬と憧れをその身に受けた英雄の成れの果て。


 ヴィーもその一人だ。かつて存在した聖星国。その国の悪事を暴き、悪事を働いた王家から、人々を守った英雄。


 そうした元英雄達が、エンジェリアを守っている。エンジェリアの元に集まっている。


 人々からの支持を考える神獣達が、人々の憧れの相手が守り従うエンジェリアに、ただ言い争っているだけの映像で、濡れ衣を着せる事などできなかったのだろう。


「君らが手を出していれば別だ。でも、聖獣に愛される姫が泣いている。何もしていないと言っている。それなのに、濡れ衣を着せれば、間違いなく反感を生むからね。しかも、君は、貴族や王族から、孤児院の子供達まで縁を持っているんだ」


「……ずっと、ずっとやってきた事は、エレを守ってくれていたんだね。エレを大事に思ってくれる人、少ないから、こんなに想われているなんて、守られているなんて、知らなかった」


「エレ、たとえ多くの人に嫌われていようと、世界に嫌われていようと、好きになってくれる人は必ずいるんだ。会えるかどうかとかは、分からないけど」


「うん、知ってるよ。だって、エレ、エレをいっぱい好きって言ってくれる人達を知ってるんだから」


 エンジェリアは、ぽたぽたと涙を溢して、そう言った。


「ああ、でも、どれだけ好かれていても、君を一番愛してるのは、僕とゼロだよ。君も、僕ら以外を一番にしないでなんて、わがまま言っても良いかな?」


 フォルが笑顔でそう言った。エンジェリアは、ゼーシェリオンの手を握りながら、フォルに抱きついた。


「ふにゅ。エレの一番は、ゼロとフォルなの。絶対に変わらないの」


「うん。知ってるよ」


「みゅ。って、それは良いの。それより、本物の御巫に近いって言えば、月鬼やリグにぃ達も危ないと思うの」


「うん。アゼグ達は、帰って言えば良いけど、月鬼達は、会いに行かないとだね。エレ、一緒に行ってくれる?」


「俺も」


「ゼロも一緒に行ってくれる」


「行く」


「みゅ」


 エンジェリアとゼーシェリオンは、こくりと頷いて答えた。


「リミェラ達には続きは帰ってからにしてもらって、一度帰ろうか」


「みゅ」

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