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星月の蝶  作者: 碧猫
1章 星の選ぶ始まりの未来
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7話 本当のミディ


 諦めなくて良い。そう思えた事が、嬉しかった。だが、同時に、何かが引っ掛かった。それが、何かまでは分からない。


 ミディリシェルは、ふと考えた。諦めなくて良いとしても、自分は、お嫁さんとしてどうなのだろうと。貰ってもらえるような魅力があるのだろうかと。


 それを考えるために、ソファの上に座って、ここへ来てからの事を振り返ってみる。


 勉強は苦手で、得意な魔法学と調合学以外は、全然できない。

 チティグ語しか使えず、ホヴィウ語は、理解できない。


 ここにいる、一、ニ歳しか変わらないと思われる、女性。リーミュナとピュオを見ると、自分はかなり幼いと思う。


 それ以外にもあるのだろう。だが、そこまで振り返っただけで、ミディリシェルは、危機を覚えた。


「このままじゃ、女の子として見てもらえないの⁉︎」


 ミディリシェルは、そう結論づけた。


 突然の発言に、ゼノンとフォルが、きょとんと首を傾げている。

 だが、ミディリシェルは、それに構っている余裕はない。


 どうすれば、今の現状を少しでも改善できるか。それを、考えるので手一杯だ。


「……女の子として見られるためにも、お料理、お掃除、お洗濯をできるってところを見せるの。きっとできるの。それで、それを見て、考え直してもらうの」


 ミディリシェルが、考えた結果。必要だと思うものはこの三つだった。


「うん。危ないからやめようね」


「ふにゃ⁉︎」


 フォルが、やらせようとすらしない。ミディリシェルは、予想外の言葉に、驚きのポーズをとった。


「少しくらいやらせても良いだろ。料理とかは、安全な事だけにするとかで。明日やってみるか?」


 ゼノンの問いに、ミディリシェルは、勢い良く、こくこくと、何度も頷いた。


「ふにゃふにゃするのー」


「振りすぎだろ」


 勢い良く頭を振って、目眩を起こした。


「みゅぅ。でも、明日、楽しみだから、みゅぅだけなの」


「そんなの楽しみなのか?なら、ついでに風呂掃除もやってみるか?フォル、確か、明日の大浴場掃除の当番だったよな?」


「うん……ほんとにやらせる気なの?反対なんだけど」


「だから、危ない事はさせねぇって。そんなに心配なら、ずっと側で見ていれば良いだろ」


「そうさせてもらうよ」


 フォルが、渋々とそう答えた。


 ミディリシェルの挑戦に、積極的なゼノンと裏腹に、フォルは、一向に賛成はしない。


 掃除すらも、ミディリシェルにはやらせたくないようだ。


「明日が楽しみだから、ミディは、お風呂に入って、ねむねむするの」


「そういや、ここに来てから、初めての風呂じゃねぇか?」


 一日目と二日目は、発作で入る事ができなかった。浄化魔法で身体を清めるか、拭くくらいしかできなかった。


 これが、ミディリシェルのここに来て初の入浴。

 

