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星月の蝶  作者: 碧猫
4章 契約
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12話 頼れ


 神獣の聖地へ帰ってから、エンジェリアは、資料を見ながら、フォルの様子を見ていた。


「熱高いの」


「しばらくすれば引いてくる。それにしても、かなり腫れている。エレ、塗り薬持ってる?」


「持ってないの。エレ、治す」


「治さなくて良い。厄介な魔法の影響で長引くだろうが、安静にしていれば治る。それに、その魔法が邪魔して治せないだろう」


「みゅぅ」


「それより、フォルが目を覚ます前に、資料を全て見ておく」


 フォルが目を覚ました時、まだ資料を全て見ていなければ、自分もやると言い出すだろう。


 エンジェリア達は、フォルを休ませるためにも、寝る間も惜しんで、資料を見た。


      **********


 資料を読み終わって、エンジェリアは、ゼーシェリオンと一緒に入浴を済ませた。


 戻ってくると、フォルが目を覚ましていた。


「エレは猫より兎が似合いそうだ」


「犬とかも意外と似合うと思うよ。ゼロは、黒猫かな」


「分かる」


 エンジェリアとゼーシェリオンがいないのを良い事に、フォルとフィルは、エンジェリア達がどんな動物が似合うかと楽しく話している。


 ――なぁ、フォルはハムスターでフィルは


 ――オオカミなの。あのケモ耳は似合いそうなの。


 ――そうだな。


 エンジェリアとゼーシェリオンは、事前に合わせるため、共有で会話した。その後、二人で、小声で「せーの」と言い


「フォルはハムスターでフィルはオオカミなの」


「フォルはハムスターでフィルはオオカミだな」


 と、同時に言った。


「ゼロ、エレは、ヨージェアナとお話行くから、ゼロも一緒に来るの」


「あ、ああ。急だな。いつもの事だが」


 エンジェリアは、ゼーシェリオンの腕を引っ張り、部屋の外へ出た。


「相変わらず強引だな」


「そういうとこも好きだけどね」


 ――エレ、バレてるぞ。


 ――良いの。バレてても良いの。ちょっと寂しいけど、兄弟だからこそ言える事ってあると思うから。ゼロも、そうじゃ無いの?


 ――……エレは、俺らみんなの大事な妹だ。だから、エレがそういうふうに気にしなくて良い。


 ――エレに家族なんていないから、それは嬉しいよ。でも、妹に色々と相談してくれるおにぃちゃんは少ないと思うの。


 エンジェリアは、共有で会話をしながら、ゼーシェリオンに猫パンチをお見舞いした。


 ――なんでそうなるんだよ。今回は何も言ってねぇだろ。


 エンジェリアは、無言で、共有でも何も言わずに、ゼーシェリオンに猫パンチを繰り出している。


 ――つぅか、お前、ヨージェアナがどこいるか知ってんのか?


 ――知らない。だから、早く探し行くの。


 エンジェリアが、ゼーシェリオンを連れて行こうとすると、扉が開いた。


「フォルから、話したい事はあるから、二人とも変な気遣いやめてこっちにこいと」


「ふにゃ⁉︎き、気遣いなんて、そんなの知らないの」


 突然開いた扉に驚き、エンジェリアは、分かりやすすぎる嘘をついて、ゼーシェリオンの背に隠れた。


「エレ、来てくれないの?」


「ふにゅぅ。来るのー。でも、ヨージェアナも探すの……ふぇ⁉︎エレ足りないの⁉︎」


 自分で探すという事しか頭になく、エンジェリアは、あわわと困惑する。


「おれが探しておく。エレとゼロは、フォルと一緒にいてやって欲しい」


「ふにゅ。じゃあ、このゼロを献上するの。ゼロ、ヨージェアナは優しいから気にしてるかも。だから、お願いして良い?ゼロが一番適任だと思うから」


「ああ。愛姫様のお望みであれば。フィル、俺も一緒に探す」


「そういう事なら、それが良いだろう。エレ、薬を作る材料は置いてある。あとは頼んだ」


「みゅ。いってらっしゃい」


 エンジェリアは、ゼーシェリオンとフィルを見送ってから、部屋に戻った。


      **********


「フォル、フォルの可愛いエレが来たの。ゼロは、用事でいないけど、エレが一緒なの」


 エンジェリアは、フォルの隣に来て、手を握った。


「フォル、あの人達はどうなるの?関係ない人達まで巻き込んでいるから、とっても重い罪になるの?」


「……()()()()()()()()()()()()()()()()()から、そこまで重い罪に問われる事はないと思うよ」


「ふぇ?」


「……」


「……ふにゅ。そうなの。エレは自分で転んだだけなの。だから、関係ないの」


 エンジェリアがそう言うと、フォルは、エンジェリアを抱きしめた。


「ふぇ⁉︎」


「ありがと。君のおかげで、まだ取り返しがつく段階でどうにかできそうだ」


「無理しちゃだめなの。エレ、いっぱいお手伝いするから。だから、エレを頼らないとだめなの」


 エンジェリアは、瞳に涙を溜めてそう言った。


 事態を収めるためにも、フォルは神獣達の悪行を公表するのだろう。それは、危険と隣り合わせの事。今回以上にフォルが無理をするかもしれない。それは、エンジェリアとしては、絶対に避けたい事だ。


