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星月の蝶  作者: 碧猫
4章 契約
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プロローグ フォルの練習台


 エンジェリア達が、ジェルドの事を説明し、今やろうとしている事まで説明した後。


 誰がなんの役をやるのかという話し合いが始まった。


「ゼムは補佐で決定してるから」


「えぇ⁉︎」


 ゼムレーグが嫌そうにしているのを、エンジェリアの隣でゼーシェリオンとフォルが大爆笑している。


 エンジェリアは、呆れながら、二人を見て、ゼムレーグに憐れみの目を向けた。


「可哀想なの。こんな、面白がるためだけに選ばれたなんて」


「フォルの意向により早い者勝ちだけど、立候補ある?」


 ルーツエングとイールグの方から、適任という言葉は知らないのかという趣旨の話し声が聞こえてくる。


「わたし、ロジェと一緒のメイドが良い」


「なら、私もそうする」


 早速、リーミュナとピュオから立候補があった。だが、フォルは、ゼーシェリオンと一緒に大爆笑中。エンジェリアは、何がそんなに面白いのかとも思うが、そこは気にしない事にしている。


 ――みゅ?何か二人でやってる……ぷしゅ。


 エンジェリアを挟んで、ゼーシェリオンとフォルが、二人で勝手に役を決めて大爆笑している事に気づいてしまった。


 エンジェリアは、見なかった事にして、フィルの方を見た。


「フィル、メイドは何人かいた方が良いと思うからそれで良いかな?」


「良いと思う」


「魔軍師とかも欲しいかもなの。神獣の王直属の魔法師団とかあるらしいの」


「なら、俺はそれにしよう」


「俺もそれで」


「わたくしもそれが良いですわ」


 エンジェリアの権限で、ルーツエング、イールグ、ルーヴェレナは、魔法師団に決定した。


「婚約者の護衛とかも必要になる」


「ふにゅ。それは、アディとイヴィに頼みたいの。ここはさすがに、実力を見て適任を」


「愛姫様のご命令でしたら」


「俺様も同意だぁ」


 エンジェリアとゼーシェリオンを守れる人材という事で、婚約者の護衛はアディとイヴィに決定した。


「あとはなんだろう」


「宰相?それは、ルノに頼んでおくよ。それと、神獣にとっては一番必要になるのが……エレ、君らは顔を隠した集団に何度もあってるよね?あれは必要なんだ。あの集団は、神獣の王に絶対的忠誠を誓う集団。王の権威の象徴でもあるんだ」


 エンジェリアが初めて御巫となる宣言をした集団。その集団の事だろう。


 だが、その集団全員が、神獣の王に絶対的忠誠があるとは思えない。少なくとも、あのリーダーの男は、違う気がしている。


「まぁ、忠誠なんてなくても良いだけどね。その集団がいるというのが重要なんだ。自分を担ぎ上げる人がいないと、今は神獣の王なんてなれないよ」


「……神獣は、世界を守るために最初で最後の神獣の王が作った組織」


「そうだよ。時が経つに連れて変わっていくのは仕方がないと思う。けど、作られた意味を忘れて、神獣が大事にすべき子を排除しようとする。しかも、あるのしない罪を着せている。それはやりすぎだ」


「えっ、それじゃあ、神獣って種族は」


「神聖な獣と(ジェルド)のハーフだよ」


 最初の種が神獣と言われていたのだから、驚いただろう。


 だが、これが真実だ。終焉の種と呼ばれるジェルドが、神獣よりも先にいた。ジェルドは、最古の種だ。


「役はこれで良いとして、ゼロとフィルに詳しい話は頼むよ。エレは、僕と一緒に来て。話したい事があるんだ」


「ふにゅ」


 エンジェリアとフォルは、席を立ち、フォルの部屋へ向かった。


      **********


「エレ、僕の練習相手になって欲しいんだ。今までずっと抑えていた分、抑えていないとどうなるか分からないんだ。この前は偶然何事もなく終わったけど、またああならないとも限らないから」