「……一人で入れる?」


「入れるの」


 心配するフォルに、ミディリシェルはそう言って、すたすたと部屋の奥にある、浴室へ向かった。何も持たずに。


「……お前、びしょびしょで戻ってくるのか?風邪引くぞ」


「……忘れてたの」


 ミディリシェルは、ゼノンにタオルと服を用意してもらった。それを受け取り、再度、浴室へ向かう。


      **********


「広いの」


 脱衣所に入ると、個室にも関わらず、五人くらいは余裕で入れそうな広さ。

 洗濯は、ここでするのだろう。洗濯用の、洗浄魔法具が置かれている。これも、一般に普及しているのと比べれば、かなりの高級品だ。


「……ここに入れれば良いのかな?」


 タオルと着替えを入れておくような籠が、棚の上に置かれている。


 ミディリシェルは、その籠の中に、持ってきたものを入れた。


「ふにゅ。お洋服ーぬぎぬぎー」


 ミディリシェルは、服を脱いで、どこに入れるか探す。洗浄魔法具の隣に、洗濯するものを入れると思われる籠がある。その中に、脱いだ服を入れた。


 服を入れて、ミディリシェルは、浴室に入った。


 浴槽と、水放射魔法具、別名シャワーがある。しかも、かなり新しい型のようだ。


「……ふにゅふにゅ……ふにゅ……ふしゃ⁉︎」


 ミディリシェルは、見た事がないシャワーに苦戦する。魔法具に詳しいと言っても、見た事がない形状の魔法具を、すぐに扱えるような器用さを持ち合わせていない。


 適当にやればできるだろうと、適当にやると、冷たい水が出てきた。


「ふしゃん⁉︎」


 ミディリシェルは、突然の水に驚きの声をあげた。


 お湯にしようと、何度も試したが、一向にお湯は出てこない。ミディリシェルは、諦めて、冷たい水のままシャワーを浴びた。


      **********


「ふるふる」


 身体を洗い終えて、浴室から出る前に、ミディリシェルは、ふるふると顔を振った。


 珍しい色のとても長い髪が揺れて、水飛沫が飛び散る。


「これで良いの」


 ミディリシェルは、一人でそう言って、浴室を出た。


 脱衣所に戻り、身体を拭く。


「みゅ」


 身体を拭き終えると、服を着た。


「(くんくん)……これは、フォルの匂いなの」


 まだ、ミディリシェル用の服は用意されていない。ゼノンの服を借りている。だが、今回は、フォルの服のようだ。

 匂いでそう判断した。


 ミディリシェルは、もう一度匂いを嗅いだ後、脱衣所を出て、部屋に戻った。


      **********


 部屋に戻ると、ゼノンとフォルが、ソファに座って待っていた。


 ミディリシェルが戻ってきた事に気づいたゼノンが、ミディリシェルの方を見た。


「ちゃんと拭いてこい」


「拭いたの」


「髪、濡れてる」


「ふるふるしたから、濡れてないの」


 服が濡れて、髪の先端から、水がぽたぽたと落ちているが、ミディリシェルは気にしていない。


「水落ちてるんだが?つぅか、ふるふるで乾くわけねぇだろ」


 ゼノンが、呆れた表情で、そう言って、立ち上がった。


 タオルを持って、ミディリシェルに近づいてくる。


 ミディリシェルの背後に立つと、髪に触れた。


「……綺麗だな。って、冷た⁉︎なんで、シャワー浴びてきてこんなに冷てぇんだよ⁉︎」


「みゅ?あれ、お水だったよ?」


 自分がお湯を出せなかったという事実だけを忘れている。ミディリシェルは、不思議に思いながら、そう答えた。


「お湯出るって。これだと風邪引くだろ……明日からは、一緒に入るとして、今日はどうするか……一日密着温めにするか」


「みゅ。ゼノンとフォルとぎゅぅってするの」


 ミディリシェルは、密着に喜んでいた。


 ゼノンに髪を拭いてもらい、ミディリシェルは、ある疑問をゼノンに投げかけた。


「……ゼノンは、ミディが怖くないの?」


「なんでだ?」


 ミディリシェルは、普段から姿を変える、変装魔法具の髪飾りを身に付けている。その髪飾りで、腰までの金髪と空色の瞳に見せている。


 だが、今のミディリシェルは、魔法具を付けていない。脱衣所に置きっぱなしだ。


 髪は長く、背丈ほどある。桃色と青系のグラデーションの髪と瞳。


 今、ゼノン達にもそう見えているだろう。


「ずっと見ていたいな」


「それは恥ずかしいの」


 フォルから聞いた話では、ゼノンは転生前の記憶がない。転生前にミディリシェルのその姿を見ていても、覚えてはいないだろう。


 それでも、ゼノンは、多くの人々から恐れられたミディリシェルのこの外見を、恐れない。ミディリシェルの側で、髪に触れている。


「……やっぱり、ゼノンはおかしいの」


「そうか?これは普通だと思うが。なあ、フォル」


「……」


「フォル?」


「……」


 フォルがミディリシェルを見たまま、黙っている。


 ミディリシェルは、ゼノンに髪を離してもらい、フォルの側へ近づいた。


「ぎゅぅなの」


 ミディリシェルは、そう言って、フォルに抱きつく。


「う、うん。って、ほんとに冷たい。僕が温めてあげるよ」


「みゅ。あったか、するの」


 ミディリシェルは、嬉しさを見せて、そう言った。


「……ごめん。まだ仕事があったんだ」


 フォルが、そう言って、ミディリシェルから離れて、走って部屋を出た。


「……みゅぅ。忙しそうなの」


「そうだな」


「ミディ、フォルとだったら良いって思っていたのに」


「……」


「ゼノンは兄妹で論外になっちゃったのに……とりあえず、ゼノンであったかしよっと」


 ミディリシェルは、そう言って、ゼノンに抱きついた。顔を、ゼノンに近づける。


「……嗅ぐのは無しだからな」


「……むぅ、匂い、好きなのに」


 匂いを嗅ごうとしていたのがバレて、先に止められた。ミディリシェルは、不満という瞳でゼノンを見つめた。

 

「……ちょっとだけなら」


 ゼノンが折れて、許可を出した。ゼノンの許可を得たミディリシェルは、思う存分、ゼノンの匂いを嗅いで、良い気分を味わった。


 そして、匂いを嗅ぎつかれて、そのまま眠った。


      **********


 ミディリシェルに言い訳をして自室に戻った  は、ベッドの上でうつ伏せになった。


「……あの子は、僕を……」


「素直になれない事が、そんなに苦痛かい?」


 ベッドの上にいる真っ黒い小鳥が、  にそう問いた。


「……久々に出てきたと思えば……そんなの、当然の事じゃないの?」


   は、真っ黒い小鳥を見て、そう答えた。


「神獣……黄金蝶になりきれない黄金蝶。それはどんな悩みを持っているんだろうね」


 真っ黒い小鳥は、面白そうに、そう言った。


「……知らない。僕には、関係ない」


「少しくらいは関心持っているんじゃない?それとも、君はこの先のゲームの事で考える余裕が無い?そんな事は無いと思うけど」


「……」


「これは、それまでの暇つぶしだ。何も考えなくて良い。考えなくなるように、話くらいは聞こう」


 真っ黒い小鳥が、淡々と、そう言った。


「……」


「言葉にしてしまえば、少しは楽になるという事もある」


「エレとゼロが好き。恋愛感情じゃ無いけど、二人が好き。エレのあの姿を見て、何とも思わないなんて、ない」


「……」


「これは必要無いと分かっていても、それを忘れる事ができない」


「なら、あの子達から離れる?そうした未来を  を通して視ているんじゃない?」


「視たよ。あれは、僕にとっては望ましい未来だと思う。でも、あの子は  はずっと後悔したままだった。ずっと、消えない過去に囚われたままだった。後悔しない選択なんて無いかもしれない。でも、あんな後悔だけは絶対にして欲しく無い」


「なら、自分の役目を、  との契約を全うすれば良い。君は、君がやるべき事をすれば良い。その後悔も全て、君が迷うから生まれるものなんだから。迷わなくて良い。でも、それですぐに迷わないなんてできないだろうから、いつでも、話は聞こう。僕の答えは、変わらないけど」


「……」


「ああ、そうそう。明日は、ゲームの方を進める予定があるから、  が代わるそうだ」

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