14話 エレにできる事
「なんでこんなところに魔物がいるんですか」
「ここでも、魔物は生まれる。エレ、何があったの?」
エンジェリアとゼーシェリオンは、海で見たものから巨大な魔物が生まれた事まで全て話した。
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「事情は分かった。とりあえず、あの魔物をどうにかしないと被害が出る。フィル、こっちは気にしないで良いから、魔物討伐よろしく」
「分かった」
フィルが魔物の方へ向かう。
「エレ、ゼロ、こういうのは適材適所だよ。自分達だからこそできる事があるはずだ」
「……分かんないの」
「魔物が逃げないように、フィルと魔物を囲って。君らならそのくらいは簡単なはずだ」
フォルにそう言われ、エンジェリアとゼーシェリオンは、互いに顔を見合わせた。こくりと頷き、スティックを手に持った。
エンジェリアは、結界魔法で、ゼーシェリオンは氷魔法で、魔物が逃げないよう、二重で囲った。
「ついでに、エレの結界魔法は強度低いけど、ゼロの魔法を隠す意味を持っているの。さすがエレなの」
「自分で言うな。否定しねぇが」
「あの、自分は」
「ヨージェアナは、こっちに誰もこれないようにして。外からしか見えない光で覆えば、ここの住民は入ってこないから」
「はい」
ヨージェアナが、周囲を光魔法で覆った。
「それと、エレ、ゼロ。自分達だけでなんでもやろうとなんてしないで。僕らを頼って」
「だって、エレ達、毎回守られてばかりだから」
「僕らがエレ達を守っているのと同時に、エレ達が僕らを守ってくれてるんだよ。今だって、あの魔法のおかげでこっちに被害は来ないんだ」
「でも……」
被害が来ないだけで、魔物をどうにかする事はできていない。エンジェリアとゼーシェリオンは、それができない事に気を落としている。
「でもじゃない。戦闘向きじゃない、ヨージェアナを見てみなよ。自分が得意な事で周りをサポートする。そういうのも大事なんだよ。ヨージェアナ、君が思う自分の役割を教えてやって」
「自分は、アディ達のように前衛向きではなく、戦闘自体苦手なので、暗い場所では明るく照らす。こうして、外から入れないようにするなどの支援をする事が役割だと思ってます。フォルは、身体が弱いので、基本的に自分達に的確に指示を出しているでしょう。そうやって、自分にできる事を精一杯やるだけでも、十分戦っている皆さんを守っていると思いませんか?」
「……ふにゅ。そう、なのかな?……じゃあ、エレは可愛い生き物だから、その可愛さで癒しを与えてるの」
エンジェリアは、胸を張ってそう言った。
「何言ってんだ?」
「安定の可愛さだね」
「お前が毎回そんな事ばかり言ってるからこうなるんだぞ」
「ふにゅふにゅ」
フォルがエンジェリアを抱き寄せて、頭を撫でる。エンジェリアは、にこにこと喜んでいる。
「……エレの役割はこれな気がするの。フォル、お話聞こえる。計画に支障はないとか、邪魔を排除する作戦を立てるとか」
「何かしてくるようなら別だけど、何もしてこないならほっといて良いよ」
「……ふにゅ。ゼロ、氷消し消し」
エンジェリアは、フィルが魔物討伐を終わった事を聞き取り、ゼーシェリオンに、魔法解除を頼んだ。
ゼーシェリオンが魔法を解除し、フィルが崖に戻った。
「お疲れなの。なでなで?ふにゅふにゅ?」
「……なでなでさせてくれるで」
「ふにゅ」
エンジェリアは、フィルに頭を撫でてもらう。
「……何もしなければ見逃してやろうと思ったのに」
「ぴぇ」
遠くから矢が飛んできた。フィルが防御魔法を使い防いだ。
「フォル」
「休んである程度は回復した。あれを使わない限りは良いだろ」
「エレが怖がってる」
エンジェリアは、フィルにしがみついて、瞳に涙を溜めてぷるぷると震えている。
「エレ、こっち来い」
「ぷるぷる」
「エレ」
「ぴぇぇぇ」
エンジェリアは、泣きながら崖の奥の森まで走った。
「エレ、そっちは」
ゼーシェリオンが止めようと声をかけるが、聞いていない。
「クックッ、こっちから人質になりにやってくるとは。偽の御巫」
「ふぇ」
――後ろは、真っ黒フォル、前はこわこわさん……
「手間かけさせるな」
「ぷにゃ⁉︎」