「……ふにゅ。がんばるの」


 これはエンジェリア以外には務まらないだろう。


 フォルは、ある秘密を抱えている。それを知るのは、ジェルドの王達だけ。


 その秘密が、神獣の聖地でのフォルだ。

 あの時は何もしなかったが、エンジェリアがいなければ、神獣の聖地は、全てが枯れ、人が住めなくなっていただろう。


「昔は、一日一回は抑えずに過ごしていたし、あの件がなかったから、なんの心配もなかったんだけど。今は違うから」


「ふにゅ。エレがいっぱい面倒見るの。絶対に暴走しないように、エレががんばるの」


「ありがと。それにしても、ほんとにこの前は何もなくて良かったよ。意識が朦朧として抑えが切れて、何かあっても不思議じゃなかったのに」


 フォルが意識的にやる時よりも、意識せずにそうなる時の方が、暴走リスクは高い。本当に今回は運が良かっただけなのだろう。


 ――フォルなら、エレ達だけを守ってでもできるから。


「愛姫が一番なのは変わらないから、君がそんなに気負わなくても大丈夫だとは思うんだけど。何かあった時のために、加護を強めにつけておくよ」


「ふにゅ」


 フォルがエンジェリアの頬に口付けをする。


「じゃあ、あとは任せたよ」


「ふにゅ」


「……もっと近く」


「みゅ」


 今日は、初めての練習だ。まずは、フォルの言う事を聞く事から始める。


「愛姫」


「みゅ。愛姫なの。フォルの可愛い愛姫なの」


「キス」


「キス?どこに?」


「唇」


 エンジェリアは、顔を真っ赤にしながらも、唇を重ねた。


「ぷにゅぅ」


「ふふっ、真っ赤」


「みゅ⁉︎」


 フォルが、楽しそうにエンジェリアの頬を突く。


「もっとゆっくりなのー!急にそういうのはだめ。まずは、おてて繋ぐ事からなの」


「……君に逃げられるなんて事になりたくないから、それで我慢する」


 少し嫌そうな表情を浮かべてはいるが、フォルは、エンジェリアと手を繋いだ。


「これで良い?」


「みゅ。これで良いの。これなら良いのこれ以上は、エレが慣れてからなの」


「君が慣れるのってどれくらいかかるの?我慢できなくなりそう。我慢できなくなったら、少しくらい、手を繋ぐ以上をやっても良いよね?」


「だ……良いの」


 フォルに見つめられ、エンジェリアは、断る事ができなかった。


 ――うぅ、やっぱり、恥ずかしいの。どうして、こんなに恥ずかしくなるんだろう。エレ、おかしくなっちゃったのかな……ふにゅ?前からだから、前からおかしかった?

 というか、フォルの言う事を聞くだけにしようと思ったのに全然できてないのー!


 エンジェリアは、最初の目標から外れている事に気づいた。だが、その目標に戻すという事はできそうにない。


 ――という事は、今日の目標は、フォルから逃げない事にするの。


 正直、今すぐにでも恥ずかしすぎて逃げ出したい。だが、それは絶対にやってはならない事だと理解してはいる。


 フォルの言う事を聞かなかったとしても、エンジェリアがフォルから逃げ出さない事。それが、一番必要な事だろう。


「抱き枕にするのもだめ?」


「……ちょっとだけなら良いの。ほんのちょっとだけ」


「ちょっとだけ抱き枕ってなに?」


「ふにゅ⁉︎……も、もう少し慣れれば良いの」


 エンジェリアは、フォルから視線を逸らして、そう言った。エンジェリアは、ちらっとフォルの方を見る。フォルは、なぜか楽しそうにしている。


「じゃあ、二人でゲームでもしようか。それなら君も逃げたいなんて思わないだろ?」


「ふにゅ。ならいつもの、戦闘訓練ゲームをやるの」


 エンジェリアは、喜んでそう言うが、フォルが、エンジェリアから顔を逸らす。


「えっ、それは、君が自滅するから」


 戦闘訓練用に開発された特殊ゲーム。エンジェリアは、そのゲームが好きだが、一度も勝てた事がない。


 普段は、三人でやっているのだが、毎度エンジェリアは開始早々、一人で自滅している。


 それでは、フォルは楽しめないのだろう。


 エンジェリアは、他に何か好きなゲームがあるか考えていると、ゼーシェリオンが、部屋を訪れた。


「エレ、貧血なりそう」


「ふにゅ。エレは休業中なの」


「……ひっぐっ……エレが意地悪」


 エンジェリアは、意地悪ではなく、頻繁に血をあげられないからと言っているだけなのだが、ゼーシェリオンが、突然泣き出して、戸惑う。


 戸惑っているエンジェリアを、フォルが抱きしめて落ち着かせる。


「ゼロ、僕があげるから泣くな」


「ていうか、なんでこんな事で泣いてるの?」


「エレが意地悪」


「じゃないの。フォルがあげるって」


「うん」


 ゼーシェリオンが、フォルの方へ近づき、血を貰っている。


「……ふにゅ。フォル、ゼロと三人でお散歩するの。それならエレも大丈夫なの」


「……別に良いけど」


「なんだかいやそうなの」


「エレ、部屋でゆっくりしたい」


「……ふにゅ。部屋でゆっくり過ごすの」


「僕もその方が良い。部屋から出て、誰かに会ったら演技しないとだから面倒」


 今のフォルを知らないまま見れば、何かあったのかと心配されるから演技が必要だと思っているのだろう。部屋にいたとしても、誰も来ないとは限らないのだが、その辺はフォルなら対処済みなのだろう。


「……ねぇ、そういえば、婚約者って何すれば良いの?」


「は?」


「……ぷにゅ」


「……僕らと一緒にいれば良い。危険な事に巻き込むつもりはない」


「俺知ってる。婚約者は神獣の王を支えるんだ。だから、ギュゼルの一員になって」


「却下。何度も言っているだろ。君らはギュゼルには入れない。それでも、もし本気で入りたいと思うなら、いくつかの試験を受けて、ギュゼルに入っても心配ないという事を証明しろって」


 婚約者として。演技ではなく、本当にそうなれるようにしたい。それで聞いていたのだが、役目を果たすのは困難そうだ。


「……ノーズとヴィジェを二人だけで助けに行ったら、少しは認めてくれる?」


「できれば。でも、行くなら、リミェラも連れてきなよ。あの子は、ずっと二人に会いたがっているんだ。口出しはしないように言っておくから、監視役とでも思って」


 エンジェリアは、ノーズとヴィジェの居場所をはっきりとは知らない。それに、助け出すとなれば、危険な目に遭う可能性は非常に高い。


「人がいるなら、自分のできる事をやれば良い。でも、助けてくれる人なんていない時だってある。その時、一体どうするのか。見せてもらうよ」


「ふにゅ。ゼロ、がんばろ」


「がんばる。難しくても、絶対に、ギュゼルに入る」


 ノーズとヴィジェを救い、少しでもギュゼルに入れるかどうか考えてもらうために、エンジェリアとゼーシェリオンは、早速、情報収集を始めた。


「二人とも、ついでに神獣があんな禁呪を使った目的も調べて」


「フォルは、そっちが目的の気がするの」


「二人を助けるのも必要だと思ってる。今回の場合、人が多い方が有利だからな」


「でも、神獣の目的を知るのも重要」


「その通り」


 エンジェリアは、悪戯を思いついた子供のような表情を浮かべ、ノートに魔法具の設計図を描いた。

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