1話 救出準備
フォルが、普段のフォルに戻り、エンジェリアとゼーシェリオンは、各自で情報収集をする事になった。
エンジェリアは、真っ先にフィルの部屋へ向かい、先程描いていた魔法具の設計図をフィルに見せていた。
「これを作りたいの。作れる?」
「一日あれば」
「ふにゅ。さすがなの。大好きなの」
エンジェリアは、魔法具の設計図を渡して、ベッドの上に座った。
「ノーズとヴィジェの居場所が知りたいけど、どうやって調べれば良いんだろう」
「それも試験の一環だろう」
「ふにゅぅ。それもそうなの。がんばって……ふにゅ?ふにゅにゅ?こ、これは、よく考えてみたらエレの得意分野なの」
エンジェリアは、失せ物探しの類は得意分野だ。今までエンジェリア本人が忘れていた事だが。
「こういう系は、んっと、んっと……何でやれば……ふにゅ」
「……」
「ふにゃ⁉︎閃いたの……じゃなくて、思い出したの。エレは、占い術を使えば良いの!」
聖星族に古くから伝わる占い術。エンジェリアは、その占い術は使えないが、それと似たものを使う事ができる。
それを使うには、ある手順を踏まなければならないため、あまり使っていないが、安全なフィルの部屋であれば、使っても大丈夫だろう。
「……」
何も考えず、頭を空っぽにする。まずは、これをしなければ使う事ができない。
「……」
頭を空っぽにした後は、占い術を発動させる。
今一番知りたい事。それを、頭に思い浮かべる。そして、再び、頭を空っぽにする。
これで、占い術の前段階は終了だ。
「……自然の世界。霧を抜けた神殿の中。隠し扉を開いた先。神獣に守られる扉の奥」
エンジェリアは、その場所に関する内容を話す。だが、占い術を解いてからは、その内容は覚えていない。これは恐らく、エンジェリアの使う占い術が未熟だからだろう。
「……なんて言ってたの?」
「自然の世界。霧を抜けた神殿の中。隠し扉を開いた先。神獣に守られる扉の奥」
「……わけ分かんないの」
エンジェリアは、自分が言った事だが、理解できていない。占い術で言った言葉をエンジェリアが理解できる事は少ない。
「もっと具体的に言って欲しいの」
「分からないなら、ゼロに聞いたら?ゼロに聞く事は反則にならないから」
「ふにゅ。そうしてみる」
エンジェリアは「ありがと」とお礼を言い、フィルの部屋を出た。
**********
ゼーシェリオンの部屋を訪れたエンジェリアは、占い術で言った言葉をそのままゼーシェリオンに伝えた。
「どう思う?」
「……自然の世界は、リミェラねぇにいた世界だと思う」
「他は?」
「……隠し扉は前にエレが開けた場所だって分かるんだが、あそこに行く道は覚えてねぇんだ。なんか偶然行けた。だから、場所なんて知らない」
エンジェリアは、ゼーシェリオンを、じっと見つめる。
「ぷしゅ」
「方向音痴とか、ゼロも迷子になるのとか言うなよ。違うから」
「なんで分かったの?」
エンジェリアは、ゼーシェリオンに言おうとしていた事を当てられ、驚きのポーズをとった。
「言いそうだから。霧が分からねぇんだよな……そういえば、あの時も霧は出てたな。場所は知らねぇが」
「ふにゅ。そういえばそうなの。野宿セットでも持って、探してみる?」
「探して見つかるならな。見つからない可能性の方が高いんだ。ちゃんと場所を調べてから行く」
ゼーシェリオンは、場所を調べてから行こうとしているが、エンジェリアは、それに反対だ。だが、その理由に関して、なんの確証もなく、ここで言うかを悩んだ。
「……」
「どうしたんだ?気になる事があるなら言ってくれ」
「……みゅぅ。場所の特定なんてできないと思うの。本当に神獣の守る場所だとすれば、簡単にそこへ行けるとは思えない。だから、難しいかもしれないけど、行って探した方が良いと思うの」
エンジェリアがそう言うと、ゼーシェリオンが、暫く間を置いてから答えた。
「今日は、もう少し何かないか調べて、明日準備して、それから行こう」
「みゅ。分かったの。エレはゼロの言う事聞くの。ついでに、失敗したら全部ゼロに責任押し付けるの」
エンジェリアは、「えっへん」と、ドヤ顔で胸を張ってそう言った。
「……」
「エレ、ゼロ、少しは進んだ?」
フォルが、そう言ってゼーシェリオンの部屋を訪れた。
エンジェリアは、枕をゼーシェリオンに渡し、ゼーシェリオンの背に隠れた。
「何やってんだ?」
「何も進んでないのバレないようにしてるの」
「別に一人で全部やれなんて言ってないから、少しくらいなら手伝うよ。例えば、神殿への行き方とか」
フォルのその言葉に、エンジェリアは、ぴょんっと跳ねた。ゼーシェリオンは、枕をエンジェリアに投げた。
「ふみゃ⁉︎ゼロがいじめたの!」
「いや、夢かなって」
「夢じゃないの!エレも聞いてたの……エレが聞いてても夢かもなの……みゅ⁉︎夢かもしれない」
フォルがそんな事を言うとは想像もしていなかった。すぐにすぐ信じる事はできず、エンジェリアとゼーシェリオンは、夢だという事で終わらせようとしている。