「うん。君を悲しませたくはないから、これ以上無理はしないよ。にぃ様達に協力してもらう」


「ふにゅ。エレも協力するの」


「エレは……僕の側にいてくれるだけで良いよ。頼りないとかじゃなくて、しばらくは使うのを控えるから、何かあった時、君の力が必要だ」


「ふにゅ。分かったの。エレが側にいて、守るの」


「うん。ありがと」


 フォルが、エンジェリアを離して、笑顔を見せた。


 フォルがその力を使うのを控えるとなれば、誰かがフォルを守る必要がある。その人物に、フォルが直接エンジェリアを選んだ。


 エンジェリアは、真っ赤になった頬を両手で隠した。


「ほんと、可愛すぎ。エレ、アディとイヴィにも協力頼めるかな?」


「ふにゅ。やって言っても、愛姫命令とか言って頼むの。フォルの頼みだからなんだって聞くの。だから、フォルは、エレにらぶを与えているだけで良いの」


 黄金蝶としての在り方があるフォルは、エンジェリアがどれだけ頼んだとしても、本気でそれに応じる事はない。そんな事は分かっている。今回も本気で応じる事はないだろう。


 そう思いながら言った。


 だが、フォルは、予想外の行動を見せた。


「そうだな。僕の可愛い婚約者なんだ。逃げないように、らぶを与えないとだ」


「ふぇ⁉︎」


 唇が重なる。その時間は、数十秒だが、エンジェリアには、長い時間だった。


 今にも沸騰しそうな程真っ赤な顔で、エンジェリアは、フォルを見つめる。


「いくら勉強嫌いでも、このくらい知ってるだろ?」


 フォルが、悪戯な笑みを浮かべて、エンジェリアの頬に触れた。


「ふぇ」


「ふふっ、これだけで真っ赤になるなんて」


「ふにゃ⁉︎」


 フォルが、エンジェリアの首筋に口付けをする。


「エレ、大好き」


「え、エレも、フォルが大好き」


「嬉しい。じゃあ、好きの証にエレの方もちょうだい?」


「ふぇ」


 エンジェリアは、恥ずかしがりながらも、フォルと唇を重ねた。数十秒重ねると、さっと離れた。


 かつて、ジェルドが使っていた契約の一つ。唇を重ね、魔力を与える事で、その相手を自分のものとする契約方法。


 それに何の効力もないのだが、愛の証として、ジェルドの間では使われていた。


「絶対に逃したくないから」


「ふにゅ……ふぇ⁉︎」


「少しくらい、本気で求めても良いよね」


 フォルの積極的な行動にエンジェリアはついていけず、限界を達した。


「ふにゃり」


      **********

 

「やりすぎたか」


 エンジェリアが、真っ赤な顔で倒れた。フォルは、エンジェリアを支えた。


「何をしてるんだ。怪我人が無理して」


 ヴィーが出てきて、呆れた表情を見せる。


「バレてたか。エレにはあれで誤魔化せたんだけどな」


「あの子は単純だから誤魔化せただけだ」


「ヴィー、君聖獣になった時に変な喋り方するようになったけど、あれどうしたの?」


「やめた。それより、寝ていろ。エレの代わりに面倒見てやる」


 フォルは、エンジェリアを隣に寝かせ、寝転んだ。


「まだ熱があるのか?」


「うん。全然下がってない」


「薬、作ろうか?」


「いらない。飲んで中途半端に良くなって動いていたら、フィルにまた怒られる。また心配される」


 エンジェリアとゼーシェリオンが入浴中、フォルは、フィルに怒られていた。かなり心配されていた。


 エンジェリアとゼーシェリオンが来たのに気づいて、話題を変えたが、それまではずっと、フィルはフォルを叱っていた。


「ヴィー、君って、何かおすすめの本とか持ってる?暇だから、本でも読んでいたい」


「残念な事に、俺は本を読む事が少ないんだ。何か良い本があれば知りたいくらいだ」


「読むのは好きなの?」


「好きだ。ただ、人の身であった頃から、読む時間が無くて読めていなかった」


 ヴィーは聖獣になる前、ある国の騎士だった。若くして、騎士団長に推薦されたが、それを蹴って、近騎士として長きにわたり国に忠誠を誓っていた。

 姫から信頼を得て、特別任務を与えられていたため、特別忙しく、本を読む時間が無かったのだろう。


「なら、今度おすすめの本を紹介するよ」


「感謝しよう……フォル、暇だから、これを見ても?」


「良いよ。何か気づいた事あったら教えて」


「了解した。ここにいるから、何かして欲しい事があればいつでも言ってくれ。たまには、子供らしく、大人を頼よれ」


 ヴィーは、そう言って、机に置かれていた資料を手に取った。


「子供って見た目だけでしょ」


「大人に頼った事のない子供だろう」


「それは、そうかもだけど」


「だから、たまには頼れ」


「……うん。ありがと」

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