目の前にいた神獣がどこかへ消えた。転移魔法を使ったのだろうというのは理解できたが、なぜそうなったのかが理解できない。
背に感じる温もり。それが何か、気づいてはいるのだが、理解が追いついていない。
――ふぇ⁉︎ふぇふぇ⁉︎にゃむ⁉︎こ、こんな事するのフォル以外いないの。にゃむ⁉︎後ろに真っ黒フォルなの……ぴぇ⁉︎
「余計な手間をかけさせるな」
「ご、ごめんにゃしゃい」
今にも泣き出しそうだが、必死に涙を抑えて、エンジェリアは、そう言った。
「……僕と一緒はいやなの?」
「やじゃない、でちゅ」
「なら、なんで、そんなに怖がるの?」
「ふにゃ⁉︎ふぇぇ……みゅぅ……ぎゅむ」
――怖がるとかじゃないもん。フォルが時々見せるこっちの方は、エレの事考えてくれないの。エレのふにゃぁをもっと考えて欲しいの。積極的強引なのは、時にはぴぇってなっちゃうの。
エンジェリアは、周りの勘違いされているが、今のフォルが怖いわけではない。以前、こうなったフォルに迫られてから、同じ事が起こるかもしれないと警戒しているだけだ。
だが、それをフォルに説明する事はエンジェリアにはできない。
「……嘘ではないみたいだな。なら」
「え、エレは……むにゅぅなの!もっとゆっくりじゃないとむりなの!今のフォルは、ゆっくり考えてくれないの」
「……離れられるのはいやだ。だから、君のペースに合わせる」
「ふにゅ。それなら良いの。じゃあ、ぎゅぅでなでして」
エンジェリアは、フォルに撫でられながら、他に神獣の仲間がいないか確認する。
――声は聞こえない。足音も。逃げたのかな。
「気になる?また来ないか」
「ふにゅ」
「来れないよ。転移魔法が使えない場所に送ったから。君は何も気にしなくて良い」
「……熱、まだ高いの。早く帰って休む」
先程まではそれどころではなく、気にしていなかった。だが、フォルがエンジェリアに合わせてくれると言い、平静を取り戻したエンジェリアは、抱きしめられているフォルの体温がいつもより高い事に気がついた。
エンジェリアが、戻ろうと促すが、フォルが動こうとしない。
「フォル?」
「戻ったら寝てろって言われるからやだ」
エンジェリアの背後で拗ねているフォルに、思わず笑いそうになるが、笑いを堪えた。
「寝てないとなの。エレが暇にならないようにお話いっぱいしてあげるから、大人しく寝てるの……愛姫命令なの!」
「思いついたように言うそれに、何か効力があるとでも?」
普段のフォルであれば、愛姫命令と言えば、大人しく戻ってくれただろう。だが、今のフォルにはそれは通用しないようだ。
――エレ、お願いって言え。命令よりも、お前の場合お願いの方が強い。
ゼーシェリオンから共有で送られた言葉。
「ふにゅ。お願いなの。愛姫のお願い」
「愛姫のお願いに効力ない」
「ぷにゃ⁉︎なんとしてでも戻りたくないという意思を感じるの」
「フォル、戻って休め」
ゼーシェリオン達が、走ってエンジェリア達の方へ来た。
いくらエンジェリアの頼みを聞かずとも、兄であるフィルの言葉であれば聞くだろう。エンジェリアは、こくこくと頷いて同意している。
だが、返ってきたのは
「エレが、僕にキスしてくれるなら帰ってやって良いよ」
「ぷみゃ⁉︎さ、さっき、エレのペースに合わせるって言ってたの」
「うん。だから、キスだけで良いよ。君にとって、すりすりの方が上なんだろ?」
「みゅぅぅぅ」
キスをするのは恥ずかしい。だが、それさえすれば、フォルが大人しく部屋に戻ってくれる。であれば、エンジェリアに残された選択肢など一つしかない。
「……ちゅ」
エンジェリアは、フォルの方を向いて、頬に口付けをした。
「ここ。それ以外は認めないから」
「ふぇ」
「ここは、エレの愛情表現の中でも、低かったんじゃないの?」
「ず、ずるいの」
フォルが、人差し指で唇に触れる。そこ以外は認めないと。エンジェリアは、顔を真っ赤に染めて、唇を重ねた。
「こ、これで、良いでしょ」
「うん。満足。じゃあ、仕方ないから戻るか」
「ふにゅぅ」
「戻る時は、ずっと僕の手を握っている事。そうしないと動かないから」
「脅しなの⁉︎フォルがエレを脅してるの⁉︎」
エンジェリアは、フォルに手を握って、一緒に戻った。
部屋に戻ると、綺麗だった部屋の中が荒らされていた。