「夢じゃないから。そのくらいはやるよ」
「……みゅ?にゃぅ?」
「じゃあ、教えて。夢かもしれないから。教えてくれたら夢じゃないかも」
ゼーシェリオンがそう言うと、エンジェリアは、こくこくと頷いた。
「君らに渡している証を持っていれば、行く事ができる。場所は……えっと……どこって言えば良いんだろう。行けば分かるんだけど。説明が」
「ふにゅ。夢なの」
「もうそういう事にすれば良いよ」
「……冗談は良いとして、それだとフォルいないと何もできないの」
「一緒に行くよ。何もしないけど」
エンジェリアとゼーシェリオンは、ハイタッチした。そして、互いの頬を引っ張った。
「ふにゅ。夢じゃないの。あといたい」
「夢じゃない。お前こそ思いっきり引っ張んなよ」
「ふにゅ……むにゅ?それじゃあ、エレ達いつ行くの?明日?明日行く?今日はやだよ」
「明日。リミェラにも連絡しておく」
「……間に合うのかな」
エンジェリアがフィルに頼んでいる魔法具。それは、神殿の調査に必要なもの。
一日でできるとは言っていたが、明日の行く時までに完成しているかは分からない。
「ぴにゅぅ。ゼロ、エレの調査用の魔法具が怪しいの。できないかもしれない。だから、ゼロとフォルに手伝わそうと思うの」
「俺、魔法具作り苦手」
「……僕も苦手かなぁ」
ゼーシェリオンとフォルが、エンジェリアから視線を逸らして言う。だが、長い時を共にしているのだからエンジェリアは知っている。
ゼーシェリオンは、普通に魔法具を作れる。ちなみに、エンジェリアが設計に悩んでいると、色々とアドバイスをくれる。
フォルは、フィルと同等かそれ以上の魔法具を作れる。普段は作らないだけだ。作ろうと思えば、設計から制作まで全て一人でできる。
それを知っているエンジェリアに、その嘘は通用しない。エンジェリアは、何も言わずにじっと見つめる。
「……俺、用事が」
「ないの」
「僕、仕事まだ残ってるから」
「ないの」
ゼーシェリオンとフォルが逃げようとしている。エンジェリアは、二人が逃げられないようにと、ヴィーに頼み、鎖を手首に巻いた。エンジェリアとゼーシェリオン、フォルが離れられないよう、一つの鎖で。
「これで逃げる事なんてできないの。諦めてお手伝いしに行くの」
「エレに逆らえない」
「エレには逆らえない」
ゼーシェリオンとフォルが、エンジェリアから逃げるのを諦めた。エンジェリアは、「ふにゅふにゅ」と笑顔で、二人をフィルの部屋へ連行した。
**********
エンジェリア達は、フィルの部屋を訪れて、魔法具の設計を手伝った。
「エレ、耐水もつけておく」
「みゅ」
「……なんかエレの思い通りにされるのが気に食わないから、設計図以上のもの作ってやろっと」
「フォルが可愛いの。というか、なんでフォルだけもう一個作り始めてんの?」
「エレ一人に任せるのは不安だから。もう一つあれば、二人で調べる事ができる」
エンジェリア達が、フィルの魔法具を手伝っている間に、フォルが一人で魔法具を作っている。
エンジェリアは、魔法具が増える分には悪い事はないと思っているため、間に合うのであれば、なんとも思っていない。
「ふにゅ。もう少し、もう少しで完成する。あともう少しで完成するの。だから、エレはがんばるの」
「エレ、何やってんだ?」
「魔法具が怪しい場所を見つけてくれれば良いと思ったの。だから、思いつきでやってみてる。上手にいきそうなの」
魔法具に入るデータにも限度があるだろう。それに、いくら入れられるデータを増やしたとしても、大量のデータを調べる時間が増えるだけだ。
ならば、できるだけ少なく、そして、必要な情報を得られるようにと、エンジェリアは、魔法具を改良していた。
「ふっふっふ。エレ博士は健在なの」
「また調子に乗ってる。エレ、それどうやって組み込むんだ?そこ考えてんのか?……ああ、天才エレ博士ならそのくらいは当然考えてるか。いらない心配だよな」
「と、当然なの……今考えたから、ちゃんと考えていたって事になるの。エレ博士は天才なんだから」
「はいはい。さすがは天才エレ博士。素晴らしいです。とっても素晴らしいです」
「ふにゅ。そして、そして、完成なのー」
「エレ、質の良い魔法石を入れておいたから、安心して使って」
「みゅ」
エンジェリア達が作っている魔法具が完成した。ついでに、フォルの方も完成したようだ。
「これで、準備は完了なの。あそこって魔物さんとかいるの?前は見なかったけど。魔物さんいるなら、そっちに備えて、もう少し準備必要だと思うから」
「いないと思うよ。でも、念のため用意しておいた方が良いんじゃない?神殿へ近づけないように魔物を使っている可能性もあるから」
「ふにゅ。じゃあ、魔物を探知できるように、魔法を使っておくの。ずっと使ってないと、いつ出てくるかなんて分かんないから」
「うん。そうだね。それと、ちゃんと休んで」
「みゅ。じゃあ、お部屋戻るの。フィル、ありがと」
エンジェリアは、そう言って、自室へ戻った。